藤井新竜王誕生 最終盤で生じた神がかり的な詰み 第34期竜王戦七番勝負|将棋情報局

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藤井新竜王誕生 最終盤で生じた神がかり的な詰み 第34期竜王戦七番勝負

史上最年少四冠・初の無敗竜王奪取と記録ずくめの戴冠

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豊島将之竜王に藤井聡太三冠が挑戦する将棋界最高峰のタイトル戦、第34期竜王戦(主催:読売新聞社)七番勝負第4局が11月12、13日に山口県宇部市の「ANAクラウンプラザホテル宇部」で行われました。結果は122手で藤井三冠が勝利、七番勝負のスコアを4勝0敗として竜王を奪取、四冠王となりました。19歳3か月での四冠達成は、羽生善治九段が1993年に達成した22歳9か月を更新する、最年少四冠となります。またランキング戦から勝ち上がった挑戦者が4勝0敗のストレートで竜王を奪取したのは今期が4度目(第1期の島朗九段を含む)となりますが、ランキング戦及び本戦トーナメントでも無敗だったのは今期の藤井新竜王が初のケースとなります。

■戦型は角換わりに 研究と研究がぶつかり合う

豊島竜王が先手の第4局は角換わりとなりました。本シリーズでの角換わりは第3局に続く2度目ですが、前局の早繰り銀ではなく、腰掛け銀に進みます。前例としては藤井三冠が先手を持って斎藤慎太郎八段と指したものがあります。その一局は藤井勝ちでしたが、本局は53手目の局面で豊島竜王のほうが先に▲4四歩という新手を見せました。しかし両者ともにこの手も織り込み済みだったのでしょう。しばらくはほとんど時間を使わないハイペースな進行が続きます。

69手目に71分の長考で打った▲2二歩が決断の一手でした。こうなると以下は激しい攻め合いです。果敢な踏み込みが功を奏したか、将棋連盟モバイルのAIが示す数値は少しとは言え豊島竜王の側に傾きました。続いて豊島竜王が▲4五銀と攻め駒をぶつけていった局面で藤井三冠が封じ、1日目が終了しました。

■最終盤の大長考

2日目、開封された封じ手は△4五同銀という自然な一着。ここからは銀交換、さらには角交換が盤上で出現し、激しい攻め合いとなります。藤井三冠が自玉の危険を恐れず、△8七飛成と竜を作った104手目。この局面が豊島竜王にとって最大のチャンスでした。局面はきわめて難解ながら、AIの評価値は豊島良しを示しています。しかも持ち時間は豊島竜王が2時間29分も残しているのに、藤井三冠は9分しかありません。

すでに局面は最終盤、もうお互いの玉が詰むかどうかという状況です。ここが勝負どころと見た豊島竜王は、最終盤としては珍しい99分という大長考の末、▲4三桂成△同玉▲5五桂と王手王手で藤井玉に迫ります。対して玉を逃げるのは簡単な詰みなので、藤井三冠もここでは△同角と取るしかありません。

■皮肉な敗着

次の一手が明暗を分けました。豊島竜王は▲3五桂の王手を利かし、△5二玉と引かせてから▲5五銀と角を取って相手に手を渡します。▲3五桂△5二玉の交換を加えることで、藤井三冠の猛攻を受けたときにやや安全度が増すとの判断によるものです。果たして、ここから藤井三冠による王手ラッシュが来ました。△5六桂の捨て駒から連続王手で迫り、数手後に△3四桂と打った手が決め手になりました。この△3四桂は、豊島竜王が▲3五桂と打っていなければ生じなかった形なのが皮肉です。

とはいえこの△3四桂の局面は、プロが見ても詰んでいるのかどうかすぐには判断できない難解な局面です。対して▲3六玉と寄れば△2四桂▲4五玉△4四歩▲同玉△3三銀▲同玉と進んで、以下△3二金▲4四玉で詰まないというのが第一感なのですが、この局面では△3二金に代えて△3二歩と打てるのです。対して▲2三玉は△3三金までの一手詰め。中盤ではリードを奪うことに成功した▲2二歩の存在が、最後の最後で泣きどころになっているのがつらいところです。そして△3二歩に対して▲4四玉と引いても、△3三金▲4五玉△4四歩以下、△5六桂の王手から数えて29手詰みという長手数の即詰み。渡辺明名人がツイッターで「すごい詰み」とつぶやいたほどの順で、まさに神がかりと言えるでしょう。

実戦は△3四桂に▲4七玉でしたが、以下数手で豊島竜王が投了し、藤井新竜王が誕生しました。

戻って、先手は△5五同角に対して、▲3五桂△5二玉の交換を入れず、▲5五同銀と取るべきでした。これは何の細工もせずに堂々と手を渡す意味合いの手。後手の猛攻を浴びることを覚悟しなければなりません。感想戦で示された順は、△5六桂▲同歩△7七歩成▲5八玉△6七と▲4七玉△5八と▲5七桂△4八と▲同玉△5九銀▲4七玉△4八金▲3六玉△3五歩▲同玉……で難解というもの。豊島竜王は「△3五歩の形がほとんど詰みに近いので負けかと思った」と振り返っていますが、ここまで来るともう指運というしかないでしょう。

藤井新竜王は竜王を含む四冠ですので、三冠を持つ渡辺名人を超えて、現役棋士における序列1位となります。局後の記者会見で「竜王を獲得できて重みを感じますし、それにふさわしい精進をしていければと思っています。これまでと変わりなく、強くなることを目標に据えて取り組んでいければと思います」と語りました。

大きな勝負を終えた藤井新竜王ですが、重要な対局はまだまだ続きます。まずは4連勝で単独トップに立っている王将リーグ、こちらで挑戦権を得れば、五冠目を目指して渡辺王将との七番勝負が始まります。また11月21日には将棋日本シリーズ決勝もあり、こちらは豊島JT杯覇者との再戦です。

名実ともに将棋界のトップに立った若き竜王が、どこまで勝ち進んでいくのか、注目です。

終局後、インタビューに答える藤井新竜王(提供:日本将棋連盟)

相崎修司(将棋情報局)

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