【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2022年10月編|将棋情報局

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【試し読み版】編集部島田が綴る今月の藤井聡太 2022年10月編

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。「辛いという字がある。もう少しで、幸せになれそうな字である」でおなじみの編集部島田です。
将棋情報局ゴールドメンバー限定記事「編集部島田が綴る 今月の藤井聡太」第2弾の時間がやってまいりました。

藤井竜王の将棋を解説しつつ、そこに人間としての藤井先生の魅力も投入しながら、さらに島田の気持ち悪さのスパイスをピリリと効かせてお送りしたいと思います。
どうぞご賞味ください。

さて、10月です。将棋界最高峰のタイトル、竜王戦が開幕しました。前期豊島先生から奪取したタイトルの初防衛戦です。ドキドキしますね。セルリアンタワー能楽堂の花道を歩く藤井先生の凛々しい姿を見るだけでご飯3杯はいけます。あと仁和寺の歴史ある境内を白い和服で颯爽と歩く藤井先生でも追加で3杯いけます。(ご飯食べすぎ)

想像でお腹いっぱいになったところで、穏やかな気持ちで振り返ってまいりましょう。
今月の藤井聡太、始まり始まり~。

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開幕局は完敗

10月7、8日 広瀬章人八段戦
第35期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)第1局

■序章 藤井竜王に勝つための条件
みなさんご存じの通り、竜王戦第1局は挑戦者の広瀬章人八段の勝利となりました。いろいろな見方があると思うんですが、私的には広瀬先生が藤井先生に勝つための2つの条件を、見事にクリアされた、という印象です。
2つの条件って何やねん、って話ですが以下の通りです。

(1)序中盤でリードすること
(2)そのリードを守り切ること

って、それだけかーいという感じですが、藤井先生相手にこの2つを成し遂げることは非常に難しいのです。まず、AMD社様のハイスペックマシンを使った序盤研究と、AIとのVSなどで培われた中盤の読みの深さがあるので、藤井先生から序中盤でリードを奪うことは容易ではありません。また、そこをクリアできたとしても世界一の詰将棋解答能力を背景にした終盤術で逆転を狙ってくるので、リードを守り切ってゴールまでたどり着くのは至難の業となります。

しかし、本局の広瀬八段はその2つの条件を見事にクリアしました。

・・・どうやってクリアしたのでしょうか? 振り返っていきしょう。

■第1章 飛車先の歩突かない作戦
振り駒で先手になった広瀬先生が選んだ戦法は角換わり。序盤で角を交換するから角換わりですね。

両者とも得意とする戦法ですが、本局で広瀬先生は角換わりの中でも珍しい陣形を採用しました。それが「飛車先の歩突かない作戦」です。普通、角換わりの先手番は飛車の前にある歩を二つ(2五の地点まで)進めるんですが、広瀬先生は一つしか進めなかったのです。こうすると飛車を使った攻撃力は少し弱まりますが、その代わりに自分の桂馬が2五の地点に飛べるので、使いやすくなるというメリットがあります。

「角換わりの飛車先を保留する形なので、それを生かせればなとは思っていた」と広瀬先生も振り返っています。そして実際に桂馬を2五に跳ねる手が実現しました。

それに対して藤井先生はどうするか悩ましい。将棋年鑑のインタビューで「好きな花は何ですか?」と聞かれた時もめっちゃ悩まれてましたが、その時以上に苦慮されたことでしょう。悩んだ末に攻め合いに活路を見出しますがそこからの手順が難しく、形勢を損ねてしまいました。

藤井先生は「攻め合いにできればと思ったんですけど。ちょっとそうですね、そのあと、わからなくなってしまったかなと思います」とおっしゃっています。

先手の広瀬先生がこの形を事前に深く研究していたのに対して、藤井先生はこの形になることは予想していなかったと思うので、その場で考えて対応せざるを得ません。これは不利です。広瀬先生の入念な準備が実って、藤井先生に勝つための一つ目の条件「序中盤でリードすること」をクリアしました。

■第2章 勝負師、藤井聡太
リードを喫した藤井先生ですが、そう簡単に負けるお方ではありません。このくらいの形勢差はこれまで何度も跳ね返してきました。
逆転のためには平凡な手を指してジリ貧になるのが一番ダメなパターンです。相手の読んでいない手を指して、対応を間違えさせるのが逆転につながる終盤術。ここから勝負師、藤井聡太の出番です。

不利を自認した藤井先生は飛車をタダで取られる位置に移動するというとんでもない手を用意していました。タダなのですが、取ると桂馬で王手される手が見えているので、取るのにはかなり勇気がいります。

しかし、広瀬先生は15分考えて堂々と飛車を取りました。そしてこの手が正解だったのです。藤井先生の勝負手は不発に終わります。

しかし、これしきのことで諦める藤井先生ではありません。その後も自陣に持ち駒の銀を投入したり、歩の前に桂馬を打ったりと尋常ならざる手で逆転を狙います。私が相手なら何回も逆転されているところですが(当たり前)、広瀬先生は藤井先生の罠をすべて見破って正解の手を指し続けました。

そして(2)の「そのリードを守り切ること」の条件も満たして107手で藤井竜王が投了。挑戦者の広瀬八段が、番勝負の第1局で貴重な白星を手にしました。

■第3章 勝負はこれから
本局は、藤井先生が良くなかったというより、広瀬先生が素晴らしかった将棋でした。
用意周到な作戦でリードを奪い、藤井先生の勝負手をすべてかいくぐってのゴール。強いです。もちろん、番勝負はまだ始まったばかりですが、広瀬先生の今回の番勝負にかける強い思いと、充実ぶりが垣間見える内容でした。

しかし、藤井先生の側にも心強い(?)データがあります。
直近の2つのタイトル戦、つまり棋聖戦と王位戦でも初戦で黒星を喫し、そこから連勝して防衛しているのです。
また、本局は将棋で若干不利とされている後手番です。先手番の第2局で勝利すれば、そこから流れを引き寄せて一気に防衛というパターンも見えてきます。

・・・まぁこれを書いている時点で第2局で藤井先生が勝ったことを知っているんですけどね(笑)

最後に藤井先生の第2局に向けてのコメントを。
「けっこう早い段階で形勢を損ねてしまった気がするので、内容を良くしていかなくてはいけないなと思います」

う~ん。いいですねぇ。「次は勝ちたい」とかじゃないんですよね。次は「内容を良くしていかなくてはいけない」と。

藤井先生の場合、第1局も負けたことが問題じゃないんです。「内容が良くなかったこと」
が問題なんですよね。

勝ち負けじゃなくて内容の良し悪しに徹底的にこだわる男、藤井聡太。カッコいいです。

前期名人挑戦者を破る

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