2020.06.22
二冠保持者同士の対決 まずは豊島将之竜王・名人が先勝! 第5期叡王戦七番勝負第1局
千日手指し直しの末、永瀬拓矢叡王を破る
将棋の8大タイトル戦の一つである、第5期叡王戦七番勝負第1局(主催:ドワンゴ)が6月21日に静岡県「今井浜温泉 今井荘」で行われました。永瀬拓矢叡王(王座)に挑むのは豊島将之竜王・名人。複数タイトル保持者同士の激突となった番勝負の初戦を制したのは、豊島竜王・名人でした。
先手番の永瀬叡王の戦型選択は角換わり早繰り銀。豊島竜王・名人も早繰り銀を採用し、序盤から激しい戦いとなりました。豊島竜王・名人は桂銀交換の駒損ながらも馬を作ります。永瀬叡王はその馬を飛車・金・銀で押さえ込みにかかりました。
駒が前へ前へと前進する永瀬叡王に対し、豊島竜王・名人の駒はなかなか自陣より先に進めない状態になりました。このままではジリ貧とみた豊島竜王・名人は、相手の攻めを呼び込む勝負手を放ちます。自玉のすぐそばにと金を作られたものの、自らも馬とと金を作って飛車を追い回します。豊島竜王・名人が飛車取りにと金を引けば、永瀬叡王は飛車を下段に逃がします。それに対し、豊島竜王・名人が今度はと金を前進させて飛車取りをかけると、永瀬叡王は元の位置に飛車を逃がしました。と金と飛車の上下運動がしばらく続き、ついに同一局面が4回出現して千日手となりました。
局面はどうやら永瀬叡王がやや良かったようですが、飛車を取られてしまう上、自陣は飛車の打ち込みに弱い形です。持ち時間も残り少なく、打開するよりは指し直した方が勝算ありと永瀬叡王はみたのでしょう。そもそも永瀬叡王は千日手を苦にしない棋士です。
一方の豊島竜王・名人は苦しい将棋を千日手で引き分けにできて、ほっとしたことでしょう。指し直し局は先手番になる上、持ち時間も永瀬叡王より少し多い状態で開始できます。
指し直し局は30分の休憩をはさんですぐに行われました。戦型はまたしても角換わりですが、今度は後手の永瀬叡王が右玉に構え、待機戦術を採りました。玉と金を反復させて相手の攻めを徹底的に待ちます。もし先手が打開できないと再び千日手になるところでしたが、豊島竜王・名人は積極的に仕掛けて局面を動かしました。
桂交換から、5筋で本格的な戦いが勃発。その戦いのさなかでも、千日手の筋が出現しました。ここでも豊島竜王・名人は果敢に打開していきます。ちょっとくらい無理でも動いていこうと考えていたと、局後のインタビューで語っています。
この打開が功を奏し、豊島竜王・名人の攻めがつながり始めます。桂交換から自陣に桂を銀取りで打って好調です。銀を歩の利きに引くという永瀬叡王の勝負手にも冷静に対応し、リードを拡大していきます。
馬も切り捨て必死に追いすがる永瀬叡王に対し、豊島竜王・名人は桂を自陣に3枚並べる珍形から、それらをさばいて一気に永瀬玉を追い詰めます。最後は自陣の桂、飛車を連続で捨てる華麗な寄せで後手玉を仕留めました。
終局時刻は23時13分。千日手指し直しの激闘を制した豊島竜王・名人が幸先良いスタートを切りました。余談ですが歴代叡王は叡王戦でまだ勝利がありません。第1期叡王の山崎隆之八段と第2期叡王の佐藤天彦九段は、ともに次期の本戦トーナメント1回戦負け。第3期叡王の高見泰地七段はストレート負けで防衛に失敗しています。永瀬叡王は次局で「叡王初勝利」をあげ、タイにすることができるでしょうか。第2局は7月5日に兵庫県「城崎温泉 西村屋本館」で行われます。
また、両者ともに多忙の身。ともに22日は移動日で、23日には永瀬叡王は藤井聡太七段との王位戦挑戦者決定戦に、豊島竜王・名人は糸谷哲郎八段との王座戦本戦トーナメントに臨みます。そんな両者ではありますが、感想戦は千日手局から入念に行われていました。将棋がとことん好きだからこそ、超一流の棋士として活躍することができるのだなと思わされます。
三冠復帰へ向け好スタートを切った豊島将之竜王・名人(代表撮影:日本将棋連盟)