第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第1局
矢内理絵子女流名人vs中村真梨花女流初段

観戦記 笠井友貴 


プロとアマの違い
私は佐世保の小さな道場で将棋を学んだ。
小学1年生の冬から毎日詰将棋を1日10題解き、4年生の冬に小学生の団体戦で全国優勝をした。
プロ棋士を目指す道もあったのかもしれないが、自分にとっての「棋士」は精神的にも距離的にも遠かった。
何より、色んな可能性がある中で勝負の世界に一生身を置く覚悟をすることは、幼い私には恐くてできなかった。

私にとってプロ棋士は畏怖の存在である。
そのため、プロ棋士と対戦するとき勝ちたいと思う一方で、相手に負けてほしくないとも思う。
矛盾しているようだが、プロはもっともっと特別な存在であってほしいのだ。
そして将棋を始める子ども達にはそんな人たちに憧れて育ってほしいと思う。

技術面では木村一基八段がプロとアマの違いを「辛抱」だとおっしゃった。
短い持ち時間のアマチュアはそう忍耐強くはなれない。
そして本局でそのプロらしさを見せ付けたのが△5四香の局面だ。
端の馬作りが大きく、やや先手もちかと思っていた。
そこでじっと我慢の△5四香が善悪は別として
「ずっと苦しいと思っていた」矢内の粘り強い一手。

△5四香で△5六香は▲同金△同歩▲3七飛△3六歩▲同飛と進んで、
そこで△2五金には▲3七香の返し技がある。
「△5四香は予想外」と言う中村だが、
臆することなく香車で着実に後手の玉頭に圧力を加える。
後手は△3五歩▲同香と呼び込んで△5六歩(第2図)と手筋の突き捨て。
局面は俄かに混沌の様相を呈してきた。


第2図以下の指し手
▲5六同金△4四銀▲8一馬△6四金
▲3三歩成△同 桂▲3四歩△3五銀
▲3三歩成△同 銀▲5三角△3四香
(第3図)

     

 

矢内−中村戦の棋譜
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