【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2024年2月編|将棋情報局

将棋情報局

【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2024年2月編

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中

皆さんこんにちは。「他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ」でおなじみの編集部島田です。

将棋情報局ゴールドメンバー限定記事「編集部島田が綴る 今月の藤井聡太」第18弾でございます。2月は王将戦が終わり、棋王戦が始まりました。また、朝日杯の準決勝、決勝が行われました。

対局以外の大きなニュースと言えば、何といっても藤井先生が「徹子の部屋」に出演されたことでしょう。まさかトーク番組に藤井先生が出る日が来るとは思いませんでした。
49年目に突入するという歴史ある番組ですし、野間出版文化賞の授賞式で黒柳徹子さんに直々に出演オファーされてはさすがの藤井先生も断れなかったということでしょうか(笑)

皆さんもご覧になったと思いますが、藤井先生が初めて出演されるトーク番組が「徹子の部屋」で本当に良かったと思いましたね。黒柳徹子さんがぐいぐい引っ張ってくださって、藤井先生もやりやすかったと思います。そんなにすごい話をしているわけではないんですけど、場がとてもいい雰囲気に包まれていて、観ているだけで幸せな気持ちになる番組でした。
普段あまりテレビを見ないので知らなかったんですが、芦田愛菜さんとマツコさんもめっちゃいい人で頭も良くてファンになりました(単純)。
あと、今でも「徹子の部屋」のオープニングテーマ「たーかい、声を出すとき、寄り目にならないように」が頭から離れません。そして、藤井先生が黒柳さんからプレゼントされた招き猫がかわいかったので、普通にほしいです。

・・・と、番組の感想をつれづれなるままに書いたところで、勢いをつけて今月の藤井聡太、行ってみましょう!!

2月の藤井先生の対局は以下の通りです。

2月の対局まとめ

4日 棋王戦五番勝負第1局 伊藤匠七段戦 引き分け
7、8日 王将戦七番勝負第4局 菅井竜也八段戦 勝ち
10日 朝日杯将棋オープン戦 糸谷哲郎八段戦 勝ち
10日 朝日杯将棋オープン戦 永瀬拓矢九段戦 負け
24日 棋王戦五番勝負第2局 伊藤匠七段戦 勝ち
ということで、2月は5局戦って3勝1敗1分けでした。引き分けがあるのが珍しいです。そして相変わらずよく勝たれております。
勝率に関しては藤井先生もすごいんですが、「なぎ様」こと藤本渚四段がそれ以上にすごいので注目しています。藤本四段は王位リーグにも入っているので、タイトル戦で藤井先生と戦う日も遠くないかもしれません。楽しみですね。

それでは、藤井先生の2月の将棋を1局ずつ振り返ってみましょう。

紋を呼んだ持将棋

4日 伊藤匠七段戦
第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負(共同通信社と観戦記掲載の21新聞社主催)第1局

序章 同年代対決第2ラウンド
藤井先生に伊藤先生が挑戦する棋王戦五番勝負が始まりました。竜王戦は藤井先生のストレート勝ちという結果に終わりましたが、それを踏まえて今回伊藤先生がどのように戦うかが注目されました。そして、本局は皆さんご存知の通り大きな話題を呼ぶことになります。

第1章 藤井スペシャル
本局は藤井先生の先手番、そうと決まれば目指すは角換わり「藤井スペシャル」です。前回のおさらいになりますが、「藤井スペシャル」とは角換わりの39手目に▲6九玉と指す作戦のことで、この手が非常に優秀であるため角換わりは先手の勝率が高く、後手が対策を求められているという状況にあります。

このことは藤井先生自身もインタビューでおっしゃっていました。この手を示したのはAIなので藤井先生は「私が考えたわけじゃないんですけど」と謙遜されてましたが、この作戦の優秀性を世に知らしめたのは間違いなく藤井先生なので、「藤井スペシャル」と呼びたいです。

さて、角換わりはそのような状況にあるので、最近の角換わりは後手が「藤井スペシャル」にならないようにその前で変化する、というパターンが多いのですが、伊藤先生は藤井先生の「藤井スペシャル」を受けて立つ選択をしました。カッコいいですね。

竜王戦を踏まえた今シリーズの伊藤先生の戦い方として「真っ向勝負を避ける」というやり方も十分考えられました。しかし、伊藤先生のなかで真正面から藤井先生に勝たなければ意味がない、という信念があるのだと思います。ミスチルの歌詞でいうと「高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな~」という感じでしょうか。

