【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2023年6月編|将棋情報局

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【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2023年6月編

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皆さんこんにちは。東山動植物園に行ったままの編集部島田です。

6月20日に第12回「将棋対局~女流棋士の知と美~」という素晴らしいイベントにお邪魔してきました。目の前で山崎隆之八段、糸谷哲郎八段の楽しいトークや渡部愛女流三段と山根ことみ女流二段の真剣勝負を見ることができて、とても楽しかったです。
やっぱりリアルはいいなと、本気で楽しむなら現地に行かなきゃダメだと再認識した次第です。今後はなるべく、藤井先生のタイトル戦の現地に行きたいと思いました。皆さん、お会いした時はぜひお話ししてくださいね。

さて、将棋情報局ゴールドメンバー限定記事「編集部島田が綴る 今月の藤井聡太」第10弾でございます。なんだかんた10回続きました、このシリーズ。
読者の皆さんの応援あっての連載でございます。読み返してみると、最初の方はわりと真面目に将棋の内容の話をしていたように思うのですが、だんだん将棋に関係ない部分が増えてきたような気がします(笑)
とはいえ、「一局の将棋をストーリーとして語る」というスタンスは変えずに藤井先生の将棋を明るく楽しく(気持ち悪く)伝えていきたいと思いますので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

さて、前置きはこれくらいにして「今月の藤井聡太」行ってみましょう!実はちょうど今日(6/29)、藤井先生にお会いしてお話を聞けたので、その情報もちょこちょこ入れていきたいと思います。
まず6月の対局をまとめてみます。

6月の対局まとめ

5月31日、6月1日 名人戦七番勝負第5局 渡辺明名人戦 勝ち
5日 棋聖戦五番勝負第1局 佐々木大地七段戦 勝ち
20日 王座戦挑戦者決定トーナメント 村田顕弘六段戦 勝ち
23日 棋聖戦五番勝負第2局 佐々木大地七段戦 負け
28日 王座戦挑戦者決定トーナメント 羽生善治九段戦 勝ち
6月は5局の対局があり、4勝1敗という成績でした。名人戦の最終局があり、休む間もなく棋聖戦が開幕しました。さすがに七冠となると、1年中タイトル戦をリレーしているような感じになりますね。そして最後に残されたタイトル、王座の挑戦に向けた戦いも続いています。こちらは負けたら終わりのトーナメントなので、ドキドキ感が凄いです。

年中私たちを楽しませてくれる(生き甲斐を与えてくださる)藤井先生に感謝です。

では1局目から振り返っていきましょう。

上最年少で名人獲得、七冠に

5月31日、6月1日 渡辺明名人戦
第81期名人戦(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)七番勝負第5局

序章 藤井荘
ここまで3勝1敗。藤井先生が名人奪取に王手を掛けて迎えた第5局は長野県高山村にある「藤井荘」で行われました。藤井先生は以前に家族旅行で訪れたことがあるということでびっくり。やっぱり、「藤井荘」だから家族会議で行ってみようということになったんですかね。
ご存じの通り、本局で藤井先生は名人を獲得するわけですが、メモリアルな対局場にこういう縁のある場所がめぐってくるあたり、藤井先生の「持ってる感」を感じます。
藤井先生が泊まった藤井荘、私も行きたいです(初手から気持ち悪い)。

第1章 雁木
本局は渡辺先生の先手番で藤井先生が雁木を採用されました。振り返ってみるとこの名人戦は棋王戦のような角換わりシリーズにならず、角道を止めた雁木が多用されることになりました。藤井先生が後手番で角換わりを受けなくなったのはコンピュータ将棋選手権の影響が大きい? というのが島田予想でしたが、朝日新聞様の素晴らしいインタビューによると、どうもそういうことではないみたいです。

AIで「角換わり腰掛け銀は先手必勝」という結論が出たことが直接の原因ではなく、人間の目から見ても角換わり腰掛け銀は先手が優勢になりやすいというのが藤井先生の考え方のようで、当たり前ですけど、AIの意見を鵜呑みにするような方ではありませんでした。

