2019年度に復活を遂げた先手矢倉 徹底した急戦封じが功を奏す|将棋情報局

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2019年度に復活を遂げた先手矢倉 徹底した急戦封じが功を奏す

6年ぶりに勝率5割を超えた先手矢倉。5手目▲7七銀と早い▲2五歩が先手矢倉復活の理由!

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かつて「矢倉は将棋の純文学」とまで言われ、相居飛車の花形戦法だった矢倉。その矢倉が近年激減していました。先手矢倉が最後に勝ち越した2013年度から、対局数は右肩下がり、また、先手勝率も5割を切るようになりました。その詳しい理由は前回記事をご覧ください。ざっくりとまとめると以下の通りです。

1、従来の理想形である、▲4六銀・3七桂型が「矢倉△4五歩反発型」によって狙い打たれてしまい、先手矢倉の勝率が減少
2、「矢倉左美濃急戦」の登場で、まともに矢倉囲いを組めなくなった
3、角換わりや相掛かりに有力な新戦法が現れ、勝率の悪い矢倉から棋士の興味が移っていった

ところが、19年度、ついに先手矢倉が復活します。対局数は激増(18年度193局→19年度348局)、先手勝率も再び5割以上(18年度0.410→19年度0.523)になったのです。今回はその理由を探っていきます。

「矢倉左美濃急戦」の出現は矢倉に多大なる影響を与えました。先手は、従来のようにじっくり矢倉囲いに玉を収めてから開戦、というわけにもいかなくなってしまったのです。なぜなら囲っている最中に攻め潰されてしまうのですから。「矢倉左美濃急戦」をまともに食らってしまうと厳しい、という認識が固まると、先手はそれを回避するようになります。

その回避策が5手目の見直しでした。写真の表1は矢倉における5手目の採用数の推移を表しています。「矢倉左美濃急戦」が登場した15年度を境に、採用傾向がガラリと変わったのが見て取れるでしょう。▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩が減少し、代わりに▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀が増加しています。これまでの主流派だった▲6六歩型は、以下の理由で「矢倉左美濃急戦」相手には不向きです。

1、相手に争点を与える
▲6六歩と突いてしまうと、△6五歩ですぐに歩がぶつかってしまいます。▲6五同歩△同桂となってしまうと、相手の飛車・角・桂がフルに働いて上部からの攻めが繋がり、矢倉が木端微塵にされてしまいます。
▲7七銀・6七歩型なら歩の位置が低いため、すぐには6筋で戦いが起きません。

2、反撃の手段に乏しい
▲6六歩型は角道が6六歩、7七銀で二重に止まっているため、角は▲7九角と引いて使うよりありません。これでは手数がかかってしまう上、角が盤面の中央で働きません。▲7七銀・6七歩型は場合によっては▲6六銀と活用していく手段があるため、中央での戦いに対応しやすいのです。

これらの理由から、新時代の矢倉の主流は5手目▲7七銀に完全に移りました。しかし、この傾向は16年度にはすでに顕著になってきており、17年度にはすでに5手目の採用数は逆転しているにも関わらず、先手矢倉の勝率回復は19年度まで待たなければなりませんでした。他にも先手矢倉復活の理由がありそうです。

5手目が▲6六歩から▲7七銀へ移った理由は、後手の速攻に対する防衛策という意味合いですが、そもそも速攻をさせなければよいのではないか、と考えるのは自然なことです。それを実現する手法が確立したのが復活第2の理由と考えられます。

表2をご覧ください。これは矢倉の出だしにおいて、先手が10手以内(先手の指し手は奇数なので正確には9手以内ですが……キリのいい数字にしています)に▲2五歩と伸ばした局数と、それが矢倉の総対局数に占める割合を表しています。手順の一例を示すと、▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲7七銀△6二銀▲2六歩△4二銀▲2五歩などです。13年度には1局もありませんでしたが、19年度には採用率は6割を超えるまでになりました。余談ですが、14年度の全9局と15年度の5局は屋敷伸之九段が指したもの。屋敷九段は当時二枚銀急戦を得意としていて、この出だしをよく指していました。先見の明があったとも言えそうです。

早めに▲2五歩と伸ばすことで、後手に△3三銀と上がらせ角道を閉ざすことができます。そうすることで「矢倉左美濃急戦」に代表されるような、角道を生かした後手の速攻を封じているのです。それから先手は自陣の整備に入る、というのが新時代の矢倉の代表的な戦い方となっています。

先手は▲2五歩を早めに伸ばしているので、それを生かした作戦を採っていきます。具体的には「脇システム」、「米長流急戦」、「▲6七金左型矢倉」などがそれにあたります。個別の作戦を詳しく説明するにはスペースが足りないので割愛いたしますが、興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか。

一方、後手も工夫します。▲2五歩に対して△3三銀と上がる相矢倉も多く指されていますが、最近では飛車先を受けない作戦も見られるようになりました(その場合は上記手順例内の△4二銀に代えて△3二金が一般的です)。先手に飛車先交換をさせる代わりに、攻めの形を素早く整えて攻め合おうという思想です。こうなると矢倉戦法の出だしですが、先手が「矢倉囲い」に収まることはほぼなくなり、相掛かりに近い戦いが繰り広げられます。

先手矢倉復活の2大要因をまとめると以下のようになります。

1、後手に速攻されても簡単には潰されないように、5手目を▲6六歩から▲7七銀に代える
2、そもそも後手に速攻されないように、早めに飛車先の歩を突くことで後手の角道を閉ざしてから駒組みを行う

また、先手矢倉衰退の理由の記事で挙げた要因の一つに「角換わりや相掛かりに有力な新戦法が現れ、勝率の悪い矢倉から棋士の興味が移っていったため」というものがありました。現在は角換わりの大流行がひと段落し、再び棋士の興味が矢倉に戻りつつある、というのも矢倉の採用数が増加した理由かもしれません。少し前までは「将棋連盟Live」で中継される対局が、右も左も角換わり、という状態でしたが、最近は他の戦型も見られるようになっています。

20年度も先手矢倉が多く指され、矢倉が復権するのか、それとも昨年度の一過性のものだったのかはこれからの対局を見てみなければ分かりません。1年後どうなっているのか、今から興味が尽きません。

表1(上):矢倉における5手目の採用数
表2:矢倉において先手が10手以内に▲2五歩と伸ばした局数と、その割合

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