「門番の金」で反撃かわし藤井竜王が広瀬八段を破る 第81期A級順位戦|将棋情報局

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「門番の金」で反撃かわし藤井竜王が広瀬八段を破る 第81期A級順位戦

第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)5回戦は▲藤井聡太竜王―△広瀬章人八段戦が11月14日(月)に東京・将棋会館で行われ、93手で藤井竜王が勝利しました。この結果、今期順位戦の成績は勝った藤井竜王が4勝1敗、敗れた広瀬八段が3勝2敗となりました。

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■広瀬八段用意の雁木戦法
 
今期のA級では早くも全勝者が姿を消しており、3勝1敗同士の直接対決となった本局は名人挑戦権の未来を占う大一番です。加えて、藤井竜王と広瀬八段は11日後に竜王戦第5局での対局も控えており、短期間で何度も盤を挟む両者の戦型選択に注目が集まりました。本局は、後手の広瀬八段が雁木の構えを明示して序盤の駒組みが始まりました。
 
雁木戦法は急戦と持久戦を両天秤にかけており、先手が急戦でくれば攻め合いの姿勢を、持久戦でくれば堅陣への組み換えを見せられるのが魅力です。広瀬八段の作戦提示に対して、先手の藤井竜王は右銀を素早く繰り出して後手の角頭を攻める早繰り銀の作戦を採りました。藤井竜王は玉を1手しか動かしておらず、また広瀬八段の玉は居玉のままの激戦がここから始まります。
 
■鋭い踏み込みで藤井竜王がリード
 
定跡化された攻防が続き、やがて藤井竜王は右銀を五段目に進出させて盤面右方を制圧しました。続いて飛車を2筋に戻り、棒銀の要領で飛車先を突破する狙いを見せます。単純にも見えるこの攻め方が広瀬八段の意表を突きました。その後、広瀬八段がいじめられそうな角を交換に持ち込んだことで、局面は盤面全体を巻き込んだ乱戦になだれ込みました。
 
角交換が行われた直後、広瀬八段の方から△5五角の飛車銀両取りが一目瞭然ですが、「両取り逃げるべからず」の格言が示す通り、この角を打たせても▲3三歩成と攻め合いに持ち込んで指せるというのが藤井竜王の大局観でした。両取りをかけた広瀬八段としても飛車と銀の両方を取ることはできません。先に桂得を果たして、飛車の活用のめども立っている藤井竜王の方が指しやすい形勢で中盤戦が進んでいきます。
 
■藤井竜王の巧みな玉さばき
 
激しいやり取りの中でもおたがいに決め手を与えぬまま、局面は第2ラウンドを迎えました。双方の成り駒が盤上から一掃されており、手番を握った藤井竜王としては再び攻めを構築する必要があります。ここで藤井竜王が垂れ歩からと金を作り「と金の遅早」の格言通りにと金を活用したのが、指されて見れば納得の明快な攻め方でした。局後、藤井竜王はこのあたりで手ごたえを感じたと振り返りました。
 
反撃を期する広瀬八段は、敵陣三段目に浮遊する藤井玉を攻めるべく右銀を繰り出します。しかし、対局開始から一度も動いていないはずの藤井陣の2枚の金が手ごわく、なかなか藤井玉への有効な攻めを見出せません。飛車をさばかせる代償として先手玉を不安定にさせるという主張を持っていた広瀬八段の誤算はここにありました。藤井竜王としてはこの「門番の金」が勝利の立役者となった格好です。
 
一分将棋になるまで攻めを模索した広瀬八段でしたが、最終的には藤井玉への有効な攻めはないと見て投了を告げました。勝って4勝1敗とした藤井竜王は、同星の豊島将之九段と並んで挑戦者争いの最前線にとどまりました。
 
次局6回戦では▲佐藤天彦九段―△藤井竜王戦、▲豊島九段―△広瀬八段戦が予定されています。


A級1期目にして名人挑戦者争いの先頭を走る藤井竜王(写真は第35期竜王戦七番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

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