第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第4局
甲斐智美女流二段vs里見香奈女流初段

観戦記 畠山直毅 


「少女から勝負師へ」

生来の博打好きが嵩じて、
スポーツなど勝負ごとを見るたび勝手にオッズを弾き出してしまう。
本棋戦の総勢16人のメンツを見たときも、
女戦士たちの横に優勝オッズが浮かび上がった。
<鈴木環那女流初段…不気味な末脚を秘めるが相手強い。201倍>
<山田久美女流三段…レースとの相性は上々だが入着までか。51倍>
  とか(失礼!)。
銘柄級のオッズはお叱りが怖いので伏せておくが、
1番人気はやはり清水市代女流二冠。

準々決勝の第4戦。
屈指の好カードだ。
シリーズ直前の私のオッズは、
<里見香奈…ツボにはまればディープインパクト級の末脚。11倍>
<甲斐智美…ムラあるも叩き合いの混戦になれば勝負根性炸裂。15倍>

▲里見 香奈△甲斐 智美
持ち時間3時間(チェスクロック使用)
  初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛
▲6八銀△4二銀▲6七銀△6二玉
▲7七角△3五歩▲8八飛(第1図)

大人っぽく
開戦の20分前、エレベーター前で里見の付き添いで上京した母上と出くわした。
私「今回も夜行バスですか?」
母上「いえ、バスが遅れて対局に遅刻しそうになったので、それからは飛行機で前日に入るようにしています」
私「経費的にも大変っすね。でも、将来は億単位で稼ぐ逸材ですから」
母上「いえ、そんなそんな」

その母上の後ろに隠れるように寄り添うように、高校生の娘が立っていた。
ちょっとドキッとする。
ナマ里見を見るのは1年ぶりなのだが、
少女の面影が薄れてやたらと大人っぽくなっている。
セーラー服からジャケットの制服に変わったせいか。
いや、それだけではあるまい。少女から女に変貌する季節、だ。

対局室。午前9時48分、まずは甲斐が上座に着席した。
水色のカーディガンにグレーのパンツ。
勝てば4強、さらに来期のシード権も得るという大一番だが、
甲斐の服装も表情も穏やかなものだ。
しゃんと背筋を伸ばして正座し、静かに目を閉じる。

そこにすっかりお馴染みの制服姿で里見が現れた。
亀甲型の真ん中に「高」と記されたバッジが鈍く光る。
甲斐は目を閉じたまま、この女子高生が座るのを待っている。

振り駒の合図で甲斐の目が開いた。
両者の直接対戦は2戦して里見の2勝。
ともに相振り飛車の激戦だったが、本局はどうか。

と金が3枚。
後手番になった甲斐はほとんど時間を使わず、飛車を3筋に滑らせた。
これを見た里見も▲8八飛で第1図。
3戦連続の相振り飛車だ。


 第1図以下の指し手
△7二銀▲3八銀△7四歩▲4八玉
△5二金左▲5八金左△2四歩▲4六歩
△4四歩▲3九玉△4三銀▲8六歩
△7三銀▲8五歩△7二金▲8六角
△5四銀▲5六銀△4二飛▲6八飛
△2五歩▲7七桂△1四歩▲4七金
△7一玉       (第2図)

     

 

甲斐−里見戦の棋譜
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