将棋図巧99番 「煙詰」の創作過程|将棋情報局

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将棋図巧99番 「煙詰」の創作過程

詰将棋作家kisyが看寿の思考を追う!

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伊藤看寿作『将棋図巧』99番

詰将棋は多くの場合解答者の目線で語られます。しかし作家側の目線で見てみると、作品の新たな一面を知ることができるかもしれません。
そこで本稿では、伊藤看寿作将棋図巧99番「煙詰」を創作過程にのみ焦点をあてて解説します。
117手詰という長手数なので解説も比例し長くなりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

創作過程を追う前に、「煙詰」と「逆算」の基礎知識を押さえましょう。
「煙詰」は、初形で盤上に39枚(双玉の場合は40枚)配置されていた駒が、詰上がりで3枚になる詰将棋のことを指します。煙のように次々と駒が捌け消えていく様子が心地よく、人気のある分野です。
以下本稿では、99番「煙詰」を99番、分野の総称を「煙詰」と書かせていただきます。

煙詰は収束から逆算して創ることがほとんどで、99番も逆算で創られています。
「逆算」はある局面から2手前の局面を考えて手数を伸ばしていく、詰将棋の創作方法です。


(例1)例えばこの▲2二金までの1手詰の2手前の局面を考えてみましょう。


(例2)▲1三歩、△同桂とすると、1三歩が桂に変わっていますが(例1)の局面になります。これが2手逆算するということです。手順に影響がなければ、(例2)のように駒を変更してもOKです。
さらに2手逆算してみましょう。


(例3)

(例2)から4三銀を加え、▲3一馬、△1二玉の逆算をいれました。このような2手逆算を繰り返していくと詰将棋が完成します。
これが一般的な詰将棋の逆算方法ですが、煙詰創作においては条件が加わってきます。

(例3)では突然4三銀を置きましたが、煙詰では詰上がりにそのまま残ってしまうためこれはできません。詰方の駒は盤上から盤上への移動、又は持駒を増やす逆算のみが許されます。
この特性上、創作過程を辿りやすいため本稿のテーマとさせていただきました。

基礎知識を押さえたところで、創作過程を見ていきましょう。


(第1図)▲1三桂成 △同玉 ▲2四と △1二玉 ▲2三と △1一玉 ▲2一歩成 △同玉 ▲2二馬まで9手詰。

創作のスタートは第1図。逆算がしやすく、現代では煙詰収束の一つの定跡形になっています。 それだけこの収束が優れているということですね。
現状はたった5枚しかありませんが、看寿はここから逆算で34枚配置していきます。どんどん駒が増えていく様子をお楽しみください。


(第2図)▲1三歩 △同玉 ▲2五桂 △1二玉 ▲2三金 △同玉 ▲3三角成 △1二玉 以下第1図に合流。

煙詰では詰方に持駒を持たせながら逆算を進めることがポイントになります。早速2枚持駒を入手しました。


(第3図)▲1三銀 △同桂 ▲同歩成 △同玉 ▲2三桂成 △同玉 ▲3三金 △1二玉 以下第2図に合流。

初めて玉方の駒が発生しました。詰方の駒ばかりだと利きが強力で余詰が出やすいので、制御のために玉方の駒が必要になってきます。煙詰では詰方の持駒がないと玉方の駒が発生しないので、詰方に持駒を持たせ続けるのがポイントになるわけです。99番では、創作終盤まで絶え間無く持駒を持たせ続けています。非常に理想的な逆算と言えるでしょう。

第2図から第3図にかけて角を5五から9九に移動させたのは、▲1三銀、△同桂、▲同
歩成、△同玉、▲2五桂、△2二玉、▲3三金、△3一玉に、▲6四角と出られる手を防ぐためです。9九に角を置いていれば△3一玉に対して▲10八角(?)のような王手はできません。
しかし、煙詰において生の大駒は使いにくい上に、9九は最も逆算に向かない場所です。こんなことをしてしまって大丈夫なのでしょうか。


