第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第3局
山田久美女流三段vs千葉涼子女流三段

観戦記 佐藤啓 


終盤のため息
▲5九歩はしぶとい粘り。
山田は軽く何度かうなずき、また思考にふける。
「はー」とため息をついて△5八歩。そして席を外す。
形勢は良さそうだが「どうやってこられるのかわからなかった」と多少の不安があった。

入れ替わり席に戻ってきた千葉は5八に打たれた歩を見て小さく「ん」。
詰めろでないので有り難い、というようにも聞こえた。
▲2一銀から寄せにでたところで「千葉先生、残り10分です」。
もう返事はない。

千葉の指し手に再び自信が感じられる。
しかしその読みには大きな穴が開いていた。
「▲5三銀が詰めろだと錯覚してました」。
相手の考慮中それに気付き呆然としただろう。


  第5図以下の指し手
△5八飛▲4二銀打△同 角▲2一金
△4一玉▲6三角△5一玉▲4二桂成
△同 金▲同銀成△同 飛▲3三角
△7九銀▲7七玉△7八飛成▲同 玉
△6六桂        (投了図)
まで98手で山田の勝ち


慎重に勝つ
山田の視線は自玉の周辺に釘付け。
ちらっと相手の駒台にも目をやる。
詰むや詰まざるや。
必死に読んでいるのがわかる。
「山田先生、残り1時間です」の声に、こちらも返事はない。
局後に山田は「銀打たれた瞬間は詰めろかと思ったけど、 読んでるうちに詰まないなと。詰みがないことを何度も何度も確認しました」。

10分で勝ちを読み切り、力強く△5八飛と打ち下ろす。
相手に鋭い眼光を飛ばし、これまでと違ってキッパリ「失礼します」と言って席を立った。それが山田の勝利宣言に聞こえた。

千葉の表情から生気が薄れていく。
飛車打たれちゃったか…とでもいうようにぼんやり盤上を見ている。
記録係から「千葉先生、これより1分将棋でお願いします」の非情な声。
しかしもう時間は関係ない。
返事もなかった。

▲3三角の形づくりに△7九銀から詰ましにでたところで、山田はようやく穏やかな顔になった。
最後の方は淡々と指していた千葉も、△6六桂を見て駒台に手をやり軽く会釈する。

40分ほどの感想戦の後、勝利者インタビューを済ませた山田は、帰り際にこう話してくれた。
「3時間の将棋だとやはり気持ちに余裕があります。2時間だと、今日も最後『あわわ』になっていたかもしれません」。

寒い一日が終わり、外の雪はいつしか雨に変わっていた。

 

     

 

山田−千葉戦の棋譜
特集ページに戻る