なにが出るかな?馬屋原剛詰将棋作品集「ガチャポン」作品紹介|将棋情報局

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なにが出るかな?馬屋原剛詰将棋作品集「ガチャポン」作品紹介

詰将棋作品集「ガチャポン」、ただいま絶賛予約受付中です!

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 本書は詰将棋作品集には珍しく、可愛いイラストがあしらわれたワクワク感溢れる表紙となっています。題名の「ガチャポン」は収録作の作品名から取られたものですが、どんな作品が飛び出してくるかわからない本書の内容もよく表しています。


著者の馬屋原さんは短編から長編まで広く手掛けるオールラウンダーな詰将棋作家。多分野で素晴らしい作品を数多く発表しています。
中でも長編の創作で看寿賞を受賞するなど力を発揮されていますが、今回はあえて短編から3作ご紹介したいと思います。短編と言えど侮ることなかれ。馬屋原さんの作風を存分に味わうことができます。

 

世界一難しい1手詰?!


「世界一難しい〇〇」というフレーズはとてもキャッチーでつい使いたくなってしまいます。使いすぎには注意が必要ですが、それでも申し上げたい。真に「世界一難しい1手詰」は本書収録の第30番ではないかと考えています。
1手詰ですので、初見の方は解答をご覧になる前に是非一度ご挑戦ください。

第30番 第26回詰将棋全国大会詰ー1グランプリ 2010年7月

角をどこに打つのかが問題です。よく見ると盤面と攻方の持駒に40枚全て出払っており、受方に持駒はありません。

まずは最遠打をしてみるのが定跡、▲1九角と打ってみます。合駒がなく、相手玉は動けないので一見詰んでいるようですが、△2八香成▲同角△3七香成の移動合がこの手の作品の常套手段。香2枚を消去して1三角の利きが通ったので、▲3七同角に△4六歩で逃れます。


その他にも候補はたくさんありますが、▲9九角には、△8八桂成▲同角△6六香で逃れ。


▲9一角は△8二銀が9六飛による逆王手で逃れ。


▲3三角は△4四桂が1二飛による逆王手で逃れとなります。


そこで、中途半端な位置に打つ▲7三角が正解です!△6四香は▲同角成と取られてしまうだけで意味がなく、他に手もないため詰みとなります。
 
世界一難しい1手詰の条件として、以下の3点が挙げられると考えます。
①着手の候補数
②紛れに対する受けの見えにくさ
③解答者心理の裏をかく

①本作は相手玉を5五に置くことで、角の打ち場所を最大化することに成功しています。候補手が多いと、必然的に思考の量も増えることになります。
②ただ候補手が多くてもすぐに詰まないことがわかるようだと、底が浅くすぐ正解に辿り着かれてしまいます。その点本作は、それぞれの紛れに対して違う逃れ筋を用意しており、不詰の判断が容易ではなくなっています。
③詰将棋慣れしている人だと、図面を一目見ただけで急所がわかってしまうので、その直感を外すことが大切になります。本作の場合は最遠打から考えたくなるため、中途半端な位置の限定打を正解に設定することで、解答者心理の裏をかいていると言えます。実際、解答競争で複数の強豪解答者がお手付きをしてしまうなど、作者の思惑は成功したようです。

以上の3点の総合力で上回る1手詰は他になく、本作は正真正銘「世界一難しい1手詰」と言えるでしょう。
詰将棋特有の逃れ筋と、解答者心理を巧みに利用した作品でした。

【第30番解答】
▲7三角まで1手詰。

 

7手に詰め込まれた超絶技巧



第64番 「欺きの一角獣(ユニコーン)」 第n回裏短編コンクール 2015年11月

<ストーリー>
独裁的な王が統治する国。革命軍が王の暗殺を企てるも、仕えるは獰猛な一角獣、一筋縄ではいかない。そこで一計を案じ、駿馬に偽の(つの)をつけ一角獣へと変装させ、懐に潜り込ませた。はたして欺きは成功し、二頭の一角獣は戯れる。機を見た革命軍の大将は、その身を挺して護衛の一角獣の気を逸らす。その刹那、馬の変装が解かれるがはやいか、偽の(つの)は王の胸元を貫いていた。革命は成功し、国には束の間の平和が訪れたのであった……。

