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渡辺明三冠が全勝達成! 木村一基王位は無念の降級 第78期A級順位戦最終局

渡辺明三冠は史上4人目のA級全勝。大混戦の残留争いは4勝5敗の6人のうち、順位が最下位の木村一基王位が降級

「将棋界の一番長い日」とも言われる、第78期A級順位戦(主催:朝日新聞社、毎日新聞社)の9回戦(最終局)が、 2月27日に静岡県静岡市「浮月楼」で行われました。戦前の注目ポイントは渡辺明三冠が全勝を達成するかと、3勝5敗で並ぶ佐藤天彦九段、糸谷哲郎八段、木村一基王位による残留争いでした。対局が終了した順に振り返っていきます。

【19時41分終局】
(勝)渡辺明三冠(9位、9勝0敗)-(負)三浦弘行九段(7位、4勝5敗)

最も早く終了したのは、渡辺三冠-三浦九段戦でした。三浦九段の無理気味な動きに対して、自然な対応で優位に立った渡辺三冠。万全の態勢から三浦九段にあえて攻めさせてそれをがっちり受け止め、最後はカウンターで仕留めるという圧巻の指し回しで、74手の短手数で勝利を収めました。

渡辺三冠は、中原誠十六世名人(第26期、8連勝)、森内俊之九段(第62期、9連勝)、羽生九段(第70期、9連勝)に続いて4人目のA級全勝を達成しました。また、前期B級1組から2期連続での全勝で、順位戦の連勝を21に伸ばしました。これは羽生善治九段、脇謙二八段と並んで2位タイの記録です(1位は森内俊之九段の26連勝)。

豊島将之名人(竜王)との名人戦は4月8日に開幕します。現代のゴールデンカードが最高の舞台で実現。今から楽しみです。

【22時31分終局】
(勝)木村一基王位(10位、4勝5敗)-(負)広瀬章人八段(3位、5勝4敗)

負けると即降級の木村王位が、残留を争う3人の中で最も早く勝利。矢倉の戦いで序盤は苦戦を強いられましたが、働きの弱かった角を活用することができて形勢が逆転。この角が自陣から敵陣を射抜く抜群の働きを見せました。最後は相手の攻め駒に働きかける、木村流の受けの強手で飛車を入手し、広瀬玉を即詰みに打ち取りました。

木村王位はこれでキャンセル待ちに。佐藤天九段か糸谷八段のどちらかが敗れれば残留となりますが……

【22時45分終局】
(勝)佐藤天彦九段(1位、4勝5敗)-(負)稲葉陽八段(8位、4勝5敗)

木村王位-広瀬八段戦からわずか14分後に佐藤天九段が勝ち、自力での残留を決めました。矢倉の出だしから稲葉八段が横歩を取らせる趣向を披露。手得を生かして戦おうという狙いですが、佐藤天九段の対策が見事でした。右銀を全く動かさず、端攻めを目指したのが機敏な動き。稲葉八段が飛車の横利きでそれを受けると一転、玉を固く囲います。手詰まりになった稲葉八段は端から攻勢に出ましたが、佐藤天九段は的確に受けて反撃。玉の固さを生かした猛攻を決めて99手で勝利しました。

【23時51分終局】
(勝)糸谷哲郎八段(4位、4勝5敗)-(負)久保利明九段(6位、2勝7敗)

全5局のうち、最も早く形勢が動いたとみられていたのが本局でした。糸谷八段の居飛車穴熊に、四間飛車で積極的に攻めていった久保九段でしたが、その攻めが不発だったようで昼休憩明け頃には糸谷八段が優勢に。そのまま押し切るのかと思われたところで久保九段が本領発揮。とことん粘りに粘って糸谷八段に決め手を与えません。徐々に怪しげなムードが漂い始め、ついには逆転かと思われましたが、土俵際で糸谷八段が踏みとどまりました。これしかないというギリギリの寄せ手順を発見し、辛うじて勝利を収めました。

早見え早指しで知られる糸谷八段。今期のA級8局のうち、最も考えた対局でも40分ほど持ち時間を余していましたが、今局では6分しか残りませんでした。それだけ久保九段の頑張りがすさまじかったということでしょう。

糸谷八段は冷や汗をかきながらも残留を決めました。この結果、木村王位の降級が確定。4勝5敗の成績で降級となるのはかなりまれで、第65期の深浦康市八段(現九段)以来となります(深浦九段は第63期でも4勝5敗の成績で降級という憂き目にあっている)。

【25時13分終局】
(勝)佐藤康光九段(5位、5勝4敗)-(負)羽生善治九段(2位、4勝5敗)

日付が変わって午前1時13分に、最後まで残っていた佐藤康九段-羽生九段戦が終局。「将棋界の一番長い日」が幕を閉じました。自由奔放な序盤構想を披露した佐藤康九段。8八飛・5八玉という形が序盤から出現し、らしさ全開です。一方の羽生九段は居飛車穴熊にがっちりと囲い、戦機をうかがいます。

中盤、難解な戦いが続きましたが、はっきりとリードを奪ったのは羽生九段でした。佐藤康九段の陣形の弱点を突く攻めがさく裂し、佐藤玉は風前の灯火。その上羽生玉は穴熊で鉄壁です。しかし、ここから佐藤康九段が粘りに出ます。まずは竜を自陣に引き揚げ、次に持ち駒の飛車も自陣に打ち付けます。極めつきは、竜の利きに王手竜取りとなる角の犠打。当然竜に取られてしまいますが、竜の利きをずらすことで、一手の余裕を得ました。

その一手で羽生玉に詰めろをかけることに成功しました。あとは佐藤玉が詰むかどうか。一分将棋の中、羽生九段が次々と王手をかけていきます。息が詰まりそうな数分の後、佐藤玉が詰まなくなったところで羽生九段が投了。佐藤康九段が逃げ切りました。局後の検討によると、実は超難解な手順で佐藤玉は詰んでいたようですが、それは結果論でしょう。187手の激戦は最初から最後まで見ごたえ十分な大熱戦でした。

これで羽生-佐藤戦は通算162局となり、同一カード記録で4位タイとなりました。現在の1位は中原誠-米長邦雄戦で186局。この記録を超えることも夢ではないと思わせられる好局を見せてくれました。

第78期A級順位戦の最終結果を反映させたリーグ表は画像をご覧ください。昇級争いは渡辺三冠が独走した一方、残留争いは4勝5敗が6人も出るという激戦でした。

今期のB級1組はまだ最終局が残っていますが、すでに菅井竜也八段と斎藤慎太郎八段が昇級を決めています。両者を入れた、第79期A級順位戦のメンバーは以下の通りです。

1位:豊島将之名人(竜王)か渡辺明三冠
2位:広瀬章人八段
3位:佐藤康光九段
4位:佐藤天彦九段
5位:羽生善治九段
6位:糸谷哲郎八段
7位:三浦弘行九段
8位:稲葉陽八段
9位:菅井竜也八段
10位:斎藤慎太郎八段

とてもワクワクさせられるメンバーで、熱戦・好局が多数見られそうです。

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およそ1年に渡る激闘の跡。第78期A級順位戦最終成績


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