2023.09.05
細かすぎて伝わらない!『藤井聡太 完全データブック』藤井聡太インタビューの微妙なニュアンスの補足
(1)僕が記録を意識しない理由
(2)大事なことは
(3)可視化
(4)それはちょっとわからない
9月11日に『藤井聡太 完全データブック 令和5年版』が発売されます。
その名の通り、藤井聡太竜王・名人をいろんなデータで振り返ってみた、というものです。藤井先生に関するデータを「ふんふん」と眺めているだけで面白いのですが、ぜひ読んでほしいのが藤井先生の巻頭インタビュー。
藤井先生が自身のさまざまな記録やデータについて語っているので、他では読めない内容になっていると思います。
インタビュアーは私ではないのですが、意味もなくホイホイとついていきましたので、島田視点で印象に残ったやり取りについて、その微妙なニュアンスを補足していきたいと思います。
毎度のことながら藤井愛が止まらないため、随所に気持ち悪さが混入されますのでご容赦いただければ幸いです。
さて、今回皆さんにお伝えしたいのは以下の3つです。
(2)大事なことは
(3)可視化
(4)それはちょっとわからない
勢い余って4つになりました。長い記事になりそうな予感がしますので、腰を落ち着けて読んでいただければ幸いです。
それでは行ってみましょう!
(1)僕が記録を意識しない理由
最初のテーマは「僕が記録を意識しない理由」です。本書は完全データブックではあるんですが、皆さんご存じの通り藤井先生自身は記録に対して執着することがありません。
では、これまでも全く記録を意識したことがなかったかというと、実はそうでもなかった、というお話でございます。
以下のやり取りをご覧ください。
――歴代最高記録の更新が懸かってくると、いつも以上に大きな注目を集めます。報道などから事前に記録が懸かることを知った場合には、対局のモチベーションになることもありますか。
「2018年度の成績が結構これに近くて、3月までは記録更新の可能性がありました」
藤井先生の話の続きを見てみましょう。
「残り3局を全部勝てば記録を更新するということがわかっていたのですが、すると途端に負けてしまいました。それで『意識してもいいことはないな』と(笑)」
このときは周りもかなり騒いでましたので、さすがの藤井先生も意識されたようです。しかし結果は負け。それで悟りを開いたようです(笑)もちろん、これは藤井先生の冗談。
藤井先生が「記録を意識したから負けた」というような言い訳をするはずがありませんし、記録を意識しないのは内容を重視しているからだということを我々は知っています。
まぁこの記事を読んでいる皆さんには補足するまでもないことですが(^^)
対局がほぼタイトル戦になってしまった今、中原先生の記録を破ることはかなり難しくなってしまいました。でも、藤井先生ならやってくれるんじゃないかと思わせるものがあります。
最高勝率記録を更新する可能性について聞かれると藤井先生は「なんというか……。そこを目指すとなれば、実力をもっと高めていかなくてはならないのかな」と、いつものように応えておられました。ガンバレー
(2)大事なことは
のっけからまぁまぁの気持ち悪さが決まったところで次のテーマに行きましょう。続いてのテーマは「大事なことは」。これは対戦相手ごとの勝敗についての質問で現れたお話です。
以下のやり取りをご覧ください。
――負け越している棋士はほとんどいないのですが、深浦康市九段と大橋貴洸七段には2つ負け越しています。そういう相手と対戦するときには、意識されるものでしょうか。
「うーん…、確かに通算成績ではそのような結果になっていますが、かなり前の対局も含まれています。他の方も同様ですけど、それほどこれまでの対戦成績を意識して、という感じではないかと思います」
――直近1局の勝敗が大きいとか、そういうことはないでしょうか。
「それも時期にもよってくるのですけど…。そうですね、相手にうまく指されたなというようなところがあったら、また次の対局ではそれを踏まえてどう戦うのかを考えることになると思います」
では何を意識しているかと言えば、内容なんですね。
誰に負けたか、何回負けたかは問題ではねーのです。
どういう内容で負けたかが問題なのです。
負けたとしても自分がミスをした場合はそこを直せばいい。相手にいい内容で負かされた時に初めてそれに対してどうするかを考える。
つまり、徹頭徹尾、見ているのは盤上。
相手ではなく、将棋を見ているということなのでしょう。
カッコいいですね。
鳩森神社で手を清める藤井先生
(3)可視化
どんどん行きましょう!続いては「可視化」です。
このテーマは、補足というか藤井先生の言葉の使い方が気になる私の趣味のようなものです(;^_^A
以下のやり取りをご覧ください。
――藤井先生は勝率が先後で1割違います。そのことについて、ご自身ではどのように考えていますか?
