2012.05.18
前回は月と金星を観賞しました。それにしても季節のせいかもしれませんが、筆者が住んでいる地域は意外に晴れの日が少ないものだと改めて実感しています。本番の日の天候が心配ですが、時間が迫ってきたので話を進めます。今回は太陽撮影の注意点とフィルタです。
太陽撮影はやらないに越したことはないが…
フィルタ云々の前に最初に注意点を確認しておきたいのですが、太陽投影版を使用した観察と比べてカメラを使用した太陽撮影は極めて危険です。一歩間違えると機材が壊れるだけではなく失明する危険性があります。太陽撮影の知識のない方や天体望遠鏡を初めて扱う方は無理せずに太陽を撮影するのはやめたほうがいいでしょう。
しかし、ほとんどの方は、人生の中で金環日食を撮影できるチャンスはこれが最後でしょう。どうしても自分で撮影したい方は専門家の指導を仰ぐか知識を貯えて経験を積む必要があります。以下、太陽の撮影についての注意事項をまとめました。天体望遠鏡の鏡筒にカメラを取り付けた撮影に限らず、一眼レフやコンパクトカメラ単体で撮影する場合も危険性は変わりありません。また、フィルムカメラも危険性は同じですが、位置やピントの確認を光学式ファインダで行なわなくてはならず、デジタルカメラよりも危険が高いと言えます。
太陽撮影の大原則
日食は空が暗くなるほど光が月で遮られるので大丈夫だと思っている方も多いと思いますが、金環日食は皆既日食に比べて月が光を遮る面積が小さいので(約88%しか太陽を隠すことができない)、見た目は普通に輝いている太陽とほとんど変わりがありません。9割近くも隠れていても?と思われるかもしれませんが、普段の太陽は月の40万倍の明るさで、食の最大でも約4万倍もあります。日食メガネを通して見ることによって初めて月が太陽に被さっていることがわかるほど明るいのです。
そのため、ちょっと見ただけでも確実に目にダメージが蓄積して行きます。まして、人間の目の数十倍?数百倍も光を集めることができるカメラのレンズや望遠鏡を減光フィルタを使用せずにそのまま直接肉眼で覗けば当然失明してしまいます。また、撮影用で販売されている減光フィルタ(NDフィルタと呼ばれているものが多い)は、目に害のある光線を完全に遮断していないものも含まれており、眼視用として販売されている一部の製品を除くとと必ずしも安全とは言い切れません。とにかく、どんな状況であっても直接目で見ないようにすることが大切です。
【太陽撮影時の注意事項】
◯必ず減光フィルタやキャップを対物レンズ(対物鏡も含む)の前に取り付ける
◯レンズで集光された太陽の光を日食メガネや日食グラスで覗かない
◯位置合わせやピントの調整は光学式ファインダを覗かずに液晶モニタに表示して確認する
◯減光フィルタを取り付けていても直接目では覗かない
◯減光フィルタは曇ると太陽が見えづらくなるのでその対応策を考えておく
必ず減光フィルタやキャップを対物レンズの前に取り付ける
太陽は驚くほど明るい星です。人間の目の何百倍も光を集めることができるレンズや鏡に何も取り付けていない状態で太陽を直接覗いてしまうと日食網膜症どころか目が本当に焼けてしまいます。カメラ等の撮影機材も壊れてしまう可能性が非常に高くなります。太陽にカメラや望遠鏡を向ける際には必ず適切な遮光性のある減光フィルタを対物レンズの前に事前に取り付けておきましょう。
また、主鏡筒導入用のファインダでレンズを使用しているものは倍率が低くても集光して危険です。近くにいた子どもの肌に当たって火傷をするというような思わぬ事故が起きることもあります。ファインダにはキャップをしておきましょう。なお「スカイポッドVMC110L」に付属しているような等倍のスポットファインダは集光しませんが、太陽観賞にはなんの役に立ちませんので、キャップを被せるか取り外しておきましょう。
レンズで集光された太陽の光を日食メガネや日食グラスで覗かない
望遠鏡やカメラに取り付けるための対物レンズ用の減光フィルタはサイズが大きいので価格が高めになります。日食メガネ(日食グラスも含む)を掛けてファインダや接眼レンズを覗けば大丈夫だと勘違いしている人がたまに見受けられますが、日食メガネはあくまでも肉眼で直接太陽を見ることを前提しており、レンズや鏡で集光された強烈な光を見るようにはできていません。対物レンズの前に減光フィルタを取り付けずに接眼レンズを覗くと日食メガネを通して覗いても光が強すぎてほとんど役に立たず確実に目が焼けて失明します。
