第1期マイナビ女子オープン 本戦1回戦第2局
矢内理絵子女流名人vs上田初美女流初段

自戦記 上田初美


 第2図以下の指し手
△3三桂 ▲6五歩 △5五歩 ▲6八飛
△6二飛 ▲5五歩 △6五歩 ▲7七桂
△6四銀 ▲5六金 △7三桂 ▲4七銀
△2二玉 ▲6九飛 △6一飛 ▲3八銀
△8六歩 ▲同 歩 △5七歩 ▲4七銀
△4五歩 ▲同 歩 △8一飛 ▲8五歩
△同 桂 ▲6五桂 △6八歩 ▲同 飛
               (第3図)

 3つの坂
△3三桂は、次に△4五歩が狙い。なので▲6五歩と仕掛けた。

△6四銀で△4二銀と玉を固める手も有力だったようだ。

△4五歩には一瞬驚いたが、それ以降はだいたい読みがあっていた。

そう、▲6八同飛(第3図)までは…。

最近「人生には3つの坂がある。それは、上り坂、下り坂、まさか」という言葉を聞いた。私の脳内では少しずつではあるが、順調に坂を上っていると思っていた。

第3図以下△7七桂成▲7三桂不成△6八成桂▲8一桂成…。

うん、いける。いけるぞ。

しかし次の瞬間、私は自分が3つめの坂を転げ落ちている事に気づいた。

気付いたときにはもう遅い。私はあっという間に下り坂へ、瞬間移動してしまったのだ。

 

血が逆流し、胸が締め付けられ、冷や汗が止まらない。

ポカは何度もやっているが、これは間違いなく身体によくない。

 第3図以下の指し手
△5八歩成▲同 飛 △7七桂成▲5四歩
△同 金 ▲4六角 △同 角 ▲同 金
△6五銀 ▲3五歩 △8九飛成▲5九歩
△2六歩 ▲同 歩 △6六角(第4図)

 メッセージカード
  うっかりしていた。△5八歩成が全く見えていなかったのだ。

これでは後手の飛車だけ成り込むことが出来る。

△6八歩には▲8九飛とするべきだった。

それでも、やってしまったものは仕方がないので桂を犠牲にして、争点を玉頭へ持っていく。

しかし△6六角(第4図)が余りにも痛い。

このときの矢内さんの手つきからはなんとなく、自信のようなものが伝わってきた。

穴熊にとって3九金は命。取られたら負けも同然だが、どうするか。
この日の朝、将棋連盟で郵便物を受け取った。

何だろうと思い中身を見るとメッセージカードに「A級昇級おめでとう!」ともう一つ、

「夢をありがとう」の文字。

私は中学1年生の春、女流棋士になった。今年で7年目になる。

よく「早い時期にプロになれて羨ましい」などと言われるが、本人(私)からしてみると実はそうでもない。

他に道があるんじゃないのか、本当に将棋が好きなのか、など考え始めると止まらない。余りにも早く道を決めすぎた為に迷いが生じ、そこから抜け出せる程大人でも、一つの事だけに打ち込める程真っ直ぐな子供でもなかった。

正直、何度将棋をやめようと思ったか、わからない。

私が今ここにいられるのは、やっぱり将棋が楽しいと思う気持ちと、応援してくれる人たちの声のお蔭。その人たちの為にも頑張ろうと思える。

そしていつか、ちゃんと「ありがとう」と返せる様になりたい。

私は皆さんがいてくれるから頑張れる。

 

 

 

     

矢内−上田戦の棋譜
特集ページに戻る