第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第2局
斎田晴子女流四段vs鈴木環那女流初段

観戦記 安食総子 


「水晶のブレスレット」

穏やかな冬晴れ。
朝の対局室は静かに張り詰めた空気が漂っていた。

赤いコートを着た鈴木がさわやかに入室。
もしかしたら、対局前は近寄りがたい雰囲気なのかと思いきや、
いつもの「明るい環那ちゃん」だった。
少し後で入室した斎田も普段と変わらず、落ち着いた様子で席に着く。

▲斎田 晴子△鈴木 環那
持ち時間3時間(チェスクロック使用)
  初手からの指し手
▲1六歩△3四歩▲5六歩△5四歩
▲5八飛△6二銀▲7六歩△4二玉
▲4八玉△3二玉▲3八玉△1四歩
▲2八玉△5二金右▲3八銀△8四歩
▲2二角成△同 銀▲8八銀△5三銀
▲5五歩△同 歩▲同 飛△5四歩
▲5九飛△4四歩▲7七銀△4三金
▲4六歩△3三銀▲6六銀△8五歩
▲7八金△7四歩▲9六歩△9四歩
▲7七桂       (第1図)

勝負師の片鱗
振駒が終わり、対局が始まった。
斎田の初手は▲1六歩。
少し驚いたが、この手はプロの公式戦で30局以上指されているようだ。
鈴木は居飛車穴熊を得意にしているので、端を受けるかどうかは打診の意味もある。この手に対して鈴木は5分ほどの少考ののち△3四歩。

驚いたのは対局が始まるやいなや鈴木の様子が一変したこと。
眼光鋭く、盤上に集中している。
これが彼女の対局姿勢なのだなと、その切り替えの早さに勝負師の片鱗を見た。
普段と対局中との様子がここまで変わる女流棋士は珍しいのではないかと思う。

先手の作戦は中飛車。
わりと早い進行で第1図まで進んだ。
中飛車の戦型においてこの▲6六銀、▲7七桂、▲7八金、▲5九飛の形はよく出てくる形。
▲5九飛と引くことによって角の打ち込みを防ぎ、飛車が活用しやすくなっている。
このあたりからが構想力の見せ所だ。

 第1図以下の指し手
△4二金上▲8九飛△3五歩▲5六角
△8四飛▲8六歩△同 歩▲8五歩
△8二飛▲8六飛△6四角(第2図)

魅力的な女流棋士
斎田は5年ほど前から中飛車を採用し始めた。
「ミス四間飛車」という愛称が今では「振り飛車女王」となり女流棋界に君臨している。対して鈴木はイベントに引っ張りだこで、その元気の良い積極的な性格と人一倍ファンの方を思う気持ちを持った、とても魅力的な女流棋士だと思う。

斎田は力強い手つきで▲8九飛。
そしてその後40分近く長考し、しっかりとした手つきで▲5六角を着手した。
この手では▲6五銀という手もあったようで、感想戦で研究されていた。
7四の歩取りが意外に受けづらい。
例えば▲6五銀以下、△8四飛は▲6六角、△9二角は▲9五歩として角頭を狙う手が間に合いそうだ。また△8三角と受けるのは、先手にも▲4七角と受ける手があり、この変化も有力だったようだ。

しかし、この▲5六角も参考になる積極的な斎田らしい一手ではないかと思った。
この手は▲7四角〜▲6三角成を狙っている。
本譜も8筋を奪回することができ、先手がうまくいっているかに思われたが・・・。

昼食休憩後に指された後手の△6四角(第2図)。
これがまたよく効いている。この角でバランスが取れているとみた鈴木の大局観に好調の理由があるような気がした。
互いの角がどれだけ働くか。
難しい戦いになった。

  第2図以下の指し手
▲8九飛△4五歩▲7四角△3六歩
▲同 歩△4六歩▲5五歩△4四銀左
▲6三角成△5五銀▲7五銀△6二歩
                    (第3図)

     

 

斎田−鈴木戦の棋譜
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