数十年前になりますが、現在のように減光率が高くて面積が広いフィルタがない時代には接眼レンズに被せるサングラスのような製品が販売されていた時期がありました。対物レンズをある程度覆うことによって減光させてガラス製のフィルタで覗くというものでしたが、実際に試したところ熱で数秒で熱で割れてしまいました。割れる寸前に「ピキッ」という音がしたのでとっさに目を離して難を逃れましたが、一歩間違えば完全に失明していました。考えてみると、サングラスが割れなかったとしても目に有害な光線を遮断できていたかどうかすら議論もされていませんでした。当時は、日食網膜症の話などまったく知れ渡っておらず、金環日食日本委員会のように太陽観測の危険性を指摘してくれる団体もほとんどなかったように思います。位置合わせなどの作業をしている最中に太陽光が目に入ってしまいダメージが蓄積していく場合もありますので気をつけてください。
位置合わせやピントの調整は光学式ファインダを覗かずに液晶モニタに表示して確認する
とにかく直接目で覗かなければいいわけです。これさえ守っていれば何かミスをして機材が壊れることがあっても失明することはありません。コンパクトデジタルカメラの多くはリアルタイムに被写体を表示できる液晶モニタのみを搭載しているモデルが大半を占めているため問題が少ないのですが、光学式ファインダが基本となっているデジタル一眼レフカメラは注意が必要です。最近の製品はライブビューと呼ばれるリアルタイムで表示できる機能を備えている製品が多くなりましたが、古い機種や低価格の製品はこの機能を搭載していないものあります。また、フィルムカメラはコンパクト、一眼レフを問わず液晶モニタを搭載していません。液晶モニタにリアルタイム表示ができないカメラは太陽撮影に使用するのはやめましょう。
NDフィルタを取り付けていても直接目では覗かない
最近は、1万分の1あるいは10万分の1といった太陽撮影用のNDフィルタが販売されています。しかし、これらのフィルタを取り付けていれば目で見ても安心だと考えている人がいますが、NDフィルタの多くは風景をきれいに写すためのものであり、人間の目に有害な赤外線などを減らす目的では作られていません。つまり、暗く見えても悪影響のある光線を通している可能性がありあり、メーカーのサイトにも目で直接見ないように注意を促しています。この件については最近周知されてきましたが、過去にはあやふやな解説や記事が多かったり、あるいはNDフィルタを取り付けてそのままカメラで覗いて撮影できるような記述の記事があるので注意しましょう。
NDフィルタは曇ると太陽が見えづらくなるのでその対応策を考えておく
1万分の1あるいは10万分の1という露出倍数のNDフィルタは安全性も高く、今回の金環日食撮影に適していますが、一つだけ問題があります。それは、曇った時には太陽が写せなくなる可能性が高いということです。雨が降ったり肉眼で太陽がまったく見えないような曇り空では諦めるしかありませんが、なんとか太陽が確認できるようでしたら撮影できるかもしれません。ところが、あまりにも減光の数値が高いと少々雲がかかっただけでも太陽が確認できなくなってしまいます。
実は、この場合の対処についてはあまり議論がなされていません。そもそも当日の雲の厚さは誰にもわかりませんので、その空に適したNDフィルタの濃度も条件によって異なってきます。露出倍数の大きなフィルタ1枚だけでは撮影ができないない可能性があります。しかし、だからと言ってNDフィルタを取り外して撮影する行為は絶対にやめましょう。突然太陽が見えたりするととても危険です。もし可能であれば、露出倍数の異なるNDフィルタを複数用意するか、あるいは画質悪くなってしまいますが、複数のNDフィルタを重ねて利用する方法もあります。
いよいよ大詰めです。次回は、フィルタの話をしたいと思います。
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〈連載目次〉
「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」
著者プロフィール
- マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
- 天文イベントや天体観測・撮影、宇宙関連グッズに関する情報を紹介していきます。