編集部島田が綴る藤井聡太の鬼手|将棋情報局

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編集部島田が綴る藤井聡太の鬼手

『藤井聡太の鬼手 令和元年度・2年度版』の小冊子の一部です

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 皆さんこんにちは。「恋に落ちることは愚かな行為だ。…とは言いきれないが、重力にその責任はないだろう」でおなじみの編集部島田です。

2022年2月に『藤井聡太の鬼手 令和元年・2年度版』が発売されます!
 

ここではその予約特典の小冊子『編集部島田が綴る藤井聡太の鬼手』の一部を掲載します。私ごときが藤井竜王の鬼手を語るとはおこがましいことこの上ない、というのは100も200も承知なのですが、どうかご容赦を。

あんまりいっぱい公開してしまうと元々そんなに高くない小冊子の価値がいよいよ無くなってしまうので(苦笑)、ここでは2つの記事を紹介いたします。

後半は(当然のように)気持ち悪さが増してくるのですが、その辺も寛大な目で見てやっていただければ幸いです。



それでは、どうぞ!!


綱渡りの綱が太い

 令和2年は藤井聡太が初めてタイトルを獲得した年として、将棋界的には重要な1年になりました。
 鬼手59はそのタイトル戦の初陣。渡辺明棋聖(当時)との棋聖戦五番勝負第1局です。



 図から▲2二銀が驚愕の読み切り。対して△7九角から王手が延々と続くのでいかにも詰まされそうです。しかし現実は皆さんご存じの通り。藤井先生は渡辺先生の16連続王手に対して「この一手」の正解手を指し続け、最後は逆王手を掛けて勝つという美しすぎる終局図を残されたのでした。
 特に△6八香成と香を成ってきたときには▲8八玉とかわすのが正解で、次に△7八成香と迫ってきたときは▲同玉が正解とは、もはやわけがわかりません。この時の映像はアベマTVで視聴することができますが、何度見ても、結果が分かっているのにドキドキしてしまいます。
 解説の本田奎五段も「めちゃめちゃ危ないですよね。危ないを極めている」とコメントされていました。このコメントもすごいです(笑)。

 王手に対して1手しか正解がなく、それ以外を指すと即負け、しかもそういう王手が16回連続で現れる。そう聞くと、両サイドが断崖絶壁になっている細い道を歩いているように見えますが、藤井先生にとっては、そうは見えていないんでしょうね。
 変化を読み切っていて詰まないとわかっているので、ただの平坦な道に見えている。これこそが「藤井聡太だけが見えている世界」です。
 我々にとって綱渡りは危険ですが、藤井先生は細いワイヤ―1本あれば歩ける自信があるので、綱渡りなら余裕。そういう感じです。渡辺先生も「すごい人が出てきたな」と実感された瞬間だったのではないでしょうか。

 この鬼手とは直接関係ありませんが、というか全く関係ないのですが、私的に注目したいのはこの一局に対する藤井先生のコメントです。
「結果として、最初のタイトル戦(第1局)で勝てたことによって気持ちが大分楽になりました」と述べられています。
 完全に私見なのですが藤井先生はこの「結果として」という言葉が好きでよく使われる、気がします。正直、あまり意味のない言葉なのでなくても通じるのですが、なんとなく威張らない感じというか、「どちらが勝ってもおかしくない勝負でしたが、結果的に私が勝った」みたいなニュアンスを加えたいのかなと思っています。
 藤井先生の謙虚なお人柄が出ている感じがして好きです。



淡々と「AI超え」

 これは有名な手です。鬼手64、65は1局で2手もすごい手が出た将棋。まず64は急戦矢倉で図から△5四金と出た手。



金は普通自陣で玉を守る駒なので、このように歩の前に出ていくような手は悪いとしたもの。しかしこの場合は後の△4二飛を見据えた好手なのでした。
 ただ、この手は正確には「藤井聡太の鬼手」ではありません。藤井先生本人が後に「△5四金は永瀬さんとのVSで永瀬さんに指された手です。だから永瀬さんに教わった手ということになります」と真相を明かしています。
 この短い文の中で「永瀬さん」と3回言うあたりに深い絆を感じます。

――なんだか△5四金が話題になってますが、この手考えたの私じゃないですからね、永瀬さんですからね、大事なことなので3回言いましたよ――

 と、私の妄想の中の藤井先生は笑顔でおっしゃっております。

 渡辺先生としては藤井聡太&永瀬拓矢の連合軍と戦っているようなものですからたまったものではないですね。
 続いて65はかの有名な「AI超え」の一手△3一銀です。



 羽生善治先生にこの手について質問した時に「プロが100人いたら99人は△3二金と指す」とおっしゃっていたことも印象深いです。それくらいこの図からの△3一銀は違和感のある手なのです。

 AIでもなかなかたどり着けない一手ということで藤井先生がもてはやされたわけですが、私から見えている風景は少し違います。
 この△3一銀については私は藤井先生に直接インタビューしたことがあります。そのときおっしゃっていた概要はこうです。

 まずは攻め合いの手を考えたが時間がない中で読み切ることができなかった。そこで受けの手である△3一銀を考えた。△3一銀に対して相手から有効な手がないことがわかれば、それだけで少なくとも互角以上だと判断できる。よって△3一銀を選択した。と、いうことでした。藤井先生らしいロジカルな思考ですが、△3一銀は時間がない中でリスクのある攻め合いを避けた妥協の一手。私にはそのように聞こえました。ですから△3一銀が「AI超え」だと祭り上げられているのは藤井先生にとっては少しこそばゆい気持ちがあるのではないかと思っています。

 ・・・と、思いましたが、藤井先生はそんな細かいことは気にしてないかもしれません(笑)。

 常に前を見て、次の対局で最善手を指すことを考えているはず。その過程の中で、時に鬼手と呼ばれる鮮烈な一撃が紡ぎだされるのです。結果として。

――何カッコつけてるんですか、島田さん。次の対局、行きますよ――

と、私の妄想の中の藤井先生が手招きしてます。

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