発表当時の作者の言葉を引用させていただきました。ストーリーが付いているのは、本作に対する作者の自信の表れ。名文に引けを取らない素晴らしい手順が展開されます。

初手▲1三角成は△3六角成▲4三銀不成△3三玉で打歩詰。


そこで、初手は2三への利きを作らないように▲1三角不成とします。今度△3六角成▲4三銀不成△3三玉には、▲3四歩△2三玉▲2二桂成までの同手数駒余り。また、△3六角成▲4三銀不成に▲2五玉と逃げるのも、▲2六歩△同馬▲同飛までの同手数駒余りとなります。


よって、2手目△3六角不成と受方も不成で返すのが好防です。これなら2六への利きがないので、▲2六歩が打てません。
▲4三銀は△2五玉で逃れるため、▲2六桂と手を変え△2五玉に▲4五飛が気持ちの良い決め手です。皮肉にも△3六角不成と取ってしまったために、△4五同角の時に横への利きがなく▲3五角成までとなります。

「歩打ちなし打歩詰利用双方不成7手」が本作の狙い。
ただでさえ難しい双方不成をたった7手で、かつ変化に不成の意味付けを隠すという凄まじいテーマです。実現するだけでも称賛されるべき偉業ですが、角成には角成、角不成には角不成で対応するという表現や、飛車捨てまで入ってしまうとは驚くしかありません。
高度な手順構成と、それを成立させる論理構成があまりにも見事。馬屋原さんの高い創作力を示す一作と言えるでしょう。

【第64番解答】
▲1三角不成△3六角不成▲2六桂△2五玉▲4五飛△同角▲3五角成まで7手詰。
 

5五歩引



第98番 詰将棋パラダイス デパート 2020年4月 第8回春霞賞佳作

歩が後ろに動くことができれば、5四の歩を動かし▲5五歩までの1手詰...ですが、将棋のルール上そんな動きはできません。しかし、そんな不可能を可能にしてしまうのが馬屋原剛という男です。

初手は1七桂に狙いをつけて▲1六馬とします。単に△4四玉は、▲1七馬△3五歩合▲3三竜△5五玉▲6五馬△4六玉▲5八桂△3六玉▲3五竜まで同手数駒余りなので、△2五歩合▲同馬と近付けてから△4四玉と逃げます。


次に、左の馬を活用して▲8八馬とします。▲7七馬だと7八香の利きを遮ってしまい変化が詰みません。▲8八馬に△5五金合は、▲同馬△同玉▲4五金△6六玉▲7五銀まで同手数駒余りのため、△5四玉と逃げるよりありません。


そして一気に進みますが、△5四玉▲5五歩△4四玉▲2六馬△4三玉▲8七馬と進んだ局面。
よく見ると、初形から5四歩だけが一つ後ろに下がったような格好で詰め上がり、▲5五歩引までの1手詰(?)が実現しました。
馬を細かく動かしている間に、微小の変化が起こっており、マジックを見せられたような気分です。


本作は同じく詰将棋作家である長谷川大地さん提案の「詰上がり図が、初形から歩が1枚後退しているだけ」というテーマから生まれた課題作。馬屋原さんは課題作の創作に滅法強く、どんな難条件でも恐るべき剛腕で実現してしまいます。

【解答】
▲1六馬△2五歩合▲同馬△4四玉▲8八馬△5四玉▲5五歩△4四玉▲2六馬△4三玉▲8七馬まで11手詰め。

以上、馬屋原作品3作の解説でした。
今回は短編のみの紹介でしたが、中長編では表現の幅が広がり、馬屋原さんの代名詞でもある馬鋸が絡む趣向作や、記録作、タスク物、構想作などなど、さらにバラエティに富んだ作品が登場します。
第57番「ガチャポン」では面白い手順の表記が採用されており、解説ページからも目が離せません。
馬屋原さんと共に最前線を走る若手作家達による、力のこもった寄稿も必見です。馬屋原さんが詰将棋界にどれだけ大きな影響を与えているのか、他の作家から意識されているのかを感じ取っていただけると思います。
非常に読み応えのある内容となっていますので、是非手に取って読んでいただければと思います!
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