(第4図)▲2四歩 △1三玉 ▲2三金 △同銀 ▲同歩成 △同玉 ▲3五桂 △1二玉 ▲1三歩 △同玉 ▲1四歩 △1二玉 以下第3図に合流。

配置する39枚の内18枚もある歩は早めに消費しなければいけません。▲2四歩を打つために2二歩を香に変えましたが、創作序盤の現時点で歩を6枚消費しているのはかなり良いペースです。持駒が4枚と多いのも前述の理由から心強いです。
逆にその他の駒は、全て消費してしまわないようにします。出来るだけ多くの駒種を使えるようにしておくのが理想です。


(第5図)▲1五と △3四玉 ▲4四金 △2三玉 以下第4図に合流。

2七桂の1五地点の土台を活かした1五との逆算が入り、右上辺の逆算が飽和してきました。これ以上は配置し辛いので舞台移動したいところです。


(第6図)▲2四竜 △同玉 以下第5図に合流。

4四に発生した龍が大きく局面を動かします。看寿の妙技をご覧あれ。


(第7図)▲5三竜 △3四玉 ▲4四竜 △2三玉 以下第6図に合流。

4手の逆算で、角と龍の連携が見えてきました。




(第8図)▲5六竜 △5五歩合 ▲同竜 △3三玉 以下第7図に合流。

99番「煙詰」はこの一手抜きには語れません。△5五歩捨合が出てきました。
煙詰で合駒を出すには3つのステップがあります。
 
1、詰方に持駒を持たせる
これは前述の通り玉方の駒を発生させるためです。この玉方の駒=合駒ということになります。
2、玉と飛び駒(飛、竜、角、馬、香)の間に合駒を配置する。
この駒は1の持駒です。
3、飛び駒で王手できる局面にし、合駒を外す。

この3ステップを踏めれば合駒は出るのですが、言うは易く行うは難し。
実際に逆算で合駒を出そうとすると、出したい合駒を打ってくれなかったり、合駒を出すための構図が広がり煙詰にしにくくなることが多々あります。また、移動合を除く普通の合駒を逆算で出すと言うことは、玉方の駒が1枚増えると言うことです。たった1枚が配置できず泣くことがある煙詰創作において、これはリスクになりえます。

以上からおわかりいただけたかと思いますが、普通の限定合を逆算で出すだけでも至難の技です。それを看寿は、もう一段レベルの高い捨合を組み込んでいるのは流石と言わざるをえません。


(第9図)▲7六銀 △同玉 ▲6六と △同玉 ▲7七竜 △6五玉 ▲5五と △同玉 ▲6六竜 △4五玉 ▲4四と △同玉 以下第8図に合流。

第3図では不安要素だった9九角が、龍追い趣向に大変貌を遂げました。流れに乗って歩を消費しているのも見逃せないポイントです。
行き当たりバッタリの2手逆算では、こんな素晴らしい手順、構成には出来ません。9九角を置いた瞬間、看寿は龍追いの手順を妄想していたはずです。
そしてその妄想を現実にすべく、第6図で4四龍を発生させました。このことから看寿には逆算で発生する手順がグループとして見えていたことがわかります。

これは龍追い手順以外のところからも推察できます。
例えば第3図の3五桂。これは後の第5図の2七桂と1六とを見据えて置かれたものです。
△5五歩捨合も、合駒が出る形を想像し、その形に持っていく意志がないとできない芸当です。

さて、盤上に18枚、持駒に2枚、計20枚使ったいうことは、煙詰創作の折り返し地点にきたということです。自然に逆算するなら今すぐにでも広そうな左辺に手をつけたいところですが、それでは全駒配置にできるものの窮屈な手順になってしまいます。
ここはじっと我慢。下辺にも配置を増やします。


(第10図)▲4六と △5七玉 ▲5六金 △同と ▲同と引 △6七玉 以下第9図に合流。

先程「自然に逆算するなら左辺」と申し上げたのは、一度下辺に入ってしまうと9九角と8八竜が強力で左辺へ抜け出すのが困難になることが予想できるからです。不安が残りますが、しっかり解決策を用意していました。


(第11図)▲6八銀 △5八玉 ▲5七銀 △4七玉 以下第10図に合流。

銀と龍の開き王手を利用して左辺に折り返すのが、一寸気が付きにくい上手い解決方法です。5八歩は5八銀の余詰を防いでいます。
これによって左辺へ移れるようになった上に、10図から4枚配置することに成功しました。前述の通り煙詰創作では「残り1枚がどうしても置けない」とたった1枚に泣くことも多く、4枚配置は非常に大きな成果です。


