第7回 福岡の「トラム」|くらしの本棚

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第7回 福岡の「トラム」

この度、フリーライターの私が、取材の合間に寄り道したり、誰かに連れて行ってもらったり……。
そんなお店をご紹介する連載を始めることになりました。
とは言っても、私は元来マメな性格ではないので、話題の店にすぐ足を運んで……というショップ紹介ではありません。
日本のあちこちに、わあ、なんて素敵な場所だろう……と心を震わすお店がある。そこには、必ず素敵な人がいる。そんな出会いを、ご紹介できたらいいなあと思っています。

この連載の第1回にご紹介した「クランク」「マルチェロ」と共に福岡に行ったら必ず立ち寄るのが、北欧雑貨の店「トラム」です。

10年以上前、「マルチェロ」がオープンしたちょうど同じ頃にオープン。
その頃は、警固にある古いアパートの一室でした。
トントンと外階段を登り、古びた廊下を歩いて扉をあけたら、本当にセンスのいいかわいいものがぎっしり詰まっていて私は出張のたびに立ち寄って、クッションカバーやカトラリーや、小さな家具や、毛糸の手袋などを買ったものです。

そんなトラムさんが薬院へと移転。
以前の倍以上の広さになり、とても見やすく、過ごしやすくなりました。

今回も、古いマンションの一室で

トントンと階段を登り、廊下を通って扉をあけるという道のりは同じです。

店主の水上真由美さんはご主人と共に1年に4~5回北欧に買い付けに行かれます。
もともと会社勤めだったご夫婦が、たまたま北欧に旅行に行ったとき「みんなが暮らしをとっても楽しんでいたんです。日本人は絶えず忙しくて、時間がなくて……。北欧の暮らしっていいなと思ったのが、お店を開くきっかけかな」と教えてくれました。

現地でレンタカーを借りて蚤の市などを回る旅は一見楽しそうですが、とても重労働だし、集中力を必要とし、ヘトヘトになるそうです。
現地でキッチン付きの部屋を借り、料理をして食べて、梱包し、疲れ果てて眠ったら翌朝また早く起きて出発。
そんな地道な買い付けの旅があって、私たちは「トラム」のお店で、ワクワクするものと出会えるのです。

アラビヤやイッタラ、リサラーソンと有名ブランドのものももちろんありますが、水上さんが買い付けで選ぶときには、特に「名前」にはこだわらないそうです。
「北欧の器やキッチン道具や家具は、名もないものでも美しい。そんな”普通”が素敵であることを、みなさんにご紹介したいんですよね」と水上さん。

だから、トラムに並んでいるものを眺めると自宅で使っている風景が目に浮かぶのです。
シンプルだから、どんな空間にも似合い、その家らしさに染まっていく。
そんな品揃えも、トラムらしさかもしれません。

最近では、東北で編んでもらったあけびのかごなど日本の道具や着心地のいい洋服も販売するようになり、一層お買い物の楽しみが広がりました。

私が福岡に行ったとき、水上さんが上京されたとき、一緒にご飯を食べに行きます。
水上さんは、しなやかな見た目とは違って、かなり男前。
思い切りがよくて、行動力抜群です。

日本橋三越本店で、「暮らしのおへそ」展を開催したときも出店していただきました。
水上さんが、店頭に立ち、商品をちょっと移動させてディスプレイを変えるだけで、今まで通り過ぎていたモノの前で、みんなが足を止めるから不思議。
どう使ったら楽しいかな?と想像力を膨らませ、アレとコレを組み合わせる……。
そんな水上マジックは、ご自身が、モノや暮らしが好きだからこそなのだなあと実感しました。

全体のトーンはずっと変わらないけれど、訪れるたびに、必ず新しい発見がある……。
だから、また出張帰りにトントンと階段を登って、立ち寄りたくなるのです。

トラム
福岡県福岡市中央区薬院1-6-6-202
☎092-713-0630
営11:00~20:00
水、木曜日休
http://tram2002.com/

【201704旅行・九州】

プロフィール

一田憲子(著者)
1964年生まれ。編集者・ライター。OLを経て編集プロダクションへ転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などで活躍。企画から編集を手がける暮らしの情報誌『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社)は、独自の切り口と温かみのあるインタビューで多くのファンと獲得。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、これまでに数多くの女性の取材を行っている。著書に『「私らしく」働くこと』、『ラクする台所』(ともにマイナビ出版)などがある。