なので、藤井先生の目から見て有力な変化が見つかれば、また後手番で角換わり腰掛け銀を受けて立つこともあるかもしれません。

第2章 名人を手繰り寄せた2枚角
藤井先生は雁木を採用されましたが、渡辺先生の菊水矢倉のほうが堅く、藤井先生は早い段階で劣勢に陥ってしまいました。
「序盤、組み上がりの辺りは、はっきり作戦負けになってしまった」と対局後に語っています。
 ただ、このまま黙って差が開いていくのを見ているわけはなく、終盤に入ったところで角を使った勝負手を炸裂させました。まず、手にした角を盤上に放ち、さらに自陣で眠っていた角を相手の金の前に飛び出します。これが渡辺先生が「見えていなかった」という妙手順でした。このあと、角2枚が中央に居座って盤上を支配する形になったので、渡辺先生は2枚目の角をすぐに取ってしまったほうが良かったようです。
 ただ、それも藤井先生に攻められるのが見えているので選びにくい順ではあります。結果的に渡辺先生はこの角を取らず、藤井先生の勝負手が通った形になりました。

 角の力で飛車を手に入れると藤井先生はその飛車を一段目に打ち下ろします。ここからはあっという間でした。歩の頭に桂を捨てて、取らせてできた空間に銀を放り込む豪快な寄せ。わすか数手で渡辺先生の玉に受けなしに追いこんでしまいました。これを見た渡辺先生が94手で投了、藤井新名人の誕生となりました。

第3章 道の途中
こうして藤井先生は史上最年少で名人を獲得し、小学生の頃からの夢を果たしました。一人の少年が夢を果たすまでのストーリーがここに完結、これでゴールと見ることもできますし、実際そのような報道のされ方が多くありました。それはそれでいいと思うのですが、マニアックな島田としては、現在の藤井先生にとって名人獲得はゴールではなくなっているという点を強調したいです。

藤井先生の対局後の会見での発言をみてみましょう。
質問は「幼いころからの夢であった名人を獲得されてどう思うか」というものでした。
対して藤井先生の答えはこうです。
「名人という言葉には子どものころから憧れの気持ちを抱いていたので今回獲得できたことについてはすごく感慨深いものがあります。ただ、実際その立場になってみるとそれで終わりということではなくて、先がずっとあるというところもあるので。それをしっかり見据えてやっていきたいという気持ちです」

実際YouTubeを見ていた方はわかると思いますが、この「感慨深いものがあります」と「ただ」という言葉の間がすごく短い(笑)。テキストで表現すると「感慨深いものがありますただ、」という感じです。
つまり、藤井先生が言いたかったことは「ただ、」の後ろの部分、「それで終わりということではなくて、先がずっとあるのでそれを見据えてやっていく」という、こっちの方ですね。

だから、私が藤井先生の名人獲得をニュースにするならば、その見出しは

藤井聡太竜王、子どもの頃からの夢である名人を獲得

ではなくて

藤井聡太竜王、名人獲得も「終わりではなく先がずっとある」

としたいですね。こっちのほうが島田的には藤井先生のイメージにぴったりです。
今回の名人戦は通過点に過ぎないということですね。

敗れた渡辺先生はこれで19年ぶりに無冠になってしまいましたが、トップ棋士であることには変わりなく、藤井先生と渡辺先生の戦いというのも「終わりではなく、先がずっとある」はずです。
もし次に渡辺先生が藤井先生に挑戦するときはまた必ず何か作戦を練ってくると思うので、これからも二人の戦いを楽しみにしたいと思います。

まずは、素晴らしい番勝負を見せてくれたお二人に感謝です。
藤井先生、渡辺先生ありがとうございました。名人戦、お疲れさまでした。
 

12番勝負はダナンで先勝  

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