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歴代最年少名人 芝野虎丸の軌跡

第2局 竜星獲得の一局 -対 余正麒七段 ②

2019年10月に、史上最年少の19歳で囲碁の名人位を獲得した芝野虎丸名人。新星誕生のニュースは、囲碁界の枠を飛び出して大きく駆け巡りました。
人前で言葉を発することがほとんどなかったというシャイな少年・芝野虎丸は、いかにして碁界の頂点まで登り詰めたか。
名人を一番近くで見続けた兄、芝野龍之介二段が、その幼少期から名人戦までの戦いを振り返りながら、その才能と人柄に迫ります。

サボリ

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一旦担ぎ出して、黒が17と押して重くなった瞬間に18からの切断。厳しそうに見えます。虎丸にこういった手を打つとなぜだかうまくかわされるから不思議です。

家での囲碁の勉強ですが、親にばれないように一緒にさぼっていた時期もありました。主にネットゲームを楽しんでいました。何度もばれて怒られています。虎丸だけがばれた時に私は知らんぷりをしていました。しかし、虎丸がばれたということは私のパソコンも調べられてしまう可能性が高くなるため、私もそれ以降できなくなりましたが。悪いことだと思いながらこっそりやっていたので、叱ってもらえて感謝しています。今はもう自制できるので、怒られることはないです。最近だと、虎丸が動画で見たと言って面白そうなゲームの話をしてきて一緒にしました。「今日はもう十分やったし仕事の締め切り間に合いそうだからゲームするか」と私が言うと、「いいねえ」と返ってきて、やっていました。その時の操作は私がやって、プレイ動画をもう見ていて攻略情報を多少知っている虎丸に指示してもらっていました。「怖いから進みたくない」「俺だって怖い」とお互い怖がっていました。

虎丸は私がさぼることが多いのをよく知っていたので、頻繁に私が何をしているのかチェックしていた時期がありました。「おい、何してるんだ」と虎丸に言われたり、パソコンをのぞき込まれたりすると、私は隠していました。別に隠す意味は何もなかったのですが、ゲームをしている現場を見られるのは何か気に食わなかったのでしょうね。私がさぼらずに勉強していて少しも動じずにいたら、それはそれで「囲碁かよ」などと言ってくることがありましたが。

家ではさぼっていたことがありつつも、外では道場に行って帰ってくるという決まった行動しかしなかったので、寄り道をするという発想すらなかったです。電車の中でも囲碁の勉強しかしていなかったし、帰りも遅いことが多かったので、なんだかんだ学校に行きつつも毎日必ず10時間は囲碁に触れていました。最近虎丸との仕事帰りにカラオケに寄ったことがあるのですが、二人で遊びにいったのは過去にこの一度だけです。
 

黒やや良し

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19から左下に展開して行きました。サカレ形になり黒悪そうに感じましたが、23に対して白どう対応していいか難しいです。

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5

24と目一杯に受けました。黒は左下を損した代わりに、利きを駆使して中央に手を戻します。

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白も当然黒をバラバラにしに来ますが、37が手筋。白の形を崩すことができ、後の戦いが有利になります。

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7

41までとなって白も黒も弱い石が二つずつになりました。左辺に利きがあるのと、下辺の石数が黒が半個多いのとで、少し黒が有利な戦いかと思います。

42はサバキに来た手。

戦いとは

私は戦いを難しいものだと思っていた時期がありました。そこで勝敗が決することが多いし、実力差が出やすいところだと。ところがあるとき、道場で検討していただいていた先生が、形勢が良い時に戦いを仕掛けてもらえると、ただ戦っていればいいだけになるから楽だという話を受けました。当時の私にとっては新しい視点で衝撃的でした。しかし、考えてみると、戦っている最中はその戦いのこと以外に考えるものはほとんどありません。少し間違えると形勢が大きく傾くのですが、言い換えると一番良い手と他の手の差が大きいとも捉えられます。つまり、戦いの最中は最善の手を見つけ出しやすくなるわけです。形勢が思わしくない方は逆転への道筋を考えて着手するわけですが、形勢が良い方はそれを潰すだけです。プロに近いレベルまで力が身についてからだと、常に最善を求められるので、戦っている最中は最善を打てることが多くなり、差が出にくくなります。戦いが強いと言われている先生方と差が出やすいのは、戦いを始めるまでの構想と、戦いを仕掛けたら有利になるかの判断力のあたりです。

虎丸は昔から構想が上手であったように感じます。考え方が私とは明らかに異なる部分が日頃の棋譜から読み取れるのですが、私はそれを虎丸の得意パターンと認識しています。その得意パターンを自分で見つけ出し、昔からずっと打っているのでその成果が今も強みとして残っています。自分の武器を一つ持っていることは成長効率に良い影響を大きく及ぼすので、素晴らしいことだと思います。

虎丸は日常生活ではあまり自分の意思を持っているようには見えないのですが、盤上では自己流を貫いているというのは不思議な話です。

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著者プロフィール

芝野 龍之介(著者)