大会の競技方法・その2と持ち時間【将棋大会の基礎知識#5】|将棋情報局

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大会の競技方法・その2と持ち時間【将棋大会の基礎知識#5】

前回の連載では、2勝通過2敗失格予選、スイス式トーナメントという将棋大会で採用される競技方法を紹介しました。今回は将棋大会で意外によくある「総当たり」とその発展形、そして持ち時間について説明します。

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総当たり

●不公平感が少ない
●勝数が並んだ時が面倒

総当たりとはプロの棋戦で言えばA級順位戦や王将戦挑戦者決定リーグなど、そのリーグに属する自分以外の全員と対戦する競技方法を言います。前回紹介した2勝通過2敗失格やノックアウトトーナメント方式は誰と当たるかクジ運が大きく、強豪が集中する組は「鬼ブロック」と呼ばれるのですが、総当たりは全員と当たるので不公平感が少ないのが長所です。

1日で終わる大会であれば総当たり戦の上限は8人(7局)くらいでしょうか。そんなに少人数の大会あるの? と言われるかもしれませんが、棋力別にクラス分けをしたら、あるクラスだけ6人になってしまうこともありますし「中学選抜女子の部県予選」など元々少ない「女子」の「中学生」だけを対象にしたような大会では参加者数人になってしまうのが普通です。

表1は6人での総当たりです。番号はクジで決めることが多いです。表の右から3番目の列に書いたように何番と何番が何局目に当たるか分かるようにしておけば、1戦ごとに手合いを付ける必要もないので運営はラク。私が参加した大会の中には、同じクラスの6人を最初に紹介され「この6人の自分以外の5人全員と対局して下さい。終わったら勝ち負けを記入して下さい。では、声かけあってどうぞ!」というセルフ方式だったことがあり、それでも問題なく終わりました。少人数だけれど、棋力差がありクラスを細かく分けたいときには総当たりは最適と言えます。

順位の付け方は表1のように、勝数が5勝、4勝、3勝、2勝、1勝、0勝が1人ずつになれば、何の問題もなく順位を付けられます。


しかし、表2のように5戦全勝はいなくて、4勝1敗が2人いることになる場合もよくあります。その場合どうするかというと、大会によって、また時間的余裕があるかないかによって違います。

   
例➀ 直接対決の結果で順位を決める。これが一番よくある決め方でしょう。表2では4勝1敗の2人の直接対決では4番の金本さんが2番の飛田さんに勝っているので、金本さんが1位ということになります。
例➁ 同勝数の2人で決定戦をする。時間的余裕があれば、これが納得感があって良いでしょう。
例➂ 同勝数なら同順位として、2人優勝にする。これも納得感はありますが、賞状や賞品なども用意しておく必要があります。賞状は2人とも「優勝」と書いたものをもらえたけれど、優勝賞品は1個しかないので、じゃんけんで決めるなんてことも。
例➃ じゃんけんや振り駒で優勝を決める。あくまでも優勝を1人にしたいけれど、時間はないという場合はこういう結末になることも。
さらには、表3のように三つ巴の結果になることもあります。
 


こうなると、上記例1のように直接対決の結果で順位を決めることもできません。例3のように同勝ち数の3人を優勝扱いにする、例4のようにじゃんけんや振り駒で決めることになります。親睦メインの大会ならまだこれでもいいのですが、県代表1名を決める大会ではこうはいきません。3人でクジを引きノックアウトトーナメント方式(1人は得クジ)で決めるなど、改めて決定戦をするのが一般的です。

たまに、三つ巴の結果になってしまってから、どうしようか運営が相談を始め「仕方ないのでじゃんけんにしましょう」という大会があるのですが、総当たりで勝数が並んでしまうことはよくあるので、事前にどうやって順位をつけるのか決めておき、できれば貼り紙などで知らせておくのが良いと思います。

総当たりの予選→決定戦やトーナメント

プロの王位戦、女流王位戦の挑戦者決定リーグは紅白2組でそれぞれ総当たり戦→紅白の1位同士がタイトル挑戦をかけて対局します。あのように総当たりを複数の組に分けて実施する総当たりの発展形のような競技方法もあります。総当たり戦は「予選リーグ」のような位置づけです。

赤青2組に分かれて総当たり戦を行い(アマ大会の場合は紅白よりも赤青のほうが多い気がします)、それぞれの上位2人が通過して、赤1位と青2位、青1位と赤2位で準決勝、そして決勝をやるような複数通過型もあります。

