第1期マイナビ女子オープン 本戦2回戦第1局
矢内理絵子女流名人vs中村真梨花女流初段

観戦記 笠井友貴 


「女流アマ名人の観戦記」

秒読みの声が遠くに聞こえる。

盤側にいる誰もが矢内玉の詰みを探していた。

中村は相手玉を捕らえる網を必死に手繰り寄せようとする。
しかし、そこに望むものがないとわかったとき、フッと短い息を吐いて投了を告げた。

今回幸運にも観戦記を書かせていただくことになった。
こんな大役に初めは恐縮したのだが、時の名人と今最も勢いのある若手との一戦を直接見て、思いを筆に託すことができることは光栄だと思い、引き受けさせていただいた次第である。
若輩者の私にこのような機会を与えて下さった編集部の方々、また両対局者には深く感謝しています。

▲中村真梨花△矢内理絵子
持ち時間3時間(チェスクロック使用)
初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩
▲1六歩△1四歩▲6八飛△6二銀
▲7八銀△4二玉▲3八銀△3二玉
▲4八玉△5二金右▲3九玉△5四歩
▲5八金左△4二銀▲2八玉△5三銀左
▲6七銀△8五歩▲7七角△7四歩
▲5六歩△9四歩▲9六歩△6四歩
▲4六歩△6五歩▲4七金△7三桂
▲3六歩△8六歩▲同 歩△6六歩
▲同 銀△6五歩▲同 銀△7七角成
▲同 桂△2二角▲5五歩△同 角
▲6七飛△8六飛▲6三歩△5一銀
▲5六銀△6六歩▲5七飛△8八飛成
▲5五銀△同 歩▲3五歩(第1図)

6五歩早仕掛け
朝、連盟に到着するとエレベーターを待つ中村に会った。
同学年の彼女とは気の合う間柄なのだが、この日の少し俯き加減で言葉少なの彼女からは、対局に望む独特の緊張感があった。

一方の矢内は、早々と対局室に入りリラックスした様子。
私の挨拶にもにっこりと笑顔で返して下さり、私の方が緊張でドギマギ。

1回戦で清水市代女流二冠を見事破り勢いに乗る若手と、彼女を迎え撃つ女流名人。この二人がどんな棋譜を残してくれるのか、私自身とても楽しみであった。

振り駒で先手になった中村は得意の四間飛車。
矢内は慣れた様子で居飛車急戦の構えをとった。

静謐(せいひつ)とした対局室に駒音だけが響く。
窓から射込む朝日が盤上を照らし、対局室の雰囲気を柔和なものにしている。

矢内が△6五歩と仕掛けて中盤戦に突入した。
中村が▲5五銀△同歩に▲3五歩(第1図)と玉頭に嫌みをつけにいったのが好判断。控え室では先手持ちの声が多数上がった。

第1図以下の指し手
△9九龍▲3四歩△4二銀上▲8二角
△6三金▲9一角成△5四香▲3七香
△3五歩▲同 香△5六歩(第2図)

     

 

矢内−中村戦の棋譜
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