2021.03.18
【論理迷宮】江戸の天才和算学者・久留島喜内の詰将棋を解説
『図式全集 将棋妙案 橘仙貼壁』第15番を紹介します
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
こんにちは。新感覚ミステリー小説『函館ラサール高校相撲部物語』(全6ページ)を書きあげた編集部島田です。
今日は予約受付中の『図式全集 将棋妙案 橘仙貼壁』から私的に感動した1作品を紹介したいと思います。
この本に収録している詰将棋を創ったのは江戸の三大和算学者の一人である久留島喜内(くるしま・きない)という人です。
和算というと関孝和だけは知っていますが、久留島喜内って誰やねん、って思いますよね? でもこの人が相当な天才だったそうで、なんとレオンハルト・オイラーより前にオイラー関数に言及していたとか。
・・・オイラー関数が何なのかを知らないので、その凄さを伝えることができないのが残念でなりません。まったくわからないですけど、一応載せるだけ載せときます。
「1から360までの自然数の中で、360と互いに素な数はいくつあるか、という問題について、360の素因数分解は2の3乗×3の2乗×5なので、(2-1)(3-1)(5-1)=8に360をかけて2・3・5で割ればよい」
(久氏遺稿その二より要約)
あー、なるほどね。完全に理解したわ。
・・・と、いうことで、第15番の紹介行ってみましょう(^^)
いきなり種明かしするんですけど、この詰将棋を解くには攻め方の8八の香を働かせる必要があります。今は完全にお隠れになってますけど、この香の利きが最後に玉の死命を決することになります。
未来予想図(思った通りに叶えられてく)
と、いうわけで最初の図に戻ってみます。
さぁここから「8八香の利きを通すアドベンチャー」が始まります。
そうさ、今こそアドベンチャーです。
300年前に天才和算学者・久留島喜内が仕掛けた、ロジカルの迷宮。
さぁ、参ろうぞ!
(第1の扉)まず、8八香の利きを通すためには8五の桂にどいてもらう必要があります。
(第2の扉)8五の桂にどいてもらうためには▲9七飛を実現する必要があります。▲9七飛となれば、△同桂成と取るよりありません。
(第3の扉)▲9七飛を実現するためには9七の角と7七の角が邪魔です。この2枚の角を王手を掛けながら消去する必要があります。
(第4の扉)9七の角は▲6四角、7七の角は▲5五角と王手して捨てることになりますが、先に▲6四角と王手してしまうと、△同と(または△同香)と取られたときに6四の地点が埋まってしまい、そのあと▲5五角としても王手になりません。よって、7七の角を先に▲5五角と捨てる必要があります。
(第5の扉)7七の角を▲5五角で捨てたいのですが、5五の飛車が邪魔です。▲5五角を実現するために5五の飛車を捨てる必要があります。
(第6の扉)5五飛を王手で捨てるために▲5一飛成としたいのですが、6一の銀が道を塞いでいます。先に6一の銀を移動する必要があります。
(第7の扉)6一の銀を王手で移動させるには8筋に玉を呼んで▲7二銀成とする必要があります。
(第8の扉)8筋に玉を呼ぶためには▲8二香成か▲8一香成と香車を捨てる必要があります。ただし、▲8二香成だと△同玉▲7二銀成としたときに△8三玉と逃げられて▲5一飛成が王手になりません。よって、初手は▲8一香成が正解だとわかります。
と、いうわけで、8八香の利きを通すためのロジックが初手から一本の線でつながりました!
では、正解手順を見てみましょう。
▲8一香成 △同玉 ▲7二銀成 △9一玉 ▲5一飛成(飛車捨て!)
△同銀 ▲5五角(7七の角捨て!)
△同と ▲6四角(9七の角捨て!)
△同香 ▲9七飛 △同桂成(8五の桂をどかすことに成功!)
▲9二桂成 △同玉(8八香の利きが通った!)
▲8二成銀(以下成銀を引いていく)
△9三玉 ▲8三成銀 △9四玉 ▲8四成銀 △9五玉 ▲8五成銀 △9六玉 ▲8六成銀 まで、23手詰
ダンジョン脱出!!
見事にすべての扉を開けることに成功しました。
・・・みなさん、いかがでしたでしょうか?
詰将棋でこういうことが表現できるという事実にまず驚きます。
詰将棋は将棋の終盤戦を切り取ったものでも、対局で勝つための練習でもなく、それ自体が独立した作品であり、表現である。そういう気概を強く感じます。
久留島喜内の詰将棋では、今回紹介したような「こういうことがやりたかったんだな」という意図が明快なものが多いです。しかもその趣向はシンプルで、わかりやすく提示されているので、詰将棋に造詣がなくてもその意志を追うことができます。
当時なかった趣向を数多く打ち出していますし、未開の地を進むのはきっと楽しかっただろうなと思います。
私たちと、時間軸の上では交わることのない江戸時代の和算学者である久留島喜内の思考や「新しいものを創ってやろう」という意志を、遺された詰将棋を通して想像することができます。楽しいですよね。
「泰平の世」を謳歌した江戸時代。久留島喜内は弟子たちに(もしかしたら宗看や看寿にも!?)こういう詰将棋を見せながらお酒に興じていたのかもしれません。
・・・と、いうわけで、今回は第15番を紹介させていただきました。
が、なんと!
谷川浩司九段による作品解説動画(本書の特典)の中でも、この作品は取り上げられています!
