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27年ぶり無冠となった羽生善治プロ 呼称は「九段」に

負けてニュースになる棋士、羽生善治プロの呼称が「九段」に決まったことについてのお話。

羽生善治永世七冠は、シリーズ成績3―3で迎えた第31期竜王戦七番勝負最終第7局に敗れ、実に約27年ぶりにタイトルを保持しない状態となりました。

ファンの間ではこれから先、羽生プロをどう呼ぶことになるのかが注目されましたが、本日25日、日本将棋連盟サイトで公式に、

「九段」

とすることが発表されました。

参考 日本将棋連盟HP内「羽生善治の肩書について」

 


羽生プロが無冠になって呼称が注目されたのはなぜ??

 

27年ぶりに無冠となった羽生プロの呼称が「九段」になった。

でも、なぜこのことにファンは注目し、日本将棋連盟は公式発表を出したのでしょう。

今日は、そのことについてお話ししたいと思います。

 

プロ棋士にはみな「段位」があり、段位で呼ばれないのはタイトル保持者だけ

まず、羽生プロが「九段」と呼ばれることがなぜニュースになるのかの前に、このことを説明しなければなりません。

プロ棋士は皆、自分の段位を持っています。プロになって最初に与えられる段は「四段」。そこからさまざまな規定をクリアしてゆくたびに「五段」「六段」と昇段してゆき、最高「九段」まで上がることができます。

呼び方は普通に、「○○○○(名前)○段」となります。例えば、現在の日本将棋連盟会長である佐藤康光プロは「佐藤康光九段」です。

ただし、将棋界に8つある「タイトル」を持っている棋士はそのタイトルが名前の後ろに付き、段位では呼ばれません。例えば佐藤天彦プロは九段ですが、タイトル「名人」を持っているので「佐藤天彦名人」、斎藤慎太郎プロは七段ですが、タイトル「王座」を持っているので「斎藤慎太郎王座」という具合です。

羽生プロは、皆様ご存じの通り若くして実績を積み上げてきた棋士ですから、段位としては1985年のプロ入り後8年余りたった1994年には「九段」に昇段していました。ただ、先日の竜王戦第7局で敗れるまで約27年もの間、必ず何かしらのタイトルを保持していたため、「羽生善治竜王」や「羽生善治棋聖」などと呼ばれることはあっても「羽生善治九段」と呼ばれることはなかったのです。

「永世称号」・・・実績が飛び抜けている棋士だけに起きる問題

では、今回無冠になったのだからルールにのっとって「羽生善治九段」でいいじゃない、普通の呼称に落ち着いたじゃない、とお思いの方もいらっしゃるでしょう。というよりも、それが至極普通の感想と言えます。

しかし、実績が人並み外れた棋士の場合、いくら無冠になったからといって、他の「九段」と同列というのはあんまりなのでは? という考えが出てきます。

例えば、1950年~1960年台の永きにわたり一時代を築いた大山康晴十五世名人の場合、1973年に16年ぶりに無冠になったその同年、「永世王将」の就位式が行われ、「大山康晴九段」ではなく「大山康晴永世王将」と呼ばれることになりました。

同じように、大山十五世名人の後の第一人者・中原誠十六世名人も、無冠になった際に「永世十段」と呼ばれることになりました。

「永世王将」、「永世十段」などの永世称号は、原則的に引退後に名乗ることを許されるものですが、ただの「九段」と呼びづらいほどの実績を挙げている棋士が無冠になった際には、こういう措置が取られた歴史があるのです。

羽生プロは何と言っても永世称号を7つ持った「永世七冠」ですから、永世称号は選びたい放題! 「羽生善治名誉王座」や「羽生善治永世竜王」など、永世称号が呼称になる可能性もあったのです。


将棋世界1974年(昭和49)1月号より 大山康晴永世王将の就位式

 

「前竜王」と名乗ることもできた

もうひとつ、羽生プロの呼称として考えられたものは、「前竜王」というものです。

「前竜王」とは、「竜王」を失った棋士が以降1年に限り名乗れる称号で、「名人」も、失った場合は同条件で「前名人」を名乗ることができます。8つのタイトルの中でこの「前○○」を名乗ることができるのは、位の高い「竜王」「名人」の2つのみとなっています。

ただしこの「前○○」、最近はほぼ形骸化され、条件に見合っても名乗る棋士がいない状態となっていまして、今回久しぶりに羽生プロが「羽生善治前竜王」と名乗るのか、注目が集まっていました。

 

羽生善治「九段」に思うこと

以上の理由から、「羽生プロをどう呼ぶか」がニュースになったのですね。

結果は、冒頭で紹介した通り、呼称は「羽生善治九段」に落ち着きました。

公式発表によれば、「本人の意向を踏まえ」とあります。

原則引退後に名乗ることが可能になる「永世称号」、名乗ることが許されている「前竜王」ではなく、「九段」・・・

その「意向」を完全に理解することはご本人以外には不可能ですが、外野から憶測・・・本当に勝手な憶測をするに、「無冠で結構! フラットな九段の肩書で戦いたい」というところでしょうか。

「大山康晴永世王将」は、そう呼ばれた直後にタイトル「十段」を獲得し、すぐに「永世王将」ではなく「大山康晴十段」と呼ばれるようになりました。

「羽生善治九段」が次に「九段」と呼ばれなくなる日・・・

それはファンが一番見たい「夢のタイトル通算100期」達成の時となるのです。


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