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歴代最年少名人 芝野虎丸の軌跡

第3局 世界トップ棋士に挑む -対 柯潔九段 ①

2019年10月に、史上最年少の19歳で囲碁の名人位を獲得した芝野虎丸名人。新星誕生のニュースは、囲碁界の枠を飛び出して大きく駆け巡りました。
人前で言葉を発することがほとんどなかったというシャイな少年・芝野虎丸は、いかにして碁界の頂点まで登り詰めたか。
名人を一番近くで見続けた兄、芝野龍之介二段が、その幼少期から名人戦までの戦いを振り返りながら、その才能と人柄に迫ります。

黒 柯潔九段 白 芝野虎丸七段

日中竜星戦 対局日 2018年4月29日 

ルーマニアでの出会い

日中竜星戦の対局を紹介します。この対局は、日本の竜星と中国の竜星が対局をするもので、賞金も300万円と、大事な一局になっています。対戦相手の柯潔九段は世界トップレートを堅持しており、数多の実績を持っています。私は虎丸が柯潔九段にどう立ち向かうのか、非常に楽しみにしていました。日本と中国が持ち回りで開催しており、今回は中国の北京での開催でした。ルールも中国ルールです。

虎丸は小学6年生の時に柯潔九段とルーマニアで会っています。ワールドユース碁チャンピオンシップというものがあり、そのジュニアの部(12歳未満)の日本代表に虎丸が選ばれたのです。この大会は中国からはプロ棋士が毎回出てきていて、中国のシニアの部(15歳未満)の代表が当時四段、14歳の柯潔さんでした。柯潔さんはその時からとても優しい方で、虎丸も一緒に写真を撮ってもらったようです。

この時の大会では虎丸は世界5位になりました。ルーマニアには母が同行しており、私は詳しいことはわかりません。ネットでの配信がされており、対局中継をかじりつくように見ていた記憶はありますが。

また、この時しばらく会えなくなるので寂しくならないように毎日ビデオ通話をしていました。特に話すこともなかったため、繋げてもかなりの速さで切っていました笑。

この時の観光の日に、ランチタイムにヨーロッパチャンピオンが虎丸と打ってくれたことがあるそうです。他にも韓国の引率で来ていたプロの先生や、日本から一緒に行ったプロの先生方など、ものすごく多くの方が対局をしてくださったようです。また、最終日の夜には、ルーマニアでできた友達と夜中までずっと対局をしていたとか。最初は皆でわーっと打っていたのが、その中の一人が途中で虎丸を自分のテーブルに引っ張って行って独占して打ち続けていたのだそうです。その年齢のときからいろいろな方に気に入られて、国際交流ができたのはすごい経験になったのではないかと思います。

この2年後には、今度はシニアの部の代表で虎丸はチェコに行きました。これには父親が同行したのですが、観光の時間も多く取られ、古城めぐりをしている最中に迷子になったり、あやつり人形館の暗い部屋で人形に囲まれて怖い思いをしたり、囲碁以外の思い出もたくさんできたようです。対局会場はリゾートホテルで、休憩時間には卓球をしたり、テト四(石が4つ並ぶともう一手追加で打てるという変形ルールの囲碁で当時院生の間ではやっていました)をしたりして過ごしたそうで、普段の囲碁漬けの生活から離れて楽しい時間を送れたのではないかと思います。チェコでの大会で虎丸は準優勝をし、すごく喜んでいた記憶があります。ちなみにジュニアの部では関航太郎君(現プロ棋士)が代表で行き、日本初優勝を成し遂げました。

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1譜

タスキ型の立ち上がりです。10~12とハサんで戦いが始まりそうです。

 

人類最後の砦

柯潔九段はこの対局の前年の5月に、アルファ碁と対戦して0勝3敗という結果でした。この対戦は人類最後の砦として柯潔九段が登場しており、この結果によりアルファ碁は人間との対局から引退しました。この後、アルファ碁の開発はまだ続き、アルファ碁ゼロが発表されるにいたりました。

柯潔九段はこの対戦のための研究も当然していたので、AI碁に対する理解はとても深いです。世界一詳しいと言っていいレベルでしょう。打ち方にもそれは現れています。この対局ですと、7のカカリひとつで9の地点にシマルのもAIの研究をしたからこその発想です。

虎丸もAI碁の研究は深くしています。毎日のようにAIと対戦していることもありましたし、自身の対局の検討でもAIを使うことが多いです。AIの研究をしないと勝てないとまでは言いませんが、新しい見解を得ることができるので碁の幅、対応できる幅が広がり、棋力向上につながります。

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2譜

15~28はよくある定石の一つ。地は黒がだいぶ得していますが白もかなり厚くて戦えます。29は頑張り気味な険しい手。

 

AIとのかかわり

柯潔九段も虎丸もAIを勉強道具として活用しています。自分より強いのだから利用できるならしたほうが上達速度は速まります。二人に限らず、棋士はAIと前向きに付き合っている方が多いです。とにかく今まで知らなかった、発想になかったという手が出てくるのが面白いと感じるのです。囲碁が好きで、もっと深く知りたいと思っているので、人間より強いAIの登場は喜ばしいものなのです。

私もAIとは何局も対戦しました。入段前からでしたが、ZenというAIに互先で3勝114敗、二子局では15勝119敗3持碁と、ボロボロにされながらも毎日のように打って修行していました。インターネット対局なので観戦者もおり、非難されることもありましたが、とにかく強い相手と打てるということが楽しかったです。

抜かされたと考えるとつらいものがありますが、気持ちを切り替えてうまく向き合っていくことが大事です。

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3譜

30とさっそく白が仕掛けていきました。左上の厚みに物を言わせたいので当然の展開です。32はもう少し緩やかにいく手もありますが、虎丸は妥協しません。

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著者プロフィール

芝野 龍之介(著者)