「(表を見て)本当にぴったり1割なんですね(笑)。私自身の成績としてはおそらく、2021年以降に先手番と後手番の勝率の差が大きくなっていると思います。それまではそれほど差がついてなかったはずなんですけど、それは棋界全体として定跡が進化することで、先手番の有利さが可視化される展開が多くなってきたということなのかと思っています」
ここで私が着目したいのが話の内容ではなく(ないんかい)、藤井先生の「可視化」という言葉の使い方です。
「先手番の有利さが可視化される展開が多くなってきた」とありますが、この「可視化」の使い方珍しくないですか?
イメージとしては「顕在化」に近いニュアンスでおっしゃってると思うんですが、「目に見えるくらいはっきり表れる」という意味で「可視化」という言葉を使われてるんですかね。
だから何?と言われると何もないんですが、藤井聡太研究家として(いつから?)気になったので書いておきました。
(4)それはちょっとわからない
気が付けばもう、ラストサムライです。最後のテーマは「それはちょっとわからない」。実は(3)はこの4つ目のテーマの前座でした。先手番と後手番の勝率の開きについての話の続きになります。
先ほどの話では、2021年以降、藤井先生の先後の勝率の開きは大きくなっているということでした。将棋界全体のトレンドがそうだからでしたね。
そこでインタビュアーはこう続けたのでした。
――これから先は、どんどん差が開いていくのでしょうか。
将棋界全体として同じ傾向が続いていきそうなので、島田としては「まぁそうなのかな」と思っていたのですが、藤井先生の答えは違っていました。「いや、それはちょっと、わからないです」
この答えには若干意表を突かれました。自然な会話の流れに逆らっているように感じたので、ここには藤井先生の意図がありそうです。そうであれば、その意図を考えなければいけません(謎の使命感)。なぜ藤井先生はこのような回答をされたのか?いろいろ考えてたどり着いた私の結論は
「藤井先生は先後ともに勝率10割を目指しているから」です。
皆さんご存じの通り、現在藤井先生は先手番でほぼ負けなしの状態です。
そして常々「後手番での戦い方が自分の課題」だと言っています。
先後の勝率が離れていく、ということは先手番の勝率が10割に近づく、という意味もありますが、後手番の勝率が下がるということでもあります。いくら将棋界全体のトレンドだからといって、藤井先生がそれをよしとするはずがありません。
課題を克服して後手番の勝率が上がっていけば、最終的に勝率は先後ともに10割となり、差はなくなります。
藤井先生は「後手番だから負けてもしょうがない」みたいなことはこれっぽっちも思ってない。
目指すは全戦全勝、しかもいい内容での全戦全勝です。
「いや、それはちょっと、わからないです」という控えめな回答に、藤井先生の意志が宿っている気がしました。
ガンバレー ガンバレー
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
本記事は以上になりますが、このインタビューでは他にも注目ポイントが2つあります。
一つは「藤井聡太が考える将棋の結論」。私の知る限り他のインタビューでは言っていないと思うので貴重です。
さて、藤井先生の思う将棋の結論は「先手必勝」でしょうか?「後手必勝」でしょうか?はたまた「千日手」か「持将棋」でしょうか?気になりますね。
もう一つは「今までで一番うれしかった記録」。藤井先生はあまり自身の記録を意識されていませんが、インタビューの中で、うれしかった記録を一つだけ挙げてくれました。これがまた意外な記録で面白かったです。ヒントは何かの最年少記録。藤井先生の最年少記録は数多くありますが、これを当てられる人は多分いないと思います。あまり表に出ていない記録です。
・・・と、思わせぶりなことを言っておいて、本記事を終わりにしたいと思います(^^)
『藤井聡太 完全データブック 令和5年版』(1,380円+税)、ぜひ手に取って読んでみてください。
鳩森神社で何かを祈願する藤井先生と、それをまぶしそうに見ている島田(枠外)
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