第1期マイナビ女子オープン 本戦1回戦第7局
山田久美女流三段vs船戸陽子女流二段

自戦記 船戸陽子


重いだけのバッグ
▲2七歩も目を覆いたくなるような手だがやむをえない。
馬を作られたらまずいのは前述の通りだし、香を持たれると▲7七玉の瞬間に、
△7二香と打たれてしまう。

▲5五角成は指した瞬間は気持ちがよかった。
△5六金を受けつつ、馬を作り入玉を目指す。
一刻もはやく成りたかった角が、手順に馬になってしめしめと思った。
だが、入玉を目指すのであれば、ここは先に▲7七玉だった
。8六の歩が気持ち悪いのだから避けなければいけない。
案の定、△7四桂とされ、▲7七玉から▲8六玉と脱出する望みは絶たれた。
最後には隠居していた飛まで大活躍である。

投了しようとしたら、なんだか涙がじんわりしてきた。
何とか静めるべく、息を吸って、吐いてを数回繰り返し
ようやく「負けました」の「ま」が口の中にスタンバイ。
そのとき、山田さんが席を立った。   む、むごい。
投了するしかしょうのないこの局面で、
中継までされてるこの局面で席を立つのですか。私は自分の負けのその局面に嫌というほど向き合わねばならないのですか。
そうか。私にはこの厳しさが足りない。とってもとっても甘ちゃんだ。
そう思ったとき何か憑き物が落ち、山田さんが席を戻ってすぐに、私は頭を下げた。

局後、応援してくれたかたに
「格調高い将棋を目指したんですけどうまくいきませんでした」と言ったら
「穴熊を捨てたからバチがあたったんだ」と返ってきた。
そういえばそのかたは穴熊党だし、私が指した予選はどれも穴熊だった。
そうかバチがあたったのかははは、と私は笑った。

楽園なんて名のついた今はただの重いだけのバッグが、恨めしかった。
負けたのはバチあたりでもバッグのせいでももちろんなくて
自分が弱いからなんだけどとりあえずその場は笑うしかなかった。
大丈夫、これで終わりだけど終わりじゃない。
楽園に行くチャンスを永遠に失ったわけじゃないの。
だってマイナビ女子オープンはこれからもずっとずっと続いていくんだから。

 

     

 

山田−船戸戦の棋譜
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