この貴重な動画をご視聴いただき、私の紹介とは(かなり、相当)違う、谷川先生の気品あふれる解説で本作をご堪能いただければと思います。
次は別の誰かがこの本を紹介してくれるはずです。きっと、近いうちに。
そちらもお楽しみに!
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
今日は予約受付中の『図式全集 将棋妙案 橘仙貼壁』から私的に感動した1作品を紹介したいと思います。
この本に収録している詰将棋を創ったのは江戸の三大和算学者の一人である久留島喜内(くるしま・きない)という人です。
和算というと関孝和だけは知っていますが、久留島喜内って誰やねん、って思いますよね? でもこの人が相当な天才だったそうで、なんとレオンハルト・オイラーより前にオイラー関数に言及していたとか。
・・・オイラー関数が何なのかを知らないので、その凄さを伝えることができないのが残念でなりません。まったくわからないですけど、一応載せるだけ載せときます。
「1から360までの自然数の中で、360と互いに素な数はいくつあるか、という問題について、360の素因数分解は2の3乗×3の2乗×5なので、(2-1)(3-1)(5-1)=8に360をかけて2・3・5で割ればよい」
(久氏遺稿その二より要約)
あー、なるほどね。完全に理解したわ。
・・・と、いうことで、第15番の紹介行ってみましょう(^^)
いきなり種明かしするんですけど、この詰将棋を解くには攻め方の8八の香を働かせる必要があります。今は完全にお隠れになってますけど、この香の利きが最後に玉の死命を決することになります。
未来予想図(思った通りに叶えられてく)
と、いうわけで最初の図に戻ってみます。
さぁここから「8八香の利きを通すアドベンチャー」が始まります。
そうさ、今こそアドベンチャーです。
300年前に天才和算学者・久留島喜内が仕掛けた、ロジカルの迷宮。
さぁ、参ろうぞ!
(第1の扉)まず、8八香の利きを通すためには8五の桂にどいてもらう必要があります。
(第2の扉)8五の桂にどいてもらうためには▲9七飛を実現する必要があります。▲9七飛となれば、△同桂成と取るよりありません。
(第3の扉)▲9七飛を実現するためには9七の角と7七の角が邪魔です。この2枚の角を王手を掛けながら消去する必要があります。
(第4の扉)9七の角は▲6四角、7七の角は▲5五角と王手して捨てることになりますが、先に▲6四角と王手してしまうと、△同と(または△同香)と取られたときに6四の地点が埋まってしまい、そのあと▲5五角としても王手になりません。よって、7七の角を先に▲5五角と捨てる必要があります。
(第5の扉)7七の角を▲5五角で捨てたいのですが、5五の飛車が邪魔です。▲5五角を実現するために5五の飛車を捨てる必要があります。
(第6の扉)5五飛を王手で捨てるために▲5一飛成としたいのですが、6一の銀が道を塞いでいます。先に6一の銀を移動する必要があります。
(第7の扉)6一の銀を王手で移動させるには8筋に玉を呼んで▲7二銀成とする必要があります。
(第8の扉)8筋に玉を呼ぶためには▲8二香成か▲8一香成と香車を捨てる必要があります。ただし、▲8二香成だと△同玉▲7二銀成としたときに△8三玉と逃げられて▲5一飛成が王手になりません。よって、初手は▲8一香成が正解だとわかります。
と、いうわけで、8八香の利きを通すためのロジックが初手から一本の線でつながりました!
では、正解手順を見てみましょう。
▲8一香成 △同玉 ▲7二銀成 △9一玉 ▲5一飛成(飛車捨て!)
△同銀 ▲5五角(7七の角捨て!)
△同と ▲6四角(9七の角捨て!)
△同香 ▲9七飛 △同桂成(8五の桂をどかすことに成功!)
▲9二桂成 △同玉(8八香の利きが通った!)
▲8二成銀(以下成銀を引いていく)
△9三玉 ▲8三成銀 △9四玉 ▲8四成銀 △9五玉 ▲8五成銀 △9六玉 ▲8六成銀 まで、23手詰
ダンジョン脱出!!
見事にすべての扉を開けることに成功しました。
・・・みなさん、いかがでしたでしょうか?
詰将棋でこういうことが表現できるという事実にまず驚きます。
詰将棋は将棋の終盤戦を切り取ったものでも、対局で勝つための練習でもなく、それ自体が独立した作品であり、表現である。そういう気概を強く感じます。
久留島喜内の詰将棋では、今回紹介したような「こういうことがやりたかったんだな」という意図が明快なものが多いです。しかもその趣向はシンプルで、わかりやすく提示されているので、詰将棋に造詣がなくてもその意志を追うことができます。
当時なかった趣向を数多く打ち出していますし、未開の地を進むのはきっと楽しかっただろうなと思います。
私たちと、時間軸の上では交わることのない江戸時代の和算学者である久留島喜内の思考や「新しいものを創ってやろう」という意志を、遺された詰将棋を通して想像することができます。楽しいですよね。
「泰平の世」を謳歌した江戸時代。久留島喜内は弟子たちに(もしかしたら宗看や看寿にも!?)こういう詰将棋を見せながらお酒に興じていたのかもしれません。
・・・と、いうわけで、今回は第15番を紹介させていただきました。
が、なんと!
谷川浩司九段による作品解説動画(本書の特典)の中でも、この作品は取り上げられています!
この貴重な動画をご視聴いただき、私の紹介とは(かなり、相当)違う、谷川先生の気品あふれる解説で本作をご堪能いただければと思います。
次は別の誰かがこの本を紹介してくれるはずです。きっと、近いうちに。
そちらもお楽しみに!
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