詰むや詰まざるや
中村は渾身の手つきで▲5四馬引。
ポーカーフェイスの矢内が頭を抱えている姿がモニターに映る。
白熱の終盤戦だ。
▲5四馬引を見て長考に沈んでいた矢内が△4九龍と意を決して飛び込んだ。
中村はポンと1つ膝を叩いて勢いよく▲4三馬。
勝算ありか。
△4三同玉に少し首をひねりながら▲5四馬。
▲4五金に△6三玉は▲6四金~▲7三金以下詰んでしまう。
△4三玉に少し手を震わせながら▲4四銀。
淡々と最善手を指していく矢内に比べ、小さな挑戦者は相手玉をひしと見つめ、
時折お茶をぐいと飲んでいる。
第5図以下の指し手
▲4四同金△同 玉▲4五銀△4三玉
▲3四銀△同 玉▲3五歩△4三玉
▲3四金△3二玉▲2三金△同 玉
▲2五香△2四歩▲5三飛成△3三銀
▲2四香△同 玉▲2六香△2五桂
▲同 香△同 玉▲2六歩△2四玉
(投了図)
まで120手で矢内の勝ち
有終の美
なおも中村は必死に王手を繋ぐも僅かに足りず120手で駒を投じた。
感想戦では第4図から数手後の△4九龍で▲3五歩(参考図)が検討された。
どこかで▲3五歩△同香の交換を入れておけば、3五の空間が埋まり本譜の順で詰む変化もある。
ただし▲3五歩には△3七銀からのラッシュもあり、「ちょっと恐い」(矢内)とのこと。
時刻は17時。どっぷりと日が暮れ寒そうな屋外とは対照的に、対局室は熱戦の余韻で熱を帯びていた。
矢内にとってこの対局が27歳最後の対局だった。
「27歳最初の対局はレデース2006の決勝第1局で負けてしまったから最後に勝てて嬉しい」と語ってくれた。
凛として優しい矢内も、上品で素敵な中村も私の大好きな人。
彼女たちの益々の活躍を願いながら、私はアマチュアとして大好きな将棋界に今まで受けた恩恵を少しでも還元できるようがんばっていけたらと思う。
【笠井友貴(かさい・ゆき)】
長崎県出身。東京大学教養学部文化Ⅲ類2年。
高校生時代は高校選手権などの女子部門を次々と獲得。
07年第39期女流アマ名人戦で優勝。
第1期マイナビ女子オープンにアマチュア枠で出場したが、
予選で古河彩子女流二段に敗れた。
趣味は読書、旅行、映画。