第2章 まさかの持将棋
本局は角換わりから激しい変化になり、先手玉が上部に脱出して入玉模様となります。先手玉が詰まされる心配はなくなったので、あとは後手玉を寄せればいいのですが、ここからの伊藤先生の指し手がうまく、藤井先生をもってしても寄せきることはできませんでした。
結果として、お互いの玉が詰まなくなり、持っている駒の数を競う点数勝負でも差がつかなかったため、持将棋引き分けという結果になりました。そして、この結末が対局後に大きな議論を巻き起こしました。論点が多いので本局を理解するための島田ポイントを書き出してみます。

(1)伊藤先生ははじめから持将棋を狙っていたわけではない
これは次の将棋世界を読むとわかります。「持将棋狙い」という言葉が独り歩きしてましたが、あくまで藤井先生の指し方を見て途中から持将棋が最善と判断した、ということですね。

(2)持将棋は後手にとって得
最初から引き分けを狙ってどうする、という意見もありましたが、厳密にはイーブンではなく、後手で持将棋にすることはシーズンにおける先手番の回数を増やせるので得です。
まぁもちろん先手番で勝てるかどうかというのは別問題なんですが(;^_^A、将棋は統計的に先手有利のゲームなので、期待勝率が高まっているのは事実です。後手番で千日手を狙うのと同じですね。

(3)実際、持将棋にできる技術がスゴイ
伊藤先生は途中から持将棋を狙う方針に切り替えたわけですが、だからといって持将棋にするのは並大抵の技術でできるものではありません。この将棋は先手(藤井先生)が入玉するのは比較的簡単なのですが、後手(伊藤先生)が入玉するのはとても難しいのです。
本局の直後に徳田先生に感想を聞いてみたのですが、「伊藤さんがすごすぎてドン引きしました」とおっしゃってました。

(4)AI評価値との違い
本局を観戦していて、評価値は先手の藤井先生に振れていたのに引き分けになってしまってあれ?と思われた方もいるかもしれません。これはコンピュータ将棋のルールとプロ公式戦のルールが違うためです。このルールの違いは普通の将棋ではあまり関係ないのですが、持将棋が絡んでくると差が出てきます。「ルールの違いを突いた」という意味でも画期的な一局と言えると思います。私がこの話を最初に聞いたのは中村太地八段のインタビューだったのですが、聞いた時は正直「そんな微妙なルールの違いが現実の盤面に出ることあります?」と思っていたのですが、こんなにも早く実際に目の当たりにするとは思いませんでした(笑)。観ていてなんで?と思った方は多いと思いますが、対局者のお二人はこの違いを知っていたと思いますので、プレイヤー目線ではあまり驚きはなかったかもしれません。

(5)持将棋を楽しむ難しさ
このことが議論を呼んだ最大の要因かもしれません。将棋というゲームは相手の王様を取ったら勝ちというシンプルでわかりやすいルールが一つの売りなのですが、入玉模様になった瞬間、別のゲームに変わってしまうんですよね。持っている駒の点数勝負になって、観る側にとっては対局者が何を目指しているのかわかりにくくなります。「観ていてつまらない」というのは正直な感想だと思いますし、対局者に全く否はないにせよ、ショーとしては微妙というのは確かにわかります。持将棋の面白さを伝えるというのはメディアの役割だと思いますので、そこは頑張りたいです。また、今後持将棋が頻発するようだと将棋のルールを変える、という話になるかもしれませんが、当分そうはならないでしょう。なぜなら、千日手になる変化を先手が選ばなくなるのと同じように、持将棋になる変化も先手が選ばないからです。

第3章 物語は続く
引き分けという結果でしたが、伊藤先生が「藤井スペシャル」を食らっても倒れなかった、という事実は残りました。本局に関しては藤井先生も「伊藤七段の手のひらの上」とおっしゃっていて、うまくやられたことを認めています。

この結果を踏まえて第2局は伊藤先生の先手番。ここでどんな将棋を見せてくれるのか、とても楽しみになった第1局でした。

また、次に藤井先生が先手番になる第3局がどんな将棋になるかも注目です。「藤井スペシャル」の修正版をぶつけるのか、また違った指し方に出るのか、それに対して伊藤先生はどう対応するのか、始まる前から楽しみでなりません。

藤井先生にとっては最も得意とする形を思わぬ方法で攻略されたので、実際悔しい気持ちはあったと思います。同じ失敗は二度と繰り返さない方ですので、少なくとも第3局が持将棋になることはないでしょう(島田予想)。

もさせない完勝!タイトル20連覇



完全版はこちらで読むことができます。

ゴールドメンバー入会はこちら
    お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。