第3回前編 幅広いエンドユーザーが使いやすいシステムを!「やってみたい」気持ちが、確かな技術につながる。|Tech Book Zone Manatee

マナティ

エンジニアコンビに聞く! 技術のお仕事

第3回前編 幅広いエンドユーザーが使いやすいシステムを!「やってみたい」気持ちが、確かな技術につながる。

ITが社会にとって重要なインフラとなって20年。おかげで、最近では、元々ITに興味を持っていた人ばかりでなく、はじめてITの世界に飛び込むような方にも、就職先として選んで貰えるようになりました。しかし、一方で、「ITの仕事」が多様化し、「どんな仕事をするのか」見えづらくなっています。
本連載は、様々な若手エンジニアと、その周りの人に取材することで、「ITには、いろんな仕事があるよ!」ということを知ってもらう企画です。

第三回目は、フリー株式会社(以下、freee)で、フロントエンドのサービス開発を担当している岩下 大樹さんと、その先輩の永井 海斗さんにお話を伺いました。
インタビュイーのプロフィール
●岩下 大樹(いわした ひろき)さん
freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー2チーム所属。
2022年4月freeeへ新卒入社。freee会計内でレシート等のデータを取り込んで保存・管理する「ファイルボックス機能」およびファイルボックス機能に関わるマイクロサービスの開発を担当。また、freee会計のフロントエンドを改善する「フロントエンド委員会」に所属し、freee会計全体の負債解消や新規採用する技術の選定にも従事。

●永井 海斗(ながい かいと)さん
freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー3チーム所属。
2021年12月 freeeに入社。入社よりアドバイザー向けの開発プロジェクトに複数従事。最近ではアドバイザー向け会計開発チームのマネジメントも担当。他にも社内の会計バックエンド委員会活動にも参画。
 

職務と仕事の内容について

ニャゴロウ:現在、どのような職務で、どのような仕事をしていますか

岩下(敬称略、以下同):現在の主な業務は、freee会計の中にあるファイルボックスという機能の開発です。ファイルボックスはあらゆる書類をデジタル化してクラウド上に保管するための機能で、領収書等の書類管理を電子的に行い、電子帳簿保存法にも対応することができます。ファイルボックスにアップロードすることで、OCR機能によって必要な情報を自動的に読み取って、文字を入力する手間を軽減することも可能です。

現在所属しているチームは、全員がファイルボックスの開発に取り組んでいます。サーバーなどのインフラ自体の保守はSREチームがやっていますが、DBに対してテーブルを追加するなどのバックエンドのものに関してはチームで全部やっています。こういった対応は組織によっても違ってくると思いますが、freeeでは、アプリケーション開発者がやりやすい仕組みをSREチームで作ってくれるので、その仕組みに乗っかりながらやっているという感じです。

freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー2チーム所属 岩下 大樹さん

ニャゴロウ:「アプリチームのやりやすい仕組みを提供してくれる」のところ、気になりますね!どんな感じでしょうか。

岩下:例えば、完全に新しいサービスを立ち上げるとなった場合は、SREチームに相談して、それ専用の新しいインフラを作ってもらうことになります。今の時点であるインフラに対して変更を入れるのは、アプリケーションのチーム側でやっています。

freeeでは、領域は細かく決められているわけではなく、各プロジェクトに入りたい人が入って、SREチームと相談しながら進めていくことが多いと思います。最近やったタスクでも、自分がわかるので、自分でインフラも作ってしまいました。自分のタスク外のことでも、やってみたければ手を挙げても問題ないという感じです。もちろん、経験が足りない領域であれば、周りの人を頼れば快くフォローしてくれます。このように仕事を進められるのは、幅広く仕事ができて、学ぶことが多いので、楽しいですね。
ニャゴロウ:やりたい人がやれる社風は、いいですね。楽しそうです!

永井:タスクが発生したら、誰でも手を挙げていいというスタンスです。やってはいけない領域が決まっていないので、挑戦したければやって、自分のものにしていくというスタイルの人が、freeeでは多いという印象です。「何でもやる」という文化が根付いていますね。
ニャゴロウ:良い風土ですね。新しい技術や知識を増やしたくなりますね。
 

やりがいや、楽しいこと、苦労すること

ニャゴロウ:仕事をする上で、やりがいや楽しいことを教えてください。既に、なんとなく楽しさが伝わってきますけれども。

岩下:ユーザーと近いソフトなので、アプリ利用者からのフィードバックがポジティブだったときに一番やりがいを感じます。例えばメールでフィードバックを受けることもありますし、Xでもファイルボックスに関しての投稿があります。もちろん全部がポジティブというわけではありませんが、好意的なフィードバックがあったときは素直に嬉しくて、それをモチベーションに開発しています。愛着が湧いちゃいますね。

永井:Xなどでそういう投稿を見つけると、「こんなのありましたよ」みたいな感じで、みんながSlackのチャンネルにリンクを貼ります。それを見て、みんなで喜び合っているという場面が、日常でよくあります。
ニャゴロウ:ポジティブな反応って、嬉しいですよね。一所懸命やったことが伝わるというか。成果物に輝きが追加されますね。逆に大変だったことや苦労したことはありますか。

岩下:ファイルボックスという機能は、ファイルをアップロードする機能なので、別のサービスから使いたいという要望があります。そういう要望が来た時、その仕様で本当に大丈夫か、実際に実装フェーズに入った時も実装に問題がないかというのをうちのチームが確認しないといけません。

ですので、その仕様から入ってレビューしてというのを、普段の業務と並行してやるというところが結構大変です。最近だとそういう要望が多数来ているので、そこがファイルボックス開発で大変なところだと思います。しかも、電子帳簿保存法への対応が必要なので、もしもそれにそぐわない実装をしてしまったら、問題になります。ですので、法的な観点からも見ないといけません。ファイルボックスの最後の番人みたいな気持ちで、そこは確認していますね。

