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「自戦記」と「観戦記」どちらを選ぶべき? 新刊案内『大局観が劇的に良くなる! 囲碁・上達のための棋譜並べ』

新刊『大局観が劇的に良くなる! 囲碁・上達のための棋譜並べ』の内容紹介と「自戦解説」の良い点を紹介しています。

こんにちは。『ちはやふる』は断然太一派の山本です。

本日は、新刊『大局観が劇的に良くなる! 囲碁・上達のための棋譜並べ』の発売日です!


本木克弥八段、寺山怜六段、上野愛咲美女流本因坊、広瀬優一四段という今を時めく若手のスーパースターを著者に据え、師匠の藤澤一就八段が監修した自戦記になっています。


今回はその内容紹介も交えつつ、「自戦記」の良い点を私なりに分析したので、お伝えしたいと思います。

そもそも、囲碁の解説には2つあります。
  1. 他人の碁を解説する「観戦記」
    タイトル戦の解説などです。NHK杯など、リアルタイムでの解説もそうですね(厳密には違う気もしますが、他人の碁を解説するという広い意味で...)
  2. 自分の打碁を解説する「自戦記」
    雑誌や打碁集でまとめられることが多いです。

もちろん、どちらにも良い点があります。

観戦記は、「対局者の主観が入らない」「手身近に碁の内容だけを知りたい時に便利」「そもそも題材が広くなる」「名物書き手がいる」などが挙げられます。
こちらもいつか、具体的におすすめする記事を書いてみます!

今回は自戦記の良い所を以下の4つに分けて紹介したいと思います。
  1. 主観バリバリ! 気持ちのこもった解説を読める
  2. 独特な囲碁観を知ることができる
  3. 解説に遠慮が入らない!
  4. 取材がより楽しい
 

1、対局中の思考や心情、相手との駆け引きを臨場感を持って知ることができる

当人から聞くので、これは当然ですね。
人間的な感情が出ている記述は、読んでいて楽しいです。
もちろんそれだけではなく、例えば「形勢が悪いと思っていたからこう打った」「ただの時間つなぎのつもりだった」など、手の裏側を知ることができるのも自戦解説ならではです。

2、囲碁観を知ることができる

ここが私のイチオシです。こんな例があります。

新刊より
寺山怜六段 「厚みを貯金と考える」

 

実戦は白1と▲2子を取り切りましたが、寺山先生はこの手を反省しました。
右上は黒a~cの手段も残っており、見た目ほど大きくなかったのです。



白1のの打ち込みから捨て石を使い、白9まで全局的な厚みで勝負するべきだったとの感想です。
書籍内では、このような独特な表現で反省しています。

反省すべき点があるとすれば、白1のサガリでしょうか。厚みを地に転換させるタイミングは難しいものなのですが、もう少し我慢して厚みを「貯金」しておけばよかったなあ、と思っています。


厚みを「貯金」と捉えているのですね!
他の碁では、「貯金」を上手く使っていき、見事に勝利した場面の解説もあります。
「厚み」は曖昧な部分もたくさんあるので、理解が難しいテーマです。
それを「貯金を貯めたり、使ったり」という表現の解説は秀逸で必見です!

もう一例。
2018年8月発売『並べるだけで強くなる! 囲碁・プロが選んだ名局選』より

王メイエン九段 「コートの真ん中に戻る」

 

この局面で黒1と打ちました。
メイエン先生はこの手をこう解説しています。

黒1は、コートの真ん中に戻って相手のボールを待っている、という手。AとBを続けて打てるのであれば、真ん中に戻る必要はないですが。
この「コートの真ん中に戻る」というのが、私が碁を打つときの基本であり総論です。

 
かなり独特な囲碁観を持っておられることがわかります。
この黒1を打てる人は、メイエン先生以外にもいるかもしれませんが、同じ思考のプロセスを辿る人はいないでしょう。

このような、唯一無二の考え方が語られるのも、自戦記の大きな魅力です。



3、遠慮が入らない解説=わかりやすい!

 以下は観戦記で棋譜並べをしていた時の私の2大失敗です。

  • いつの間にか棋譜並べが終わってしまっていて、結局何が悪かったのかわからなかった...
  • 格好良い手をマネしたけど、実は悪手だった...(しかもそれに強くなるまで気づかない...)

観戦記では、「悪い手の指摘がしにくい」という弱点があると思っています。
棋士の先生方同士のリスペクト、または囲碁自体にリスペクトを持っておられる先生が多く、どうしても悪手の指摘がしにくいのではと推測しています。(その反面、お手本となるような手はわかりやすく解説されています!)

ただやっぱり「良い手は良い手、悪い手は悪い手」といったはっきりとした解説が欲しいのが本音です。
囲碁は、ただでさえ形勢判断が難しいゲームなので、表現が曖昧だと混乱をしてしまう方も多いのではないでしょうか。(私がその沼に嵌った一人なので...)

呉清源先生や秀行先生、そして治勲先生のバサッといく解説が人気なのは、そこが大きいのかなと思います。


その点、自戦記は自分に対してなので遠慮は入りません!

ズバズバっと爽快な解説が続いて、わかりやすいです。
相手の手に対しても、心なしか自分への解説につられて、はっきりとした解説になる傾向があるように思います。

 
新刊より




上野先生の解説です。(黒番)

▲の一団は、働きに乏しい形です。今見ると「けっこう白が良い」と判断しますが、当時は今よりずっとポジティブだったんでしょう。そこまで黒が良くないとは思っていませんでした。(中略)
さてここがこの碁のポイントです。黒を持ちたい人はいないと思いますが、まだまだ勝機はあります。
 


過去の心情も交えつつ、明快でわかりやすいです!
「今はそんなに黒が悪いのか。ここから挽回する場面なのね!」と、こんなに現状がわかりやすい解説に出会ったのは初めてかもしれません(笑)


確かに、これを自分以外の碁の解説で言えというのは、あまりにも無茶ぶりでしょう。
自戦記ならではだと思います。

4、取材がより面白い


完全に伝わらない部分ですが(笑)

取材途中で記憶がよみがえるのか、急に反省をされたり、明らかに序盤と勝負所の解説ではテンションが違っていたり...。

これは制作側サイドに回った時の楽しみにしておいてください。


以上、「自戦記」について取り上げてみました!
ここで新刊の宣伝に戻りますが、本書はそんな明快な自戦記が10局も収録されています。さらに、、、

手厚くバランスの取れた棋風の寺山怜六段

石の競り合いに強い本木克弥八段

攻めが「ハンマー」のように強い上野愛咲美女流本因坊

後半力・ヨセが持ち味の広瀬優一四段

上記のように、解説棋士の棋風はバラエティに富んでいるので、上達のヒントが散りばめられています。是非楽しく並べながら強くなってください!


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