描かれた藤井曲線 豊島九段の猛攻を受け切って藤井竜王が棋王戦準決勝へ|将棋情報局

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描かれた藤井曲線 豊島九段の猛攻を受け切って藤井竜王が棋王戦準決勝へ

渡辺明棋王への挑戦権を争う第48期棋王戦コナミグループ杯(主催:共同通信社)は、10月17日(月)に挑戦者決定トーナメントの藤井聡太竜王―豊島将之九段戦が行われました。結果、107手で藤井竜王が勝利を収めて本戦トーナメントベスト4進出を決めました。

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■豊島九段用意の△2二角

今年度の両者の対局は夏のタイトル戦で指された5局があり、いずれも角換わり腰掛け銀の戦いとなっています。大方の予想通り、本局も角換わり腰掛け銀の戦型となりました。振り駒で後手となった豊島九段は、ここ数年ですっかり定跡化された待機策を採用。角換わり腰掛け銀の中盤戦においては玉や飛車の位置取りが1マス違うだけで仕掛けの成否が変わってくるため、細かな間合いの計り合いが要求されます。

対局開始から30分、藤井竜王が45手目にポンと桂を跳ねた手で戦いが始まりました。両者の間では研究がかみ合っているようで、ここまでおたがいに持ち時間を5分程度しか消費していません(持ち時間は4時間で、1分未満の考慮は0分扱い)。先攻した藤井竜王は「桂の高跳び歩の餌食」の格言は承知のうえで、手にした歩を元手に後手の桂を捕獲し返します。淡々としたやりとりが続いたあと、戦いが一段落したところで後手の豊島九段が放った△2二角によって本局の輪郭が形づけられました。この手は次に、先手の銀の前に歩を打ってこの銀をへき地に追いやり、手順に後手の攻め駒を前進させようという狙いです。

■豊島九段の攻勢

豊島九段の△2二角に対して藤井竜王も、銀が釘づけにされることを甘受したうえで▲4六角と打って対抗します。局面は、盤上に放たれた両者の角のどちらがより働くかが焦点になりました。ここまでハイペースで進めていた豊島九段ですが、この▲4六角を見て長考に沈みます。穏やかに歩を交換する手も見えるところでしたが、昼食休憩をはさんで68分の長考の末に放った△7五桂は一気の攻め切りを狙う攻撃的な一手でした。

一気の攻めを見た手は成功すれば見返りも大きいのですが、形を決めてしまうだけに受け切られてしまうリスクもはらみます。この△7五桂を見た藤井竜王は本局の勝負所と見たか、前傾姿勢を一層深めて熟考に沈みます。この手を境に、盤面を移す天井カメラの映像に藤井竜王の頭の一部が映り込むようになりました。

■藤井竜王の見切り

相居飛車の戦いにおいて相手からの攻めを見せられた側には(1)激しく攻め合う、(2)丁寧に受けに回る、の2つの選択肢が生じます。本局における豊島九段の攻めを無理攻めと見た藤井竜王は、△7五桂に指しすぎの烙印を押すべく延々と受けに回る方針を選びました。飛車切りや角切りといった強襲の筋を見せられて怖い局面が続きますが、藤井竜王は自分の読みを頼りに堂々と指し進めます。中盤の難所で、両者1手に30分以上の時間をかけることも多くなってきました。

長い中盤戦が続いたのち、一歩抜け出したのは藤井竜王の方でした。△7五桂から実に35手、豊島九段の攻勢を受け止めた藤井竜王は頃合いよしと見てようやく反撃に出ます。反撃を開始してからの切れ味は鋭く、豊島陣に向けて桂香歩といった小駒で的確に玉に狙いを定めたところで豊島九段が投了。終局時刻は19時28分、仕掛けの局面から徐々にポイントを挙げて最後まで形勢の針を相手に譲らない、いわゆる藤井曲線を描いての勝利でした。

勝った藤井竜王はこれでベスト4に進出。次戦は勝者組決勝進出をかけて佐藤天彦九段と対戦します。

六冠奪取への期待がかかる藤井竜王(写真は第35期竜王戦番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留啓(将棋情報局)

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