伊藤匠叡王が世田谷区役所に表敬訪問「世田谷を盛り上げたい」|将棋情報局

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伊藤匠叡王が世田谷区役所に表敬訪問「世田谷を盛り上げたい」

取材・撮影/田名後健吾

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 第9期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)に挑戦し、藤井聡太叡王から初タイトルとなる「叡王」を奪取した伊藤匠叡王が6月27日、師匠の宮田利男八段とともに地元の東京都「世田谷区役所」を表敬訪問し、保坂展人(のぶと)区長と対面。タイトル獲得を報告した。
保坂区長からヒマワリの花束と奨励金を手渡された伊藤叡王は、「このたび、叡王戦でタイトルを奪取することができました。生まれた時からずっと世田谷で育ってきた自分が、こうして保坂区長にご報告できまして大変うれしく思っております」と挨拶。
保坂区長は「改めておめでとうございます。藤井八冠から叡王を奪取されたと多方面から連絡が入り、大変喜んでいます」とねぎらいの言葉をかけた。


左が保坂展人世田谷区長

セレモニーの後、しばし歓談の時間が設けられ、伊藤叡王の少年時代の話から和やかに始まった。
区長「将棋は小学校に上がる前から?」
叡王「はい。5歳の頃から、将棋一本で取り組んできました」
区長「世田谷区で育ち、いまも在住されているそうですが、三軒茶屋の宮田先生の将棋道場(三軒茶屋将棋倶楽部)には歩いて通っていらっしゃったとか」
伊藤「そうですね。家から歩いて行ける距離でした」
区長「宮田先生の道場に入られたのはいつ頃ですか?」
宮田「幼稚園の頃からです。その時からお強い少年だなと」
区長「ははは。当時から光る才能を感じましたか?」
宮田「才能も感じましたが、それよりもまず将棋が本当に好きなんだなっていうのが分かりましたね。ただ、最初は私のことを怖がっていた時期もあるんですよね」
区長「宮田先生はそんなに怖かったのですか?」
伊藤「そうですね、見た目がちょっと…(笑)」
区長「はははは」
伊藤「でも、いまは、教室の子どもさん達と遊んでいるような感じで優しいです」


伊藤叡王は、2020年10月に四段になった時、宮田師匠が開いてくれたパーティーで「3年以内にタイトル戦に挑戦します」と誓いを立てた。その公約は、昨年の竜王戦、今年春の棋王戦で果たされたが、いずれも藤井八冠に完敗を喫し、タイトル獲得までには至らなかった。
しかし、今回の叡王戦五番勝負では、藤井叡王をカド番に追い込み、その後フルセットにもつれ込んだものの、甲府市の第5局に勝利し叡王を獲得。藤井八冠の一角を崩すことに成功した。



区長「今回の叡王戦は『(今度こそ)獲るぞ』という感じはあったのですか?」
伊藤「いえ、シリーズが始まる前は、竜王戦や棋王戦の時ほど強い気持ちはあまりなかったんです。でも、1つ2つ勝つことができて、(もしかしたら)自分にもチャンスが出てきたのかなと思いました」
区長「師匠の目では、叡王戦をどう見ておられましたか?」
宮田「そろそろ(初タイトル)かな、というふうには思っていました」


和やかな歓談の様子

区長「今年のシモキタ名人戦では、ファンからずいぶん『がんばって』との激励の声があったと聞いています」
伊藤「はい。叡王戦の最中(注:1勝1敗の時)に参加しましたが、いろんな方に声をかけていただいて、とても励みになりました」
区長が言及した「シモキタ名人戦」とは、2012年から毎年ゴールデンウィークに下北沢で開催されている名物イベントで、将棋をはじめ囲碁・チェス・オセロ・バックギャモン・連珠・麻雀など、世界のクラシックゲームの祭典として、現在では将棋ファンのみならず全ボードゲームファンに広く知られている。将棋界からは森内俊之九段を始め、毎回大勢の棋士が参加しているが、伊藤叡王も世田谷区民として2年前から協力するようになった。
この表敬訪問には、シモキタ名人戦の発起人で実行委員長を務める下平憲治氏、主催団体の下北沢東会あずま通り商店街会長の金子健太郎氏、実行委員のメンバーで画家の山脇浩子画伯も祝福に駆け付けた。
金子氏は「うちのイベントから、こうして将棋界のスターが生まれたということは、地元の誇りです」と目を細めた。
また山脇画伯は、第11回(2022年)シモキタ名人戦で世田谷区政90周年にちなんで伊藤が「90面指し」をした際にその様子を描いた水彩画を、伊藤叡王に記念品として贈呈した。



第11回シモキタ名人戦(2022年)で「90面指し」に挑戦した伊藤(2枚とも撮影・相崎修司)

そして、宮田八段とも親交のある下平氏は「宮田先生はお弟子さんに厳しく、『タイトルを取るまではお酒はダメ』と指導されてきたので、それが実られたことを嬉しく思います」と、師匠の指導方針が正しかったことを称えた。
氏の話を補足すると、宮田八段には伊藤叡王を始め3人のプロ棋士の弟子(本田奎六段、斎藤明日斗五段)がいるが、日頃から「(若いうちは)酒とギャンブルだけは絶対にダメだぞ」と厳命しており、宮田一門の鉄の掟となっている。
その背景には、棋士としての一番大事な時期を酒とギャンブルでフイにした自身の経験から、弟子たちには同じ轍を踏んでもらいたくないという強い願いがあり、それだけ大きな期待をかけているのだ。
昨年9月に開いた一門パーティーでは、酔いの勢いで「本田よ、斎藤よ、伊藤よ、いまのトップ棋士の藤井聡太とタイトル戦を戦ってくれ。俺はもう70歳なんだから、あと5年以内に頼んだぞ!」と叱咤激励していた。


昨年9月に竜王戦挑戦を激励して開かれたパーティーにて。右が宮田八段(撮影・田名後)

今回の叡王獲得で、一門からついにタイトルホルダーが誕生。
保坂区長が「伊藤さんが藤井八冠からタイトルを取ったということで、(一緒に)祝杯をあげられましたか?」と水を向けたところ、宮田師匠は「いや、まだお酒はダメです」とキッパリ否定。
「あと何年間はまだ強くなれますから、それまでは我慢してほしいです」と付け加えた。その言葉には〈伊藤の本当の活躍はまだまだこれからだ〉との自信を感じさせた。
区長「伊藤さん、守れそうですか?」
伊藤「そうですね。自分自身、そんなにお酒を飲みたいとは思いません(笑)」



歓談の最後に保坂区長は、「94万人の区民の中には、伊藤さんが世田谷で生まれ育って棋士になったことをまだ知らない人も多いので、これから町をあげて応援できるようにしたいと思います」とし、「小中学生が参加できる大会もたくさんあるので、伊藤さんにはぜひ顔を見せていただき、子どもたちに激励や指導をよろしくお願いします」と要請。
伊藤叡王は「自分も子どもの頃に世田谷区の将棋大会によく出ました。今度は棋士として盛り上げていきたいです」と答え、イベント等への積極的な協力を約束した。


山脇画伯(右)から絵画作品を受け取る伊藤叡王(写真はコピー。実物はもっと大きな作品だそう)

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