『現代将棋ってこういうこと』棋書アンバサダーによるレビュー 岡部寛大様|将棋情報局

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『現代将棋ってこういうこと』棋書アンバサダーによるレビュー 岡部寛大様

『現代将棋ってこういうこと』棋書アンバサダーによるレビュー記事、最終回です!

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レビュー第5弾(最終回)は、なんと岡部怜央四段のお兄さん、岡部寛大様です。

いろいろな棋力の方に向けて、力のこもったレビューを書いてくださいました。
岡部様、ありがとうございます!

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 初めまして!『現代将棋ってこういうこと』棋書アンバサダーを務める、岡部寛大です。9歳の時に将棋を祖父から教わり、弟(岡部怜央四段)と一緒に将棋を始めました。棋力は五段で生粋の振り飛車党です。
 小中高はプレイヤーとして将棋に携わっていましたが、大学生からは将棋に恩返しをしたいという気持ちから、大学将棋の大会運営をしたり、将棋普及指導員を取得して将棋教室の講師を務めたり、と普及活動に力を入れていました。就職してからは時間がなかなかとれず、将棋の活動はできていなかったですが、社会人生活が落ち着いてきたのでそろそろ将棋を再開しようかな、と思っていた頃に「棋書アンバサダー」を務めることができてうれしいです。

 『現代将棋ってこういうこと』は佐々木七段と増田七段の「まえがき」から始まります。この短い文章の中で「方針」という単語が多く出てきたのが印象に残りました。
 現代将棋はAIが普及したことで、指し手の良し悪しを数値化することが容易になりました。公式戦観戦時には、最善の一手は何か、AIの予想手をみてわかった気になったり、対局後に自分の棋譜をAIで振り返って一喜一憂したり、と考えることを放棄してしまう自分がいます。すぐに正解がわかるのはスッキリするけど…面白さに欠けます。
 増田七段のまえがきに「今はプロはもちろん、アマチュアの方もコンピュータを使って研究する人が増えていますが、私は人間の感覚も大事だと思っています。コンピュータがマイナス300点でも人間的には勝ちやすい局面というものがあります。そういう人間的な感覚というか、局面の見た目を私は大事にしていますし、皆さんも大事にしてほしいです。」とあります。
 将棋は指し手を暗記するゲームでなく、自分で考える余白の部分がある。その余白が将棋の面白さであり、そこに寄り添ってくれるのが、「方針」なのだと思います。



本書は相居飛車と対抗形の計9種類の形をテーマにして、章ごとに
(1)テーマ図
(2)解説
(3)まとめ
(4)参考棋譜
で構成されています。

 解説は2人の対談形式で進んで、まるで大盤解説を聞いているような感覚で読み進められます。増田七段の「矢倉は終わった」に代表される率直な表現と佐々木七段の読者を置いていかない丁寧なフォローのバランスが絶妙です。

 私も経験がありますが、棋書を「棋書ってたくさんあるし、この本って自分に合ってる本なのかな…?」と気になる方が多いと思うので、
 ・将棋を指す初心者~中級者の方
 ・将棋を指す上級者~有段者の方
 ・観る将の方
に向けて、自分なりに書きます。

将棋を指す初心者~中級者の方
 初心者~中級者の方は「将棋って覚えなきゃいけないことがいっぱい…」と思っている方が多いと思います。本書には各戦型の解説の後にまとめのページがあり、例えばVS中飛車では「初手▲5六歩には、飛車先を突かずに△4四銀の進出を優先させ、5筋の押さえ込みを目指す」等のポイントがまとめられています。このまとめのページが単純明快で分かりやすいので、各ポイントを覚えるだけでもかなりの棋力向上が見込めるはずです!

 まずは、「先手中飛車には△4四銀、先手中飛車には△4四銀、先手中飛車には△4四銀」と呪文のように唱え、合言葉として覚える→実践する、を繰り返して少しずつ覚えてライバルに差をつけましょう!差がついた後でも良いので、忘れずに『現代将棋ってこういうこと』を教えてあげてください(笑)



将棋を指す上級者~有段者の方
 本書は将棋の定跡を学べることはもちろん、「将棋の勉強の仕方」も学べます!
 上級者~有段者の方は自分の棋風に合った形を持っていたり、AIを使って研究したりされている方が多いと思います。増田七段のまえがきに「私自身、以前は細かいところまで研究したこともありましたが、その時はあまり勝てませんでした。方針だけ決めておいて、後はその場で考えたほうが勝てるので、解説する上でも細かくなり過ぎないように注意しました。」とあります。

 増田七段に共感するのは恐れ多いですが、私にも細かい変化を事前に検討して、ひたすら暗記しようとしていた経験があります。この時は「この形、前に検討したけど、何が正解なんだっけ?」と貴重な持ち時間を「思い出すこと」に費やしてしまい、目の前の将棋について「考えること」に使えていないことが多くありました。
同じような経験がある方は、細かい手順を暗記するだけでなく、自分オリジナルの「方針」を持つことも意識すると良いと思います!(私が面識のあるアマチュア強豪の方はこのような方が多いです)


観る将の方
 一定の棋力があるのに「観る将」の気持ちがわかるの…?と思われる方もいるかと思います。私は振り飛車党として生きてきたので、相居飛車の序盤戦においては、観る将の気持ちで公式戦やアマチュア大会を観戦しています!正直な話をいうと、本書を読むまでは「角換わり腰掛け銀ってどうして一手で移動できる場所に二手かけて王を移動させたり、銀を上がったり下がったりするの?!」等と思っていました。

 佐々木七段のまえがきに「観る将棋ファンの皆さんは「なぜ以前指されていた戦法が廃れて、今この形がはやっているのか?」という流れを物語として読んでいただければと思います。現代将棋で指されている形にはそこに至るストーリーがあるので、本書で楽しんでいただければ幸いです。」とあります。

 特にここ数年はAIの出現もあり、戦法や指し手の流行り廃りの入替が多く、「将棋定跡の戦国時代」と言っても過言ではないと思うので、この将棋定跡の変遷を「歴史」と捉えて楽しむことができるのも将棋の魅力の1つであり、本書はそのガイドの役割を果たしてくれます。
 また、本書では攻めるのも、受けるのもありという変化がいくつか紹介されていますが、「私の推し棋士はこの形の時は攻める派か…」等と棋風を感じながら観戦するのも楽しいと思います。

【印象に残った手順】
 最後に、本書で私が個人的に印象に残った手順をご紹介します。
 それはP168~P171の三間飛車VS居飛車の手順です。

 振り飛車側を持ってよく指すのですが、三間飛車が3筋の飛車先を交換して石田流の理想形を目指したときに、居飛車が▲4八銀と一度上がった銀を引くのが妙手!これによって逆に居飛車に押さえ込まれてしまうというのが目からウロコの手順でした。



 以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
『現代将棋ってこういうこと』は幅広い層の期待に応えてくれる素敵な棋書です。

ぜひ、本書を読んで充実した将棋ライフを送ってください!

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