第1期マイナビ女子オープン 本戦1回戦第8局
千葉涼子女流三段vs早水千紗女流二段

自戦記 早水千紗


 第5図以下の指し手
▲5六銀 △5八角成▲同 飛△6七歩成
▲同 金 △6六歩 ▲7七金 △6七銀
▲6五銀 △同 桂 ▲6一飛 △2二玉
▲6五飛成△5八銀不成▲6六龍△8七歩
▲同 金 △6七金     (投了図)
まで82手で千葉の勝ち

キーポイントは角
進んで第5図。
ここではもうかなり悪いが、まだしも▲6六同歩とするのだった。
千葉さんはここでも「△同飛▲6七歩に△5八角成でいいでしょ」

「え、それは▲同飛△4六飛に▲6四角が王手飛車…」
「ひえ〜、それは読んでなかった、はまってたかも」とボケてみせる。
どうも、この将棋は35手目▲2八角、幻の△1五角など、
角がキーポイントだったようだ。

ダブルパンチ
私は第4図△3六角に対する認識が甘かったことに対局中に気づいてしまい、
ショックで立ち直れず、ずるずると投了に追い込まれてしまった。


投了図は詰めろ龍取りで、右側の駒すべてが泣いている。
とりわけ1七の角からにじみ出る哀愁が、本局のすべてを物語っている。


本局の翌日、のどが腫れた。
軽い風邪だと思い、ビタミン剤を飲んで無理やり2つの仕事に出かけたのだが、
さらに悪化。
まさか、そのときは静養生活を1ヶ月以上送ることになるなんて想像もしなかった。

連載でも書いたが、年末年始に家族で温泉旅行を何ヶ月も前から計画しており、
温泉なら風邪もよくなるかも…と思って出かけたのが敗着。
なんと思いもかけない集団食中毒に遭遇して、風邪とダブルパンチ。
最初は「これも神さまが休めと言ってくれてるんだ」と良い方に解釈していたが、
闘病が長引くにつれて私も家族も精神的に落ち込んでいく。
静養生活をせめて有意義なものにしようとあせり、
寝ている間に詰将棋でも解こうと思うと、熱が上がるのでそれもかなわない。
なにも考えないでひたすら10日以上寝つづける、というのは本当につらいことだった。

私は元来、そこまで健康体ではないが、風邪を引いても胃腸炎になっても、10日以内に回復することが当たり前だった。
そんな当たり前のことが大切だと実感した1ヶ月だった。

昨年は、女流棋士会の外部講師を招いての勉強会や、スポンサー、先輩棋士の話を聞き、それに関する多くの文献を読む機会に恵まれた。
将棋界を取り巻く「当たり前」の環境が、じつは先人の多大な苦労によってもたらされたのだ、ひとつの棋戦をつくることも将棋会館建設も本当に大変なことだったのだ、ということを実感した年だった。
今は亡き師匠(高柳敏夫名誉九段)や、さらにその師匠の金先生(易二郎名誉九段)が棋戦交渉をした、というエピソードを聞くたびに少なからず興奮した。

そんな折に、マイナビ女子オープンがスタートした。
私が女流棋士になって初めての新棋戦誕生だった。
本戦1回戦で負けてしまったことは実力不足でしたが、創設に尽力してくださったみなさまに、この場を借りて感謝を申し上げます。


     

 

千葉−早水戦の棋譜
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