自分は自分のやり方で 渡辺明九段インタビュー|将棋情報局

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自分は自分のやり方で 渡辺明九段インタビュー

渡辺明九段が語るこれからの将棋

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。「勇気がなければ、この世界で何も行うことはできないだろう」でおなじみの編集部島田です。

今回は11月4日発売のムック『八冠 藤井聡太』より、私が聞き手を務めさせていただいた渡辺明九段のインタビューをご紹介いたします。
 
 
まず、藤井聡太竜王・名人とタイトルをめぐって熾烈な争いを繰り広げた渡辺先生が『八冠 藤井聡太』のインタビューに応じてくださること自体が大変ありがたいお話。
失礼だけはないようにと、インタビュー前にはかつてないほど緊張いたしました(;^_^A

いざ始まってみると、渡辺先生がテンポよく、スポーツや競馬などに例えながらしゃべってくださって、とてもいい雰囲気で進めることができました。渡辺先生、ありがとうございました!



さて、今日はそのインタビューの中で特に島田的に印象に残った部分を2つほど紹介したいと思います。

まず、「今後、将棋の勉強法はどうなっていくのか」というお話から。
以下のやり取りをご覧ください。

――AIの研究によって序盤の精度は上がると思うのですが、中終盤での指し手の正確性を上げるにはどういう勉強をすればいいんでしょうか。

「具体的には実戦だったり課題局面を考えてみたり、進行中の将棋を見ながら読んでみたり、ということになるんでしょうけど、こうすれば上がる、というような正解はないと思います。あと、中終盤の指し手の正確性が全員に必要とは限らないですよ。例えば中終盤の正確性はやや劣るものの、それを補って余りあるような何かがあればプロとしてやっていくことはできます。野球でいえば足が速ければ代走として出場できますし、守備が上手ければ守備固めのときに必要とされますよね。結局、自分の長所がどこにあるかということを俯瞰して見極めて、それを磨いていくことが大切だということです。トップを取ろうと思ったら全ての能力を高くする必要があって、それが藤井さんみたいな人なわけですけど、みんなが同じ能力を同じレベルで手に入れようとするより、それぞれの長所を生かしていったほうが個性が出て面白いじゃないですか。だからもし僕が将棋の指導をすることがあったら、まずはあなたの長所はなんですかと探して、わかったらその長所を伸ばしていこう、という感じでやっていく思います」


野球に例えて話してくださって、とてもわかりやすいです。
私は将棋の強さについて、「序盤(既知の局面)の精度」「中終盤(未知の局面)の正確性」という2軸でしか考えていなかったので、必ずしもそれだけではないと渡辺先生に言われて独断のまどろみから覚まされたように感じました。




棋士みんなが同じ方向で頑張るのではなくて、それぞれが自分の長所を見極めて伸ばしていく。終盤だけがめっちゃ強いとか、ある戦型においてすごく詳しいとか。そういうことですね。

AI研究が全盛になって、プロ棋士は角換わりや相掛かりの研究合戦に巻き込まれて窮屈な未来になっていくのかなと思っていたので、渡辺先生から「個性があったほうが面白い」という言葉を聞いて、安心しました。

振り飛車のスペシャリストの菅井先生や、「村田システム」の村田顕先生のように、いろんな棋士がそれぞれの長所を武器に戦っている将棋界はいいなと思いました。ちなみに永瀬先生の長所は「圧倒的な量をこなせる性格」とのことです。これも他の人にはない個性ですね。


さて、印象に残った話をもう一つ紹介させてください。
将棋年鑑の藤井聡太竜王・名人インタビューで、藤井先生は「特定の相手や特定の対局のために研究していない。自分の中で日々定跡作成をしている。その都度作戦を立てている方より自分のほうがラクなはず」というお話をしていました。
これについて渡辺先生の意見をぜひ聞いてみたいと思っていましたので、今回うかがってみました。以下のやり取りをご覧ください。

――藤井竜王・名人は、特定の対局のために研究しておらず、日々自分の中で定跡の更新を続けている。ということをおっしゃっていました。こちらについて渡辺先生のご意見をお聞きしたいです。

「そのスタイルは主流になりつつあると思います。永瀬さんや伊藤さんもそうですし、若手の研究熱心なグループではそのスタイルの人は増えていると思います」

・・・なんと!藤井スタイルは藤井先生独自のものではなく、むしろ現在主流になりつつあるとは。驚きました。いろんな先生の話を聞かないとわからないものですね。

――あ、そうなのですね。藤井竜王・名人独特のスタイルなのかと思っていました。

「私のように相手によって作戦を考えるやり方だと、覚えて忘れるというサイクルを繰り返すことになります。そうすると記憶が定着しないので、いろんな形に対応しづらくなるという面があります。それよりは自分の中での情報量を常に一定量キープして、それを少しずつ増やしていったほうがいいだろうという考え方ですよね。受験生が特定の志望校の過去問ばかり解いていたら、その学校への合格率は上がるでしょうけど、他の学校には合格しづらくなります。それよりは全体的な学力を底上げしておいた方がいろんな学校の問題に対応しやすくなる、という感じですかね。でも実際に入る学校は一つであるのと同じように、将棋もその日に対局する相手は基本的には一人なので、その人に向けた対策をして臨んだほうがいいという考え方ももちろんあります。一長一短あるので、どちらがいいとは一概には言えないと思います」

――人はどんどん忘れていくものなので、覚えて忘れるというのは自然な感じがします。

「そうですね。ただ、一つの形を深く掘り下げると他の形が薄くなるので、穴ができやすいということはあります。それが嫌なので、どの戦型が来てもいいように満遍なくやっておくということなんでしょう。ただ、すごい大変ですよ。これまでの情報を忘れないようにしながら日々定跡を更新しなきゃいけないので」



――そうですよね。私も藤井先生にこのお話を初めて聞いたときは藤井竜王・名人のスタイルの方が大変なんじゃないかと思いました。

「大変だと思いますね。でも藤井さんにとってはそれが当たり前なのかもしれません。そして、藤井さんと同じように考える人が今後は増えていくように思います」


なんと!
藤井先生は「渡辺スタイル」の方が大変だと言っていて
渡辺先生は「藤井スタイル」の方が大変だと言っています。

これはいったいどういうことでしょうか?

おそらく、渡辺先生のおっしゃっるように、「どちらが大変か」という客観的な事実はなくて、その人が「どちらが大変だと思うか」ということなんでしょう。つまり、主観。

そして大切なのは「どちらが自分に合っているか」ということなんですね。

AIが入ってきたからといって将棋の勉強法が画一化されたわけではない。自分に合ったやり方を貫けばいいのだと。つまりは自由。
さっきの長所の話ともつながってきました(^^)



藤井聡太竜王・名人が八冠を独占して、次の話題は「誰が藤井聡太を破るのか」という一点に集中するのかな、と漠然と考えておりましたが、そんなことはない。それぞれの棋士が日々、自分の色で戦っている。

見ている我々は応援している棋士の先生方がそれぞれの強みを生かして、どんな工夫をしてその一局を戦っているのかを楽しめばいい。

将棋の対局は個性と個性のぶつかり合い。
「八冠後の世界」もアツいぞ!と思えたインタビューでした。

本インタビューでは、勉強法のほかにも、王座戦の話、戦法の話、将棋の未来の話など、渡辺先生にたっぷり語っていただいております。「観る将」の方にとっても将棋ガチ勢の方にとっても大変興味深い内容になっておりますので、ぜひ読んでいただければ幸いです。

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よろしくお願いいたします。
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