明日、観戦記を書けと言われた時に絶対必要な本|将棋情報局

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明日、観戦記を書けと言われた時に絶対必要な本

みなさんは観戦記を書いてみようと思ったことがありますか?
アニメ化もされた大ヒットライトノベル『りゅうおうのおしごと!』の著者、白鳥士郎氏が、ご自身の体験談をもとに、観戦記を書くにあたって参考になった書籍を紹介します。

本記事で紹介された書籍をはじめ、『観る将』の方にぜひおすすめしたい商品を厳選し、電子書籍を割引価格で販売いたします。

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将棋情報局をご覧の皆さん、はじめまして。
ライトノベル作家の白鳥士郎と申します。『りゅうおうのおしごと! (GA文庫)』という、将棋を題材にした子供向けの小説を書いています。
そうそう。小学生がいっぱい出てくるやつです。すみませんね……。


ところで皆さんは「将棋の観戦記を書くか書かないか、明日までに決めろ」と言われたことはおありでしょうか?
私はあります。
しかもそれはタイトル戦の第一局という、超重要な対局でした……。
第三期叡王戦第一局。当時、名古屋に住んでいた私は、対局場が名古屋城という縁で依頼をいただいたのです。
もちろん私はそれまで観戦記など書いたことがない素人です。
「いや、普通に無理でしょ……」
冷静に考えれば、そんな私が観戦記を書き上げることなどできるはずもありません。

とはいえ、今や誰もが書こうと思えば観戦記を書くことができる時代です。
対局室の様子は、対局開始前から終局後の感想戦まで生中継され、しかもプロ棋士の解説付き。候補手や詰み手順だって将棋ソフトが教えてくれます。
実際、私もこうした材料をもとに自分で観戦記風の文章を書いてみたことは何度かありました。

 

また、そうやって書いた将棋に関する文章を発表する場もあります。
文春将棋は『第1期“書く将棋”新人王戦』と題して、広く一般から将棋コラムの原稿を募集しました。
担当者さんに今回のコンテスト投稿作についてお話をうかがうと「第1回にもかかわらず多数の応募が集まって運営側としても驚きました」と、将棋ファンの熱量に圧倒された模様。
ただ……。
「アマチュアの書き手が多かっただけにそのすさまじい熱量が十分に表現できないもどかしさもありました。うまく方向性をガイドできれば、より完成度が高まると思っているので、第2回以降もぜひやっていきたいです」
という課題も浮き彫りになったようです。そして今後も原稿を募集していく方針のようでした。

 

さて、私が観戦記を依頼された時の話に戻りましょう。
チャンスは本当に、突然やって来ました。
今でもよく憶えています。名古屋駅の上に建っているJR名古屋高島屋の12階にある喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、小説の担当編集を通してドワンゴから執筆依頼がありました。
ちなみに返答の期限は翌日。対局は二週間後。いくら何でもタイトすぎるスケジュールです。
「受けたい! 受けるべきだ!」
気持ちとしては、依頼のメールを見た瞬間にそう思いました。将棋ファンなら誰でも一度は観戦記を書いてみたいものではないでしょうか? 対局室を自由に出入りし、記録係の横に座って、対局者の息づかいや対局場の空気を感じる……この機会を逃せばおそらく二度と巡ってこない、一生に一度のチャンス。
しかし冒頭にも記したとおり「やっぱ無理でしょ……」という気持ちも強く、どうしたらいいのか悩みに悩み……。

そこで私はある行動に出ました。
書けるかどうか不安だった私が、真っ先に取った行動。何だかわかりますか?
それは……名古屋高島屋の12階から11階へ降りることでした。
そこには当時、大型の書店が入っており、その書店のとある棚の前に立って片っ端から本を選んでいったんです。
何の本かって?
それはもちろん、マイナビ出版の将棋関連書籍です!

 

……と、いうわけで前置きが大変長くなって恐縮ですが、ここからは私が観戦記を書く上で非常に参考になったと感じた本をご紹介させていただきます。

観戦記を書くためには、まず観戦記を読むことが必要です。そのお手本となるのが『将棋・名局の記録』です。

著者の大川慎太郎さんは『将棋世界』で毎月タイトル戦の観戦記を執筆していらっしゃるのはもちろん、新聞各紙でも膨大な量の観戦記を執筆し、将棋に関する一般書も多数執筆しておられる、将棋ジャーナリズムにおけるマルチクリエイターです。

そんな大川さんが執筆した観戦記をまとまって読めるのが、こちらの本。 大川さんのデビュー作や、将棋ペンクラブ大賞を受賞した作品などが収録されています。
そして何より重要なのは、それらの観戦記の後に収録された、書き下ろしのコラムです!
いわば「観戦記の感想戦」ともいえるこのコラムには、良質な観戦記を書くために必要な心得が記されています。一流の観戦記者が原稿の中で何を狙い、何を苦悩したのか? 何が表現できて、何を表現できなかったのか? 棋士を取材する際に気を付けていることは?
これは普段、観戦記を読んでいるだけでは得られない、非常に貴重な教訓でもあります。

 

次にご紹介するのは、少し古い本になりますが『将棋指し57人の日常』です。

観戦記は一局の将棋を文章で紹介するものではありますが、その将棋を指すのは棋士。
取材対象である棋士のパーソナリティーを深く知ることが重要なのは言うまでもありません。