(第12図)▲8七銀 △9七玉 ▲9四竜 △8七玉 ▲8五竜 △7八玉 ▲8八竜 △6七玉 以下第11図に合流。

9九角の利きを封じ、安心して残り駒の詰め込みに専念できるようになりました。
大雑把に見積もって、使用できるスペースは約30マス分。残り14枚を配置するには十分なスペースです。


(第13図)▲5四竜 △9五玉 ▲9六香 △同銀成 ▲同歩 △同玉 以下第12図に合流。
残り10枚。強力な龍の利きも消し、スペースもあるので余裕を持って完成できそうです。


(第14図)▲9三馬 △同玉 ▲7三飛 △9四玉 ▲8三飛成 △8五玉 ▲8四竜 △同玉 以下第13図に合流。

大駒を配置しきり、残すところ6枚。エレガントに仕上がります。


(第15図)▲7二香成 △9一玉 ▲8二成香 △同玉 以下第14図に合流。

7六香が看寿のセンスが光る邪魔駒。作意と変化手順を完璧に把握していないと出来ない配置です。解答者目線では7六香消去が伏線的意味合いを持ち、作品の価値を大幅に高めています。


(第16図)▲7三歩成 △9一玉 ▲8二と △同玉 ▲7三と △9一玉 ▲8二と △同玉 以下第17図に合流。

畳かけるように、邪魔駒第2弾、第3弾の登場です。7四歩は7六香の利きを、6四とは3四龍の利きを邪魔しています。


(第17図)▲7二と △9一玉 ▲8二と △同玉 以下第16図に合流。

8二に玉を引っ張り出す6二とを配置しました。


(第18図)▲7一香成 △9一玉 ▲8一成香 以下第17図に合流。

最後にもう一回邪魔駒を配置。これだけ沢山の邪魔駒を配置し、手順に小気味良いリズムを与えられたのは、下段の詰め込みによる左上辺の空間の余裕のおかげと言えるでしょう。
そして、遂に残り駒が1枚になりました。完成まであと一歩です。


(完成図)▲8一と △同玉 以下第18図に合流。

7一とを置き完成となりました!

序盤の歩の消費、2七桂や9九角の土台設置、中盤の竜追い趣向+限定捨合、終盤を見据えた下段での詰め込み、邪魔駒配置等、まるで「煙詰はこうやって創るんだよ」と示してくれる教科書のような作品でした。力任せで無理やりな逆算がなく、実に自然で美しいです。創作過程を追うことで配置の一つ一つや、逆算の流れに、看寿の意志を感じ取っていただけたかと思います。
さて、ここからは本手順の分岐の逆算を観ていきます。


(再掲第9図)
本手順では下辺に4枚配置していましたが、もしいきなり左辺で逆算を進めていたらどうなっていたのでしょうか。


(分岐1完成図)▲8二銀成 △同竜 ▲7一飛 △同竜 ▲同と △同玉 ▲6一飛 △同飛 ▲同と △同玉 ▲5一飛 △7二玉 ▲7三角成 △同玉 ▲8三金 △同玉 ▲8四歩 △同玉 ▲7六桂 △同と ▲8五銀 △同と ▲5四飛成 △9五玉 ▲9六香 △同と ▲同歩 △同玉 ▲9七歩 △9五玉 ▲8六と △同と ▲9六香 △同と ▲同歩 △同玉 ▲8七と △同玉 ▲8四竜 △7八玉 ▲8八竜 △6七玉 以下第9図に合流。

創作過程は省きますが、全駒配置仕切ると一例としてこのような図になります。99番「煙詰」と比較すると、下辺の4枚を無理やり左辺に詰め込んだ分、手順が非常に窮屈なのがお分かりいただけるでしょう。スペースに余裕がないと全駒配置するのが精一杯で清算手順が増えてしまい、どうしても味気ないものになってしまいます。下辺の配置は捨合や邪魔駒消去のような派手さはありませんが、作品全体を美しく見せるための重要な役割を果たしています。こうした工夫もこの作品の魅力だと思います。


