最強の矛が最強の盾を破る 渡辺名人がリーグ初勝利 第72期王将戦挑戦者決定リーグ|将棋情報局

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最強の矛が最強の盾を破る 渡辺名人がリーグ初勝利 第72期王将戦挑戦者決定リーグ

藤井聡太王将への挑戦権を争う第72期ALSOK杯王将戦(主催:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の挑戦者決定リーグは、10月20日(木)に渡辺明名人―永瀬拓矢王座戦が行われ、149手で渡辺名人が勝利しました。対局の結果、リーグ成績は渡辺名人が1勝2敗、永瀬王座が1勝1敗となりました。

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■3年前の研究

本局を迎えた時点でのリーグ成績は渡辺名人が0勝2敗、永瀬王座が1勝0敗です。両者の直近の対決は今年4月の棋聖戦挑戦者決定戦で、その際は矢倉の力戦形を永瀬王座が制していました。半年ぶりの対局となった本局は、ともに王将挑戦を目指すうえで負けられない戦いです。

先手となった渡辺名人は角換わり早繰り銀の作戦を採りました。角換わりにおいて早繰り銀は腰掛け銀に次ぐ主流戦法で、右銀を前線に繰り出して積極的に攻めることで先手番の利を主張することを狙いとしています。

早繰り銀の攻めを見せられた後手側には、主に(1)同じく早繰り銀に組んで攻め合いを目指す、(2)腰掛け銀に組んで先手の銀を追い返す、(3)早繰り銀や腰掛け銀のいずれかに組んで十字飛車の反撃を見せる、という3つの対応が考えられます。しかし本局の永瀬王座は、これらのいずれにも属さない対策を披露します。まずは玉を早めに上がってコンパクトな守備体形を整え、しばらくは先手の攻めに対応します。一方的に守備に回らされるようですが、数手後に自陣角を設置したのが重要なセット手順で、先手の早繰り銀を自陣に追い返す狙いを持っています。この対策に意表を突かれたか、渡辺名人は序盤早々からこまめに時間を使うこととなりました。

なお、意外に思われた永瀬王座の作戦選択ですが、さかのぼること3年、2019年の大晦日に動画配信サイトによって企画された対局イベントですでにこの作戦を採用しています。非公式戦ながらも永瀬王座は佐々木勇気七段に対して勝利を収めており、この指し方がこの時点で研究済みであったことがうかがわれます。

■ぶつかり合う両者の読み

渡辺名人は、永瀬王座の自陣角に角を合わせて対抗します。盤面で向かい合った角を永瀬王座の方から取ったとき、渡辺名人にはこの角を銀で取る手と歩で取る手の2つの選択肢が生じていました。銀で取れば手順に先手の早繰り銀は自陣に戻ることになり、これは後手の注文通りの穏やかな展開です。渡辺名人は歩で取る手を選択。これは相手の主張に真っ向からぶつかっていく指し方で、この手が引き金となって戦いは激しさを増していきました。このあたりから定跡を離れた二人の戦いが始まりました。

盤上は、先手の渡辺名人が手持ちの角銀による攻撃力を主張し、後手の永瀬王座が盤上の馬および金銀4枚からなる矢倉の守備力を主張する展開となりました。「渡辺名人の攻め対永瀬王座の受け」という構図は2021年3月に行われた王将戦七番勝負第6局でも見られたもので、両者の棋風通りの展開と言えるでしょう。本局でも、形勢は互角のまま推移していきました。

■逃した攻め合いのチャンス

長い中盤戦が続いたのち、渡辺名人は105手目に持ち駒の桂を打って銀取りをかけます。 戦いが始まってから実に約70手もの間ほとんど攻めの手を指さずに辛抱してきた永瀬王座はここでも丁寧に銀を逃げましたが、最終的にこの手が守りすぎの疑問手となりました。強く先手の攻めを呼び込んだわけですが、結果的にこの手に対して渡辺名人からうまい切り返しがあり、先手の攻めが途切れなくなってしまったのです。銀を逃げる手に代えては、持ち駒の香を先手玉に向けて打って攻め合いに出る手が有力だったようです。

受けの達人の永瀬王座といえども、筋に入った渡辺名人の攻めを受け切るのは困難でした。その後も受け続けたものの、18時56分、ついに永瀬王座が投了。結局、渡辺名人の玉には一度も王手がかからないままの終局でした。

今期王将リーグではまさかの開幕2連敗を喫した渡辺名人でしたが、貴重な初勝利を挙げリーグ勝ち越しに望みをつなげました。次戦は10月25日(火)に▲永瀬王座―△豊島将之九段戦が、10月26日(水)に△渡辺名人―▲羽生善治九段戦が予定されています。

永瀬王座の「負けない将棋」を攻略してリーグ初勝利を挙げた渡辺名人(写真は第80期名人戦七番勝負第5局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留啓(将棋情報局)

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