35歳の現在地 中村太地八段インタビュー|将棋情報局

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35歳の現在地 中村太地八段インタビュー

将棋世界2月号インタビューをチラ見せ

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。編集部島田です。

今回は2023年12月28日に発売となる『将棋世界2024年2月号』に掲載された中村太地八段のインタビュー「私の戦い方」の一部を紹介したいと思います。





「藤井聡太1強時代」といえる状況に突入した将棋界で、トップ棋士の先生が現状をどのように捉え、その中でどのように戦っていこうとしているのか、といったことが伝わる連載になればと思っています。

インタビューはたっぷり1時間半ほど行い将棋世界では10ページほど割いていますが、この記事ではインタビューの中で島田的に印象に残っていることを3つほど紹介したいと思います。

というわけで、今回のメニューは以下の通りです。
 
(1)課題が突きつけられている
(2)新しいツール
(3)棋士として当然

では、(1)からいってみましょー!

(1)課題が突きつけられている
最初のテーマは「課題が突きつけられている」です。こちらは藤井聡太竜王・名人が八冠を獲得した現在の状況についてどう思うか、というストレートな質問に対する中村先生の回答になります。

――現在の将棋界は「藤井一強時代」といえると思います。この状況について中村先生は率直にどのような感想をお持ちでしょうか。

「もちろん、同じ棋士としては羽生七冠誕生時の森下先生のお言葉じゃないですけど、ふがいないというか、藤井さん以外の全棋士に課題が突きつけられている状態ではあります。
ただ、藤井八冠が八冠を達成したことについては、全く違和感はありませんでした。あれだけ高いパフォーマンスで将棋を指していれば、八冠というのは自然な流れだよねと思ってしまうほどの強さです。八冠という結果に対して誰も文句を言えないというか、運が良かったねっていう人は誰もいないじゃないですか。それは単純にすごいことだと思いますし、強い者が勝つという勝負の世界の鉄則の通りといえます。
あの強さにたどり着くことが果たして可能なのか、どういう風に勉強したら、どういう風にやっていったらあそこまで強くなれるのか、というのは難しいところですね。例えば藤井さんの勉強法が全て公開されたとして、同じようにやったとして、果たして藤井八冠のようになれるのかと言われたらそうでもないような気もします。
藤井八冠は努力もすさまじいですし、好きな将棋への好奇心、探究心も強い。もともと持っているポテンシャルもすごい。全てが備わっているという意味で、とても稀有な存在だと思います。
藤井八冠の登場によって将棋界が盛り上がって注目していただいている。これだけ広く一般の方にまで将棋が認知されたというのは他でもない藤井八冠のおかげですので、そこは今の将棋界にいる身としては感謝の気持ちはあります。そうはいっても一人だけが強いままでは業界は盛り上がりませんので、私も含めて棋士がそれぞれに頑張っていく中で、自然と盛り上がりにつなげられればと思っています」

藤井八冠に対するリスペクトと感謝を素直に述べながら、「全棋士に課題が突きつけられている状態」と厳しく現状を捉えているのがわかります。柔らかさと厳しさを兼ね備えた回答は、さすがだなと思いました。

私とは違う(;^_^A、人間としてのバランスの良さを感じた次第です。



(2)新しいツール
続いては「新しいツール」。これは現代将棋の状況を踏まえたうえで、これからどのように戦っていくか、というお話の中の一コマです。個人的にとても興味深いお話だったのでよく覚えています。

――たしかに、序盤はAIの研究が生きそうですが、中終盤の力はどうやったらつくのかわかりません。

「棋譜のデータベース化やAIの登場のように、新しいツールがプロの実力向上の助けになることが歴史の流れとしてあるので、今後年齢を重ねていきますけど、そういう新しいものに拒否反応を示さないで、とりあえず試してみるというのはやっていきたいと思っています。あるいは同じAIを使うにしてもちょっと変わった使い方をしてみるとかですね」

――現時点で何か具体的な方法はありますか?

「これまでの使い方は、序盤の局面の評価値を見たり、AIと対局したり、ある局面を見てこの局面は何点差がついているのかを想像してAIの評価値と自分の感覚の差異を確かめてみたり、といった方法がありました。最近聞いた中で面白いと思ったのはAIに特定の棋士の棋譜を学習させて、その人っぽい手を指すAIを作ることができるらしいんです。そうなれば、対戦相手のシミュレートにも使えますし、自分のAIを作れば、自分自身の弱点を可視化して、それを改善するようなトレーニング法もできるかもしれません。
私は昔解いた詰将棋をもう一回解くことが好きでよくやっているんですけど、そうしたときに前につまづいたのと同じ問題でつまづくということがよくあるんです。何か『思考の癖』のようなものがあるんだろうなと思うので、それを矯正できるようなツールがあれば、もう一段階レベルアップできるような気がします」

・・・どうですか? すごく面白いと思いませんか?
今のAIは強くなりすぎてしまって人間とかけ離れてしまっているところが一つの問題というか、使う上での難しさだと思っていました。藤井聡太竜王・名人が将棋年鑑のインタビューで述べていたように、AIの研究と対人の練習をうまく組み合わせていくことになるのかなと思っていたんですけど、このお話を聞いて、対人練習もAIでカバーできる可能性があるんだなと思いました。
また、「自分自身をAI化することで能力向上を図る」というのは将棋以外の分野でも広がっていきそうで、未来感があってワクワクします。
中村先生は将棋のプロでもありますが早稲田大学をトップクラスの成績で卒業した秀才でもありますので、新しいツールもすぐに使いこなせるはず。

…にしても、将棋強くて頭よくてイケメンって、中村先生いろいろ兼ね備えすぎでしょう(笑)



(3)棋士として当然
最後のテーマは「棋士として当然」です。これは普及についてのお話で出てきたものです。

――少し脱線して対局以外の部分についても聞かせてください。中村先生はトップ棋士として戦いながら、クラウドファンディングやYouTubeでの情報発信など、普及面での活躍が素晴らしいと思っています。本当に大変だろうと思うのですが、こういった活動はやっていていかがですか?

「職業として棋士をやらせていただいているんですけど、これが成り立つのは支えてくださっている関係者の方と、何より将棋ファンの皆様のおかげです。将棋を指してお金がもらえる状況というのは冷静に考えるとすごくありがたいことです。棋士は対局を精いっぱい頑張るのはもちろんのこととして、将棋普及のための活動や発信というのは当たり前にみんながやらなきゃいけないことだと思っています。それぞれ活動の仕方はあると思うんですけど、普及なんてどうでもいいよねっていう風に思う棋士がいるんだとしたら、それは大問題だと思います」

・・・うーん。さすがです。
中村先生はトップ棋士でありながら対局以外の活動が本当に素晴らしいと思っていて、将棋ファンとしては感謝しかないところです。

さぞ大変だろうと思って質問したのですが、「それは棋士として当然」という返答でしたので、感服しました。

ちなみにこのあと「素晴らしいですね」「いやいや」「いや、本当に素晴らしいです」「いえいえいえ」というやり取りが続きました(笑)

インタビュー全体として、基本的には物腰柔らかでバランスの取れた回答だったのですが、時折芯の強さが垣間見えることもあって、「やっぱり中村先生は素晴らしい棋士だなぁ」と思ったのでした。




ここではごく一部を紹介しましたが、このほかにも直近のタイトル戦(王座戦、竜王戦と王将戦の展望)のことや、角換わりや振り飛車などの各戦型の話、藤井八冠の強さの話、AIや将棋の未来の話など様々なテーマで語っていただきましたので、ぜひ全文を将棋世界で読んでいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします!

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