私が書いた観戦記は、金井恒太六段と髙見泰地七段の対局だったのですが、たとえば金井先生の好きな曲が華原朋美の『save your dream』だったり、髙見先生が大学で歴史を学んでいたということを知ることができました。
これは初対面の先生方とお話をする上で貴重な情報でしたし、観戦記でもこの点に触れることで、読者の興味をひくことができたと思っています。

あとこの本は、棋士の秘蔵写真が多いのも特徴です。
宇宙戦艦ヤマトの模型の写真の掲載角度に異様な情熱を見せる佐藤天彦先生だったり……。
豊島先生と弟さんのツーショットだったり……。
中座先生の指導対局を受ける、山口恵梨子先生(6歳)の写真だったり……。
いかがでしょう? 観戦記とか関係無しに、将棋ファンなら読みたくなってきませんか?
ちなみにこの本を企画した加藤まどかさんも、観戦記を書いておられます。棋士のプライベートな面も丁寧に取材してきた経験が活かされた、対局者の人柄まで伝わってくるような名文でした。

 

ところで、棋士は関東所属と関西所属にわかれます。数も多く、また将棋ジャーナリズムに登場するのは専ら関東所属の棋士。
残念なことに関西にはあまり光が当たりません。私はその関西将棋界を舞台にした小説を書いてるわけですが、資料集めには非常に苦労しています。
関西若手棋士が創る現代将棋』は、そんな関西所属の棋士について光を当てた一冊。

著者の池田将之さんは元奨励会三段(関西所属)で、現在は第一線で活躍する観戦記者。
ほぼ毎日のように関西将棋会館の棋士室に詰め、そこで起こった様々な事件(?)を綴ったのがこの本です。

現在は藤井聡太七段の出現により、将棋界の比重が関西に傾きつつあります。いずれ必ずタイトル戦にも登場するでしょう。その時に観戦記を依頼されるのは……もしかしたら、あなたかもしれません!
冒頭には書き下ろしの、関西若手棋士による座談会が収録されていますが、まずはそれだけでも読んでみてください。アットホームでありつつもバチバチした関西の雰囲気を感じられると思います。

 

さて、これだけ読めばもう観戦記は書ける……というわけではありません。まだまだ足りません。重要なものが足りません。
観戦記とは『戦』を『観』た『記』録です。
つまり肝心の、将棋そのものについての知識が必要になります。これこそ一朝一夕で身につくものではなく……将棋の勉強を疎かにしてきた私はここで「詰んだ」と諦めかけました。
しかしご安心ください! マイナビ出版の将棋本に死角はございません。

オススメするのは『将棋・序盤完全ガイドシリーズ』です。

将棋界に存在する戦法を、初手から体系的に分類し、歴史的に紐解いていく、まさに『観る将』のためにある名著。
冒頭で「本書は定跡書ではありません」と宣言するだけあって読み物としての側面が強いシリーズですが、それだけに平易かつ端的な文章で戦法の狙いなどが書いてあり、将棋を文章で表現する際に非常に役立ちます。もともとがベストセラーシリーズですので既にお持ちの方もおられるのではないかと思いますが……ご存知ですか? 実は大幅にアップグレードされた『増補改訂版』が出版されていることを!

特に『相居飛車編』の改訂は大変なもので、これまでの居飛車五大戦法(矢倉・角換わり・相掛かり・一手損角換わり・横歩取り)に「雁木」を加えて六大戦法としています。
また、この本が観戦記を書く上で有用な点は、誰がその戦法を開発・発展させたのかということや、その戦法を愛用している棋士は誰なのかが書かれているということも挙げられます。
棋士と将棋のことがもっともっと好きになる工夫が凝らされた、素晴らしい本なのです。

 

いかがでしたでしょうか? 観戦記、書けるような気持ちになってきませんか?
またこれらの本は観戦記だけではなく、将棋を題材にした小説や漫画などを書く場合でも大いに参考になると思います。
将棋について書くことは、決して難しいことではありません。いや、難しくはあるのですが……昔ほど情報が不足しているわけではありません。

私が将棋を題材にしたライトノベルを書こうと思ったのは、一編の観戦記がきっかけでした。
それまで私は、将棋とは自分で指して楽しむだけのものだとばかり思っていました。
けれど初めて観戦記というものに触れたことで、他人の指した将棋を『読む』楽しみがあるということに気付いたのです。そして同時に、それを『書く』楽しみもあるのだと。

あの時の興奮は今もはっきり憶えています。スポーツノンフィクションでも、剣豪小説でもなく、私は将棋の観戦記こそが世界で一番熱い文芸だと思っています。
将棋の数だけドラマがあり、観戦記も生まれ得る。
今はほんの限られた将棋だけが観戦記の題材になっていますが、もっともっと多くの人が書く楽しみに目覚めることで、埋もれてしまっている将棋に光が当たることを願っています。
プロの指した将棋だけが観戦記の題材になるのではありません。
友達同士の指した将棋で観戦記を書くことだってできますし、新聞や雑誌に載らなければ観戦記を名乗ってはいけないわけでもありません。
アマチュアとして将棋を楽しむのが当たり前であるように、アマチュアとして観戦記や将棋に関する文章を書くことが当たり前になる……今回ご紹介させていただいた本があれば、絶対に面白いものが書けるはずです。

明日、観戦記書いてみませんか?
 

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著者

白鳥士郎(著者)