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大逆転を生んだ藤井聡太七段の勝負術 第61期王位戦七番勝負第2局

木村一基王位の会心譜となるはずだった一局を、いかにして藤井聡太七段はひっくり返したのか

将棋のタイトル戦、第61期王位戦七番勝負第2局(主催:新聞三社連合)が7月13、14日に北海道「ホテルエミシア札幌」で行われました。第1局を勝利した挑戦者の藤井聡太七段が連勝するのか、それとも木村一基王位がタイとするのか。注目の一局は藤井七段が大逆転勝利を収めました。

木村王位の名局となるはずの将棋でした。ところが結果は藤井七段の勝ち。「どうしてこうなった……」と呆然となったファンも多いのではないでしょうか。筆者もその一人です。藤井七段が逆転を収めるに至った要因は2つあると分析します。

本局のほぼ全ての時間で優位に立っていたのは木村王位でした。中盤、藤井七段の仕掛けに対し、一つ一つ丁寧に応対。相手の飛車をあえて成らせて、それを目標とする▲8六角△9八飛成▲2九飛は、まさに「千駄ヶ谷の受け師」の真骨頂を見せつけた手順でした。次に竜を捕獲する▲9九香と、2筋を突破する▲2八香の2つの狙いが厳しく、どちらかを藤井七段は甘受せざるを得なくなりました。藤井七段も局後、「(▲8六角~▲2九飛で)ちょっと収拾がつかなくなってしまった。かなり苦しくしてしまった」と振り返ります。

しかし、恐るべき17歳がここから本領を発揮します。逆転の要因その1は「常に圧をかけ続けて、相手に楽をさせない」という技術です。

2筋から突破されてしまった藤井七段は驚きの手段に出ます。なんと金を取らせる手順に進めたのです。金の代償として飛車を封じ込め、その飛車に狙いを定めました。一手緩むと飛車が取られてしまう木村王位は、その間を与えぬように藤井陣に攻め込んでいきましたが、これは攻めさせられたとも考えられます。

さらに藤井七段は常に相手の攻め駒に当たりを付けて、緩みを許しません。木村王位の攻め駒である馬にアタック。▲5三馬に△5二金、▲6四馬に△6二竜、6四馬にひもを付ける▲6五香に△6三歩と、徹底して攻め駒を責めていきます。また、この間木村王位の飛車には常に「詰めろ」がかかっています。木村王位をもってしても、焦らずにはいられなかったでしょう。その後も木村王位の成香、竜取りに駒を打ってプレッシャーをかけ続けました。

そして藤井七段は受けてばかりではありません。相手の攻めに乗じて、木村玉に嫌味を付けていきます。相手玉を寄せていたのは木村王位だったはずが、気が付けば一手間違うと逆に自玉が寄せられてしまう局面にまで追いつめられてしまっていたのです。

さらに驚くべきは、これらの手がほぼすべて持ち時間を使わずに指されていたこと。これが逆転の要因その2と考察します。

金を見捨て、飛車取りに△2六香と打った80手目の局面で、藤井七段の持ち時間はすでに10分しかありませんでした。しかし、そこから持ち時間が全然減りません。そこから初めて消費時間が記録されたのが、92手目の△5二金の1分。94手目には4分を使ったものの、そこから逆転に至った125手目が指されるまで、藤井七段の消費時間はわずかに2分でした。80手目には38分の持ち時間があった木村王位ですが、なんと藤井七段より先に1分将棋に入りました。そして、痛恨の敗着が指されたのは、1分将棋に入ってから間もなくでした。

ずっと形勢はいいはずなのに、相手はほぼノータイムでヒタヒタと背後から離れずに付いてくる。一手間違うと逆転。このプレッシャーは計り知れないのではないでしょうか。時間を使わずに相手を追い込んでいく藤井七段の終盤力の「怖さ」を改めて思い知りました。

木村王位は「流れはいいのかと思ったが、常に一手間違えると、攻め込まれたりとか、飛車を取られたりとか、そういった変化が多かったのでプレッシャーをかけられていた」と振り返っています。

見る者に驚きと畏怖の念すら感じさせる逆転劇で藤井七段が2連勝。あと2勝でタイトル獲得です。しかし、木村王位は前期、豊島将之王位相手に2連敗から奪取に成功しています。

第3局に向けて、藤井七段は「今日の将棋を反省して、また第3局に生かしたいと思います」、木村王位は「一生懸命、精一杯頑張ります」とコメント。その第3局は8月4、5日に兵庫県「中の坊瑞苑」で行われます。

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大逆転勝利を収めた藤井七段(提供:日本将棋連盟)


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