(再掲第8図)
次に注目する分岐は、△5五歩捨合についてです。この捨合をもっと出せないのか検討してみましょう。


(分岐2図)▲7八竜 △7七歩合 ▲同竜 △5五玉 ▲7六竜 △6六歩合 ▲同竜 △4五玉 ▲4四銀成 △同玉 以下8図に合流。

7七、6六、5五地点で捨合が3回出る図です。また、詰方の持駒にもう一枚歩を増やせれば8八でも捨合を出すことが可能です。ここから逆算できれば良いのですが、持駒が全て無くなってしまったことで逆算が上手く続かず、全駒配置は筆者の検討では不可能でした。


(分岐3ー1図)▲7六竜 △6六歩合 ▲同竜 △4五玉 ▲4四と △同玉 以下第8図に合流。

3回ではダメだったということで、捨合2回で全駒配置に挑戦してみます。今度は持駒に歩が1枚あるので逆算しやすく希望がありそうです。


(分岐3ー2図)▲6八銀 △5八玉 ▲5七銀 △4七玉 ▲4六と △5七玉 ▲5六金 △同と ▲同と引 △6七玉 ▲7六銀 △同玉 ▲6六と △同玉 ▲7七竜 △5五玉 以下分岐3ー1図に合流。

看寿の下辺の逆算が優秀すぎるので、そのまま拝借しました。


(分岐3ー3図)▲9三角 △8五玉 ▲8四角成 △同玉 ▲4四竜 △9五玉 ▲8六と △同玉 ▲7八桂 △9五玉 ▲9六歩 △8五玉 ▲7四竜 △9六玉 ▲8七金 △同玉 ▲8五竜 △7八玉 ▲8八竜 △6七玉以下分岐3ー2図に合流。

趣向に捨合が3回入らなかった分、紛れ手順中ではありますが▲5三角に△6四歩捨合で逃れるようにしました。


(分岐3ー4図)▲7五と △同玉 ▲7四と △8五玉 ▲7五と △同玉 以下分岐3ー3図に合流。

6四との邪魔駒消去も入ったので、ここから一直線で全駒配置に向かいます。


(分岐3完成図)1三歩→香に変更。▲7二と △同香 ▲8三竜 △7一玉 ▲7二竜 △同玉 ▲6三と右 △8一玉 ▲7二と △9一玉 ▲8二と △同玉 ▲8三歩成 △9一玉 ▲9二と △同玉 ▲9五香 △同馬 ▲8三銀 △9三玉 ▲9四歩 △同馬 ▲同銀成 △同玉 ▲9五香 △8五玉 以下分岐3ー4図に合流。

5四との邪魔駒消去も加え完成となりました。
単純に回数だけ比較すると、99番は捨合1回邪魔駒4枚、分岐3完成図は捨合2回邪魔駒2枚、とそこまで差はありません。しかし、邪魔駒を捨てるリズムや、逆算の流れなどの調和が取れた心地良さは、分岐3完成図にはなく完成度が劣ります。改めて看寿の技術とセンスの良さを感じました。

本稿では本手順と2つの分岐について解説をしましたが、実際には表面に見える手順の数十倍以上の分岐の選択や、余詰の検討、推敲の作業があります。たった2手の逆算だけでも色んな可能性が考えられ、それが4手6手8手、10手、20手、と積み重なればとんでもない量です。その中にいくつ全駒配置できる図があるかわかりませんが、それを掴み取らねばなりません。余詰検討は怠れば、その余詰のせいで数十手もの逆算を失うこともあります。

全駒配置仕切り完成した後も推敲が必要です。もっと面白い手順はないか、もっと完成度を高められないかと模索します。それだけ煙詰創作は困難を極めます。さらに江戸時代には詰将棋検討ソフトなんてものは当然ないので、看寿は膨大な時間をかけにかけて完成させたはずです。そうやって努力を積み重ねて出来たものだからこそ、多くの人を魅了し、現代でも愛され続けているのでしょう。

99番「煙詰」には第1号局としての凄さもありますが、七種合煙や無防備煙などがある現代の目から見ても素晴らしい完成度です。図巧の他の作品にも共通していますが、看寿の一切妥協のない姿勢と美意識が生んだものなのではないかと思います。

以上図巧99番煙詰創作過程の解説でした。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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