藤井聡太棋聖、渡辺明名人の事前準備&読みのどちらも上回る好手連発で完勝 初防衛戦で白星発進!|将棋情報局

将棋情報局

藤井聡太棋聖、渡辺明名人の事前準備&読みのどちらも上回る好手連発で完勝 初防衛戦で白星発進!

飛車を見捨てる鋭い踏み込みで優位を築き、△3三桂の絶妙手で一気に突き放した

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中

将棋のタイトル戦である、第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局(主催:産経新聞社)、▲渡辺明名人-△藤井聡太棋聖戦が6月6日に千葉県「龍宮城スパホテル三日月」で行われました。結果は90手で藤井棋聖が勝利。防衛に向け幸先いいスタートを切っています。


藤井聡太二冠のダブル防衛戦日程

藤井棋聖にとって初のタイトル防衛戦となる本シリーズ。藤井棋聖が防衛を果たせば、タイトル獲得3期の規定により九段昇段となります。これまでの最年少九段昇段記録は渡辺名人が持つ21歳7カ月なので、またしても藤井棋聖が記録を更新することになります。

一方、渡辺名人がタイトル奪取に成功すると、自身初の四冠同時保持となります。前期藤井棋聖に奪われたタイトルを奪還することができるでしょうか。

第1局につき振り駒が行われ、渡辺名人が先手番になりました。戦型は相掛かりになり、両者が今年2月の朝日杯将棋オープン戦準決勝で指した将棋と同じ進行をたどります。

朝日杯では渡辺名人が藤井棋聖を追い詰めたものの、最後の最後で大逆転負けを喫しました。結果は幸いしなかったものの、中盤で優位を築いたのは渡辺名人だったので、その進行を踏襲するのかと思われました。

ところが先に手を変えたのは渡辺名人。あえてうまくいった前例と違う手を指すのですから、当然、用意周到な準備があるはずです。事実、初見ではとても踏み込めないような、何度も駒交換が行われる激しい展開になったにも関わらず、昼食休憩明けに指した57手目までの渡辺名人の消費時間はわずか47分でした。この時点で藤井棋聖とは消費時間に約1時間の差がついていました。

57手目、渡辺名人は飛車取りに香を打ちました。ここからの藤井棋聖の攻めの組み立てが本局のハイライト。まず、飛車を逃げずに△3四歩と突き、働いていなかった角を攻めに活用します。これに対して、渡辺名人は▲7七歩と打って利きを遮断。角と香の利きを一気に止める一石二鳥の手です。

角の利きがとりあえず通ったことに満足して、今度こそ飛車取りを受けるのかと思われたところで、藤井棋聖は△8八歩と打って踏み込んでいきました。渡辺名人が局後に、事前研究では考えていなかったと明かした、この手が好手でした。

ここまで持ち時間4時間のうち、1時間しか使わずに指し進めてきた渡辺名人の手が止まります。そして考えること83分、渡辺名人は飛車を取りました。この長考は「先のことを考えていたのと、若干別の手を考えていた」ものだったと渡辺名人が局後に語っていた通り、65手目の▲4五桂まではスラスラと進行していきます。

▲4五桂は薄い相手玉頭に狙いを付けるとともに、先手玉の右辺の逃げ道を広げる味のいい手に見えます。ところがこの桂跳ねを見て、藤井棋聖の指し手が止まりました。そして33分の考慮で指された△3三桂が、絶妙の一手でした。

この手は桂交換を迫って桂を手持ちにして、その後に一気に先手玉を寄せようという狙いです。しかし、この瞬間は自らの角の利きを遮ってしまう上に、後手玉の3三への退路を塞いでしまうため、指しにくい手です。

渡辺名人もこの手は想定外だったのでしょう。先の長考からはノータイムで指し進めていましたが、ここで37分の考慮。そしてこの桂を負担にするため、▲5三桂成と成り捨てて後手玉を寄せにいきました。これで本当に藤井玉が寄せられてしまえば、△3三桂は大悪手だったということになってしまいますが、もちろん藤井棋聖は寄らないと読み切っていました。

渡辺名人は飛車を5筋に転回して攻めかかりますが、藤井棋聖は桂香を用いて丁寧に応対。そして先手の飛車を五段目から移動させ、△4五桂を実現させました。先ほど述べた△3三桂のデメリットである、角の利き遮断と3三への逃げ道封鎖を一気に解消する絶好の一手。このような味のいい桂跳ねを「天使の跳躍」と呼びます。この手で藤井棋聖は優位を不動のものとしました。

渡辺名人は飛車を打ち込み、持ち駒を受けに使わせ、竜を中段に引き揚げて粘りに出ます。まだ決着には時間がかかるかと思われましたが、藤井棋聖は桂の2連打で鮮やかに渡辺陣を攻略。盤上3枚の桂がどれも効果的に働き、先手が粘りようがなくなった局面で、渡辺名人は投了を告げました。

本局は藤井棋聖が渡辺名人を2度上回ったと言えます。1度目が渡辺名人の事前研究を超えた△8八歩。そして2度目が83分の読みを超えた△3三桂です。渡辺名人は局後のインタビューで「(長考で)時間を使った割にはいい手が指せなかった。長考したところでまずい変化になってしまって、一気にダメになってしまったのは残念だった。もうちょっといい内容の将棋が指せるようにやっていかないといけない」と語りました。

5月末まで行われていた名人戦で、圧倒的な強さを見せて防衛を果たした渡辺名人。その渡辺名人を相手に、このような内容で勝てる棋士が果たしてどれほどいるでしょうか。寸分の隙すらない完璧な一局を目撃して、「強すぎる……」以外の感想は浮かんできませんでした。

第2局は6月18日に兵庫県「ホテルニューアワジ」で行われます。藤井棋聖が連勝で防衛に王手をかけるのか、それとも渡辺名人が立て直してタイとするのか。目が離せません。


初防衛に向けて好発進の藤井棋聖(提供:日本将棋連盟)

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。