細かすぎて伝わらない!『令和4年版将棋年鑑』伊藤匠インタビューの微妙なニュアンスの補足|将棋情報局

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細かすぎて伝わらない!『令和4年版将棋年鑑』伊藤匠インタビューの微妙なニュアンスの補足

令和4年版将棋年鑑の伊藤匠五段インタビューの補足です。
1、どうしてそんなに落ち着いているの?
2、結果が出てほっとした
3、恥ずかしい
4、完敗だけど…

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皆さんこんにちは。「時間を積分したものが人生であり時間を微分したものが今である」でおなじみの編集部島田です。

現在、『令和4年版将棋年鑑』を制作しております。
 


今回の特集の中に「ニュースター登場! 伊藤匠インタビュー」というものがあります。前期の伊藤匠五段の活躍といえば、新人王戦優勝、アベマトーナメント優勝、順位戦昇級(1期抜け)、そして勝率1位(0.818)と凄まじいものがありました。これは将棋年鑑で取り上げないわけにはいきません。
今日は伊藤先生へのインタビューの中で私が印象に残ったことをいくつか紹介したいと思います。

まず、全体的な感想として、とても魅力的な先生でした。低い声、10代とは思えない落ち着いた物腰、裏表があまりない好青年、でも心の奥にはキラリと光るナイフをしのばせてるぜ、という感じです。

いや、よくわからんわ、と思われた方が大半だと思うので前置きはこの辺にして本題に行きましょう。


今日のMENUは以下の通りです。
 
1、どうしてそんなに落ち着いているの?
2、結果が出てほっとした
3、恥ずかしい
4、完敗だけど…

本日もさっぱりしたサラダから肉厚なステーキまで幅広く取り揃えております。どうぞ最後までお召し上がりください。

では、いきます。

1、どうしてそんなに落ち着いているの?
最初のオーダーは「どうしてそんなに落ち着いているの?」です。今回、Twitterで事前に伊藤先生への質問を募集しまして、その中から採用させていただいたものになります。この質問に対する伊藤先生の答えがとても面白かったので紹介したいと思います。

――なぜそんなに落ち着いているのですか?

「落ち着いているつもりはないんですけど(笑)。そうですね・・・、わからないですけど、やっぱり藤井さんの影響は大きいんですかね。藤井さんも相当落ち着いている印象があるので。ただ普段からあまりしゃべる方ではないので、元からといえば元からかもしれません」

どうですか、皆さん。これは驚きの回答でしたね。そもそも落ち着いているというのは生来の性格によるものなので、この質問自体、答えるのがとても難しい。

「親もそういう性格なので」とかそういう答えになるのかなと思っていましたが、まさか「藤井さんの影響」という答えが返ってくるとは。

このインタビューで、島田としてはいい感じに伊藤先生から藤井竜王の話が聞き出せればいいなと思っていました。この質問はインタビューの最初の方にしたのですが、こちらが意図しないタイミングで伊藤先生の方から名前を出してくださったので驚きました。

しかし、それにしても落ち着いている理由が藤井先生というのはどういうことでしょうか??
少し深堀りしてみましょう。

ポイントは最初の「落ち着いているつもりはないんですけど(笑)」というところですね。つまり、自分は落ち着いているように見せているつもりはない。それでも視聴者の皆さんから落ち着いているように見えているのだとしたら、それは藤井先生に合わせているからだと。藤井先生がとても落ち着いているので、その影響を受けて、私も落ち着いているように見えるだけなのだと。・・・そういうことなんですかね。

でもすぐその後で「ただ普段からあまりしゃべる方ではないので、元からといえば元からかもしれません」とおっしゃっているので、もはやよくわかりません(笑)。

伊藤先生、ミステリーです。


2、結果が出てほっとした
続いては「結果が出てほっとした」です。これは新人王戦優勝について聞いた時の回答で現れました。

――新人王戦では優勝という結果を残されました。

「一つ、棋士になってから結果が出たのでほっとしたという気持ちです」


何気ないやり取りではありますが、ここには伊藤先生の矜持を見た気がしました。
普通は優勝した感想としては「結果を出せてうれしかった」と言うことが多いのではないでしょうか。

そこを伊藤先生は「結果が出てほっとした」と表現された。
つまり、当然結果を出すべきところで、今まで出ていなくて焦っていたが、ようやく結果が出たのでほっとした、ということですね。

伊藤先生がキラリと光るナイフを忍ばせてると感じるのはこういうところで、落ち着いているんですけど「自分はこんなもんじゃないはずだ」という熱いマグマを体内に抱え込んでいる。

伊藤先生、かっこいいっす。


3、恥ずかしい
続いてのシーンはアベマトーナメントで印象に残った対局についての質問で現れた一幕です。

――ご自身の将棋で印象に残っている一局を挙げるとしたらどうでしょう?

「準決勝の菅井八段との将棋で一手詰を逃したっていう場面があったんですけど、あれは相当恥ずかしかったですね(笑)。しかもチームメイトに指摘されるまで気付かなったんです。最初は何を言っているのかわかりませんでした」


何ともかわいらしいエピソードなのですが、このシーンの面白いところは答えを言い始める前から伊藤先生が笑ってしまっているところです。

よほど恥ずかしかったんだろうと思います。そこも含めてかわいさ2000%です。

今回の将棋年鑑の特典として、伊藤先生のインタビュー時の動画が視聴できる、というものがあるのですが、このシーンはぜひ皆さんにも見ていただきたいです。


4、完敗だけど…
あれよあれよという間に最後の一品となってしまいました。最後は例によって、やや気持ち悪くなりますのであらかじめご容赦ください。

これは、新人王戦での藤井竜王との記念対局について聞いたシーンで飛び出したものです。

――記念対局は藤井竜王との一戦でしたが、いかがでしたか?

「力の差を見せつけられたような内容で、完敗だったなという気持ちですね。積極的に仕掛けられてずっと苦しかったです。途中△7一金と寄られた手があったんですけど、それが見えていなくて。非常にいい手で投了も考えました」


この文章だけ読むと、完全に敗北を認めているだけ、というように読めると思います。というか、そうとしか読めないですね。

しかし、私の印象は少し違います。

実は、原稿では端折っちゃったんですけど、伊藤先生が言った通りに書くと
「力の差を見せつけられたような内容で、まぁ・・・うん・・・、まぁそうですね、完敗だったなという気持ちですね」となります。

ぜひ皆さんも動画でこの間を確かめていただきたいんですが、「力の差を見せつけられたような内容で」の後に5秒ほどの逡巡があるのです。

「完敗だった」という言葉は0.1秒で浮かんでいたと思うんですが、それを言葉として発することを体が拒否しているような。

藤井竜王の強さを素直に認めている気持ちと、藤井竜王には負けたくないという気持ちがせめぎ合っている、そんな5秒間がそこにはありました。

このセリフを聞いた後に△7一金を並べてみると、いろいろとこみ上げてくるものがあります(実際めっちゃいい手です)。

伊藤五段と藤井竜王、二人が19歳だから生まれた今回のインタビューだと思っています。
そして私には2頭の昇り竜が我先にと絡み合いながら、ともに天に駆け上っていく姿がはっきりと見えました。
これからも互いに意識しあいながら未来に向かって突き進んでいってほしいです。




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