2020.08.05
王位戦第3局の盤上はいよいよ開戦直前! 藤井聡太棋聖の攻めを木村一基王位が受ける展開
藤井棋聖はバランス重視の構え、木村王位は玉を固めるという対照的な布陣
木村一基王位に藤井聡太棋聖が挑戦中の将棋のタイトル戦、第61期王位戦七番勝負第3局(主催:新聞三社連合)が8月4、5日で行われています。本日は勝敗が決まる2日目です。
本局、先手番の藤井棋聖は矢倉を採用しました。藤井棋聖といえば角換わりが得意戦法として知られていますが、最近は勝負所での矢倉の採用が目立ちます。初タイトルを獲得した第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負では全4局のうち3局を矢倉で戦い、全てで勝利しています。この王位戦七番勝負では満を持しての初起用です。
藤井棋聖は数ある矢倉の作戦から、「早囲い」を選択します。「早囲い」に▲4六角・3七銀型の攻撃陣を組み合わせた形は、約10年前に流行した「藤井矢倉」と呼ばれる陣形です。この藤井は藤井棋聖のことではなく(その頃はまだ藤井棋聖は小学生低学年です)、「四間飛車藤井システム」で知られる序盤の大家、藤井猛九段のこと。振り飛車党の藤井猛九段ですが、一時期矢倉に本格参戦していました。
平成に流行した、懐かしい10年前の形が久しぶりに見られるのかと思いきや、藤井棋聖は▲3七桂と着手。これで「藤井矢倉」ではなくなりました。このあと、盤上の時代はさらにさかのぼることになったのです。
藤井棋聖は33手目に▲5八金と着手。矢倉城の一部となるはずの金が玉から離れるこの形は「土居矢倉」と呼ばれています。土居なんて棋士知らないぞ、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。それも不思議ではありません。この布陣を好んで指した土居市太郎名誉名人は、大正から昭和初期に活躍した大棋士。1940年には第2期名人戦にも登場しています。
この80年前の古い構えが実は近年、将棋ソフトの影響で見直されています。バランス重視で隙のない形はソフトの評価が高く、若手棋士を中心に研究が進んでいるのです。ソフトを活用した研究に余念のない藤井棋聖も、この形に着目したのでしょう。
守りの形を作った藤井棋聖は、端攻めを目指した攻撃陣形を組みました。これに対し、木村王位は慎重な対応で、一気に崩れないように対処します。藤井棋聖が2筋の歩を交換し、角を引き揚げた局面で1日目は終了しました。
2日目は木村王位の封じ手、△2三歩で再開。この手も辛抱を重ねる手です。本局の木村王位はかなり藤井棋聖の攻めを警戒しているように見えます。ここまで厳重に受けられると、1筋からの攻めは難しいとみた藤井棋聖。すぐの端攻めを断念し、飛車を2筋に戻して攻撃陣形の再編を図ります。木村王位も壁銀を立て直し、相手の攻めに備えます。
記事執筆中の11時30分現在では、第2次駒組みが始まっています。藤井棋聖は角を自陣深くに引き、▲4六歩と突いて4筋からの攻めも見せます。木村王位も攻守に中途半端な位置にいた7三の銀を△6二銀~△5三銀と繰り替えました。専守防衛の構えです。
駒組みはいよいよ飽和状態に近づいています。藤井棋聖が攻撃を開始し、木村王位がしばらくそれを受ける展開になりそうです。両者棋風通りの戦いと言えるでしょう。
なかなか本格的な戦いの始まらない、じりじりとした進行の本局の決着は、本日夜に付く見込みです。木村王位が1勝目をあげて反撃を開始するのか、それとも藤井棋聖が一気に3連勝で二冠目獲得に王手をかけるのか、これからの指し手に注目です。
封じ手開封後、記された△2三歩を着手する木村王位(提供:日本将棋連盟)