第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第3局
山田久美女流三段vs千葉涼子女流三段

観戦記 佐藤啓 


反撃開始
再開後、山田はすぐに△2四同歩と取った。
千葉も一呼吸おいて▲4五桂。
お互い休憩中に考えていたのだろう。
控え室で検索したら▲4六銀までは前例が1局あって、そのときは△8六歩▲同歩△8五歩と継ぎ歩していた。
△3一玉から未知の世界へ。
千葉も全く読んでいなかったという。

▲3五歩△同歩とすんなり突き捨てが入ったのは、千葉も意外だった。
局後「どこまでも素直に応接されるので…」に、山田は「珍しいでしょ」と返していた。▲5四歩から先手の猛攻が始まる。
こうなるとお互いもう後には引けない。
「山田先生1時間使われました」「はい」。
ピシッと△5四同銀と取って「失礼します」と席を外す。
声や駒音に張りがある。
形勢に自信があるのだろうか。

▲5五同銀まで局面は千葉の読み筋通りに進んでいる。
しかし密かに反撃の機会をうかがっていた山田は力強く△5七歩(第2図)と金頭に叩いた。引っぱたくという表現がぴったりだ。

  第2図以下の指し手
▲5七同金△5五銀▲同角△4四銀
▲2二歩        (第3図)

流れが変わる
この日初めて山田が繰り出したパンチに千葉は対応を悩まされる。
▲5七同金では▲6八金右とかわす方が結果的によかったが、ひどい利かされで実戦心理としてはちょっと指しにくい。

△4四銀と角に当てられて再び千葉の手が止まる。
その表情から形勢を推し量ることはできないが、時間の使い方をみると、局面が少しずつ思惑と違う方向へ流れているようだ。

ここで▲7七角と引くのは後に△6五桂が残って味が悪い。
では▲4四同角△同金▲5三銀の過激な攻めを決行するのか。
消費時間もここで2時間を超えた。
「千葉先生、残り1時間です」の声に、小さく「……はーい」。

やがてその細い指先から▲2二歩(第3図)の手裏剣が放たれる。
盤側からは鋭い手筋に映った。
しかし、いかにもうまそうに見えるこの手を境に、振り子の針が後手に傾き始める。
千葉も局後「▲2二歩は叩かない方がよかった」と悔やんでいた。

     

 

山田−千葉戦の棋譜
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