藤井棋聖が名人の挑戦を返り討ち、第92期ヒューリック杯棋聖戦|将棋情報局

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藤井棋聖が名人の挑戦を返り討ち、第92期ヒューリック杯棋聖戦

最終盤に生じたドラマと決め手

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2021年のタイトル戦名勝負総決算、本日は第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負。藤井聡太棋聖に渡辺明名人が挑戦したシリーズです。この前期は渡辺棋聖に藤井挑戦者が挑み、奪取。史上最年少タイトルホルダーが誕生しました。1年たち、立場を入れ替えての五番勝負となりました。

■藤井棋聖が連勝

第1局は渡辺名人の先手番で相掛かりに進みました。早い段階からものすごい攻め合いとなりますが、66手目の△3三桂が気づきにくい好手で、藤井棋聖が先勝します。続く第2局は先後を入れ替えて、再びの相掛かりに。序盤の分かれはやや先手ペースのようですが、長い中盤の押し引きが続くと、渡辺玉が矢倉の堅陣に収まっているのに対し、藤井玉は居玉。何より残り時間の差がだいぶあり、実戦的には後手が勝ちやすい展開になりました。ところがここからが藤井棋聖の怖いところです。ほとんど持ち時間を使わずに指し続けますが、それにもかかわらず悪手どころか疑問手の類も全くありません。そして後手に生じた、ほんの僅かな綻びを藤井棋聖は見逃しませんでした。171手の熱戦を制して、防衛へあと1勝とします。

第3局は矢倉から急戦に。お互いが研究テーマを真っ向からぶつけたという雰囲気があります。中盤、渡辺名人は藤井棋聖が局面を悲観していると察知して、飛車切りからの玉頭攻めに出ました。対して藤井棋聖も譲らず、緊迫した最終盤へと進みます。

■飛車のタダ捨てが決め手。しかし...

そうして迎えた87手目の局面が本局のクライマックスでしょう。渡辺名人は▲2二角成と金を取りました。これは後手玉に詰めろを掛けつつ、自陣の守備に馬を利かせる攻防手です。対して藤井棋聖は△7八金▲5九玉の王手を決めてから、△5四歩と手を戻しました。この一手は先手の攻めの要である5四の金を外しただけでなく、将来に先手玉が上部脱出を図った時の押さえにもなっています。以下▲4四馬△6三玉▲5二銀△7四玉▲6三金の進行は後手玉に詰めろが掛かっていますが、次の一手が決め手でした。

藤井棋聖はすっと7三の飛車を7一へ滑らせます。この地点には先手の馬が利いており、タダで取られるのですが、この△7一飛が決め手でした。▲同馬はその瞬間に先手玉が詰んでしまうのです。しかし他に指す手もなく、渡辺名人は飛車を取って形を作りました。

■幻の絶妙手順

では先手に勝ちがなかったのかというとそうではありません。87手目に▲7四銀という幻の妙手がありました。この手自体はそれほど難しくはありません。△同飛に▲6三銀と打ち△7一玉と引かせます。そこで▲7四銀成と飛車を取る手が詰めろになります。ここまでの理屈はアマ初段でもわかるでしょう。ですがその瞬間、先手玉には一手早くの即詰みが生じています。この詰みはプロならばまずわかりますから、▲7四銀は「ない手」なのです。

ところが▲7四銀△同飛▲6三銀△7一玉に、ここで▲2二角成が成立していました。これは先手が金を手にしたのでやはり後手玉が詰めろになっています。そして2二の馬が遠く6六へ利いているので、先手玉は詰まなく、すなわち先手勝ちなのです。しかし▲2二角成の局面の不詰みを読み切るのは相当に難解です。詰む筋は1つでも見つければいいのですが、詰まない筋は可能性を全て潰さないと読み切りには至りません。これを1分将棋で行うのはトッププロでも並大抵ではありません。ましてやこの順の場合、先手は「後手に銀を渡す」「7筋の飛車が生きたままになっている」という2つのリスクがありますから、詰むか詰まないかでいうと詰む可能性から考えてしまいます。藤井棋聖ですら将棋世界誌の取材で「先手玉が詰む可能性のほうが高いと思った」と振り返っています。

藤井棋聖が3連勝で棋聖位を防衛。通算獲得タイトルを3期としたことで九段に昇段しました。18歳11ヵ月での九段昇段は史上最年少です。前期にタイトルを奪い、今期は前タイトル保持者の挑戦を返り討ちにしたわけですが、過去に同様のケースがどれほどあったかを調べてみました。

まず棋聖戦では第17、18期の中原誠―大山康晴戦と第62、63期の羽生善治―谷川浩司戦の2例(いずれも左が勝者、以下同)があります。他棋戦は、竜王戦の前身である十段戦で第9期、10期及び13、14期の中原―大山戦、竜王戦では第7、8期の羽生―佐藤康光戦がありました。名人戦では第16、17期の升田幸三―大山、第56、57期の佐藤康―谷川戦、第62、63期および第69、70期の森内俊之―羽生戦があります。王位戦は第34期、35期の羽生―郷田真隆戦、第43、44期の谷川―羽生戦、第48、49期の深浦康市―羽生戦で、王座戦と叡王戦は同様の例がありません。棋王戦が第16、17期の羽生―南芳一戦、第34、35期の久保利明―佐藤康戦で、王将戦が第5、6期の升田―大山戦、第35、36期の中村修―中原戦、第45、46期の羽生―谷川戦となっています。

藤井―渡辺の両者によるタイトル戦は、間もなく王将戦七番勝負が始まります。渡辺王将へ藤井竜王が挑戦するシリーズで、両者にとっては3度目のタイトル戦です。また第93期の棋聖戦は現在二次予選が進行中。シード棋士を含めた決勝トーナメントを経て、藤井棋聖への挑戦者が決まるのは4月末~5月頭頃と予想されます。若き王者に挑むのは誰か、注目です。

見事防衛を果たした藤井聡太棋聖(写真は第92期ヒューリック杯棋聖戦第3局のもの 提供:日本将棋連盟)

相崎修司(将棋情報局)

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