4人総当たりのブロックを多数作って1位だけが通過して決勝トーナメントに進む方法もあります。また、競技前半が4人ブロックの総当たり戦。その1位、2位、3位、4位を1位トーナメント、2位トーナメント、3位トーナメント、4位トーナメントに振り分けて、競技後半はノックアウトトーナメントというやり方も。申し込み時から棋力別クラス分けにしなくても、総当たりブロックで棋力の振り分けになるという仕組みです。

大会の持ち時間

将棋大会では、対局時計(チェスクロック)を使用することが多いです。プロの対局同様、双方の考える時間を同じにします。アマ大会での持ち時間は「持ち時間10分秒読み30秒」と言われる10分を使い切ったら1手30秒以内に指すものから、持ち時間は60分切れたら1手60秒までいろいろです。プロの対局でもABEMAトーナメントは指したら自分で対局時計のボタンを押しますが、アマの大会もそれと同じです。
対局時計は1手指したらその手でボタンを押します。右手で指して左手で対局時計を押したほうが速いですが、それはルール違反で注意されます。反則負けになる大会もあります。

大半の将棋大会で使われるのがシチズン製のザ・名人戦(写真1)。今はこのタイプのものは販売されておらず、入手できるのは銀色の「DIT-50」のみです。

このザ・名人戦がコロナ禍で生産中止になっている間に普及したのが北尾まどか女流二段が代表を務める「ねこまど」の「ショウギクロック」。お値段も重さも「ザ・名人戦」の1/3というのが魅力です。
 
時計の上にあるボタンを指した手で押します。後手の人が時計を置く場所を選択できます(右利きなら自分の右側に置く)。
 
秒読み30秒の場合、30秒以内に指さなくては(指し終えて時計のボタンを押さなくては)時計が合図音を出して止まります(止まった後に押しても反応しません)。そうなると「時間切れで負け」になってしまうので、ギリギリに指すのは危険です。

秒読み30秒で延々と続く対局もあります。大会は公共施設など決まった時間には片付けまで終えて鍵を返さなくてはいけない部屋で行われることがほとんど。簡単に延長などできないのです(運営側もある程度時間に余裕を持って部屋を借りておいて欲しいですが)。あまりに長い対局を終わるまで待ち続けると大会の進行が止まって終わらせることができなくなるので
➀ 審判の裁定で有利なほうを勝ちにして終わりにする。
➁  審判が割って入り、不利なほうに投了を促す。
➂ 双方1手30秒の時計を20秒や10秒に差し替える。
➃ ごく短い時間に設定して最初から指し直す。
➄ じゃんけんや振り駒で勝者を決める。
などの措置がとられます。
互いに入玉し詰ませる見込みが無くなった持将棋の場合は、27点法(飛車、角を5点、玉を除いた他の駒を1点と計算。駒の損得が無ければ双方27点になる)で点数が多いほうが勝ち、同点の場合は後手勝ちになるルールや、宣言法というルールが採用されます。

そもそも対局が長引くことのないよう「切れ負け」ルールで行われる大会もあります。持ち時間を使い切ったら「1手○秒以内に指す」はなく即負け。将棋ウォーズの10分切れ負けと同じですね。終盤は双方時間が切迫し時計を叩くスピード合戦に突入することが多く、将棋というより反射神経の争いになりがち。切れ負けは大会で採用するべきではないという意見の方も多くいます。

代表を決めるクラスのみ対局時計を使用し、それ以外のクラスは時計無しで行われる大会もよくあります。好きなだけ長考されると進行に支障が出るので、周りを見て長考はほどほどにしましょう。長考を防ぐため、途中から1手30秒で指して下さいと時計が入ることもあります。

よく大会で時計を乱暴に叩く人、何回も叩く人がいますが、1回普通に叩けば反応して相手の手番になります。時計は高価で、そうそう修理に出したり買い替えできるものではないので、時計は丁寧に扱って欲しいというのが、大会運営側のお願いです。

宮田聖子(将棋情報局)
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著者

宮田聖子(著者)
県代表決定大会を中心に将棋大会の運営を15年。手合いをつけるスピードには自信あり。複数代表を選ぶ大会の競技方法を工夫するのが好き。公平で開かれた大会を心掛けています。女性大会を中心に大会出場50回以上。ペンネーム宮田聖子で将棋の記事を書いていますが、将棋は弱いです。