法的なところは、ある程度の要件はPMが把握していますが、それでも分からない場合は、社内に税関係など法令にとても強いグループがいますので、そこに相談しています。

永井:法的なところは、どうしても分からないことがたくさん出てきます。税理士や会計士として働いていたバックグラウンドを持っている人も社内にいるので、そういった人に相談することもあります。実際に今も業務をしながらfreeeと関係を持ってくれている人もいるので、そういう人たちに聞いて進めることは多いですね。

freee 会計申告開発本部 会計開発部 アドバイザー3チーム所属 永井 海斗さん

ニャゴロウ:エンジニアは、技術だけでなく、業務もわからなければならないとよく言われますが、法務関連までカバーするのは、なかなか大変ですね。アプリの性質ならではの悩みですね。そういえば、freeeはサービス上、個人事業主や企業の従業員などユーザー層が広いと思いますが、その点で苦労はありますか?

岩下:ユーザー層が広いというのがファイルボックスの特徴でもあるので、すべてのユーザーを考慮して実装や仕様を考えるというのは、確かにすごく大変です。デザイン周りで修正が入ることも多く、社内でユーザーインタビューなどをした結果、仕様変更することは多いです。

デザインのプロトタイプは、デザイナーがPMと相談しながらFigmaで作成しますが、QAの方がデザインの段階から入ってくださって、UXを考えながら、デザインについて初期から揉みます。その後、エンジニアにも共有して、エンジニアからのフィードバックをもらい、またデザインを直してと繰り返します。うちのデザイナーさんはものすごく顔の広い方で、社内で例えば元経理の方や元税理士の方などに対して、ユーザーインタビューにたくさん行ってくれます。その結果をもとにまたデザインを変えて、それをまたエンジニアに持っていってというサイクルを回して修正していきます。すごく揉んでいると思いますね。

自分のチームでは、アドバイザーさんにインタビューした動画をPMから共有してもらっています。ユーザーは1日で大量の業務をするので、できるだけ早く打ち込みたいという要望があります。そのためにうちのチームでは、できるだけワンクリックを減らすという目標を掲げています。
ニャゴロウ:チームごとに機能開発されているというお話ですが、そうすると他のチームと、意見や、やり方がぶつかったりはしませんか。

岩下:例えばデザインや画面の配置など、そこに関してぶつかることはあまりないです。freeeには、vibes(バイブス)というデザインシステムがあるからです。それを使うだけでfreeeらしい画面が作れますから、vibesに従って実装すれば、UIがブレることもありません。
※vibesは、freeeが社内で制作・運用しているデザインシステム(ウェブサイトやアプリのデザインに一貫性をもたせるための仕組み)。同社がこれまでこだわってきたアクセシビリティをはじめとするフロントエンド開発のノウハウを詰め込んでいる。
https://corp.freee.co.jp/news/20231219_design.html
ニャゴロウ:そんな便利なものがあるのは、いいですね。いろんな開発現場で欲しい機能ですね。

永井:vibesが吸収してくれるので、同じコンポーネントを使って、変なことをしなければみんな同じになります。保存ボタンが右にあって、その横にキャンセルボタンがあるとか、そういう仕様があまり意識せずに開発できるのは、すごくいいところであると思います。

岩下:他には、freee会計の中にフロントエンド委員会というものがあります。委員会では、新しい技術や技術的負債について議論します。freee会計は10年以上続いているプロダクトで、技術的負債が徐々に溜まってきていますが、開発するチームだけでは、負債を解消する人がいません。それで、このフロントエンド委員会で、有志が集まって、負債解消や新しい技術の導入を進めています。

チームを問わず人が集まっているので、様々なことを経験できます。私は、フロントとバックエンドの両方をやりますが、どちらかというとフロントエンドの方の技術を伸ばしたいという思いがあるので、そういった理由もあって、フロントエンド委員会に入っています。

永井:freeeでは立候補することで様々な委員会に入ることができます。フロントエンド委員会やバックエンド委員会のほかに、「障害から学ぶ開拓者の集い」、「freee Tech Night(不定期で開催するエンジニアのためのイベント)」など様々な委員会があります。

私自身は「会計バックエンド委員会」に所属しており、その中で会計に存在するバックエンドの負債と戦ったり、会計内での標準を考え推し進めていったりする活動をしています。
ニャゴロウ:先ほどから伺っていると、ずっと一つのものを主軸に開発されているだけあって、会社の仕組みが整っているというか、様々な工夫がされていると感じます。そして、余計なストレスなく、すごく楽しく仕事ができそうですね。

岩下:確かに開発に集中できているなという感じがあります。そう考えるとデザインシステムは偉大なんですね。

永井:改めて考えると、会計全体の負債解消やその方法は委員会活動の方で考え改善する、本来ユーザーに届けたい機能開発に関しては各チームで考え実装する、などどこで何をするかの責務の分離ができているのも集中できる環境につながっており、いい仕組みになっているなと思います。
 
※編集部より:

記事は後編に続きます。後編はこちら。

著者プロフィール

小笠原種高(著者)
小笠原種高(ニャゴロウ)
テクニカルライター、イラストレーター。
システム開発のかたわら、雑誌や書籍などで、データベースやサーバ、マネジメントについて執筆。図を多く用いた易しい説明に定評がある。綿入れ半纏愛好家。最近気になる動物は黒豹とホウボウ。

主な著書に、『仕組みと使い方がわかる Docker&Kubernetesのきほんのきほん』(マイナビ出版)、『図解即戦力AWSのしくみと技術がこれ1冊でわかる教科書』(技術評論社)など。