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望遠鏡導入計画

(15)日食撮影用のフィルタを用意する

金環日食まで後数日。いよいよ望遠鏡を使用した撮影について紹介します。デジタルカメラにはレンズ交換が可能な一眼レフタイプと交換ができないコンパクトデジタルタイプがあります。

金環日食まで後数日。いよいよ望遠鏡を使用した撮影について紹介します。デジタルカメラにはレンズ交換が可能な一眼レフタイプと交換ができないコンパクトデジタルタイプがありますが、天体撮影には高機能で撮像素子のサイズが大きく、感度も高めに設定できる一眼レフタイプが使用されるケースが多いと言えるでしょう。今回は一眼レフタイプを中心にしながらフィルタの話を進めたいと思います。

 

望遠鏡を使用した撮影には2種類ある

 

天体望遠鏡を使用して天体を撮影する方法は大きく分けて「直焦撮影」と「拡大撮影」の2種類があります。何が違うのかと言うと直焦撮影は「対物レンズ(対物鏡を含む)→一眼レフカメラ」鏡筒をカメラのレンズと同じように使用するため、倍率も鏡筒の焦点距離に左右されます。拡大撮影は「対物レンズ→接眼レンズ→一眼レフカメラ」という光の経路になるため、接眼レンズを交換することによって倍率を高くすることが可能です。ただし、対物レンズとカメラの間に余分なレンズが入るため倍率を上げれば上げるほど像が暗くなり、さらにボヤけてしまいます。また、架台が貧弱ですとシャッターを切る際にブレが生じてしまうため像がきれいに写りません。高い倍率で美しく撮影するためには高性能な鏡筒、堅牢で精度の高い架台、大型で重量のある三脚が必要ですが、このあたりは皆さんの予算と使用方法との相談ということになります。

 

直焦撮影は、鏡筒に一眼レフカメラを直接取り付けてカメラのレンズと同じような感じで使用します。

 

スカイポッドVMC110Lに取り付けるとこんな感じです。

 

拡大撮影は、鏡筒とカメラの間に接眼レンズをセットします。拡大撮影アダプタが必要になります。

 

望遠鏡に取り付けるとこうなります。鏡筒とカメラの間にあるのが拡大撮影アダプタで中に接眼レンズが入っています。

拡大撮影アダプタの部品を利用してこのように直焦撮影も可能です。カメラを自由に回転させることができるので直接鏡筒に取り付けるよりも便利です。

 

「スカイポッドVMC110L」の焦点距離は1035mmあるのでかなり長めです。しかし、35mmフルサイズの撮像素子を搭載した一眼レフカメラで太陽を撮影すると11mmぐらいの直径になります。キヤノンのフルサイズの撮像素子は縦が23.33mmなので、長い焦点距離の鏡筒に替えたり、あるいは拡大撮影をすればフレームぎりぎりに写すことができますが、架台に遊びがあるので少しズレてもはみ出ないように周囲にある程度余裕を残しておきたいと思います。APSサイズの撮像素子なら直焦撮影でもフルサイズの1.6倍になるのでちょうどいいかもしれません。

 

35mmフルサイズの撮像素子で直焦撮影するとこのぐらいの大きさで撮る事ができます。

 

APSサイズの一眼レフで撮影するとこの大きさで写ります。これぐらいのほうがちょうどいいかもしれません。

 

望遠鏡に取り付ける太陽撮影用のフィルタを選ぶ

 

天体望遠鏡で撮影する場合には対物レンズの前にNDフィルタに代表される減光用のフィルタを取り付ける必要があります。前回も書きましたが、減光フィルタを取り付けない状態でそのまま肉眼で覗くとたいへん危険です。カメラ等の機材も壊れてしまいます。必ず適切な減光フィルタを取り付けてください。

 

減光用のフィルタは大きくわけて2つあります。撮影用と眼視用です。どちらも減光するという部分では同じですが、撮影用はきれいに撮るための構造であり、眼視用は安全に目で見るためのものです。これまで、どんな状況であろうと絶対に目で見ないようにお願いしてきましたが、実は望遠鏡用の眼視用フィルタを使用すると可能です。しかし、集光力が大きくなってしまう望遠鏡で見るのと日食メガネで見るのでは危険性がまったく違います。少しでもミスをすると失明につながります。それを考えると眼視用のフィルタであってもライブビュー機能で画像を確認したほうが安全です。カメラは壊れても修理したり買い替えることができますが目は替えが利きません。とにかくご注意ください。

 

太陽撮影で減光フィルタを使用する危険性

 

減光フィルタとしてはND(Neutral Density)フィルタが代表的なものです。さまざまな濃度の製品が出ており、用途に合わせて選択することが可能です。また、フレアが出る可能性もありますが、複数組み合わせて使用することもできます。ただし、NDフィルタはもともと風景撮影用に使われることが多く、できるだけ撮影画像に影響を及ぼさないようにできています。そのため、目に有害な光線をカットできない場合が多く、一般的には太陽観察用には向かないとされています。今回、「2012年金環日食日本委員会」の副委員長を務められている大西浩次氏らが中心となって2009年の皆既日食に向けてフィルタの透過率を測定した資料「太陽観察用各種フィルタ類およびその代用品の透過率測定」がインターネット上に公開されていますので詳細に知りたい方はそちらをご覧ください。

 

2012年金環日食日本委員会では、太陽観察には、「かすかに蛍光灯を確認できる程度の見え方」「可視光線で0.003%以下の透過率」「赤外線で3%以下の透過率」の日食メガネ(グラスを含む)を使用するように呼びかけています。また、「太陽観察用各種フィルタ類およびその代用品の透過率測定」では、近赤外線領域を0.5%以下というより厳しい基準で測定しています。この資料の中で、10万分の1のフィルタは透過率が低いため測定に使用した分光光度計の精度限界に近く、ND400フィルタとND8フィルタを組み合わせて参考試料として用いています。NDフィルタを複数組み合わせて使用する場合の透過率は、掛け算をすればおおよその値になります。例えば、ND400フィルタ+ND8では3200分の1の透過率となります。

 

今回、ND400をベースに複数枚のNDフィルタで撮影しようと考えていらっしゃる方が多いかと思いますが、「太陽観察用各種フィルタ類およびその代用品の透過率測定」によると「ND400フィルタ+ND8」の組合せでは可視領域および赤外領域の透過率は安全とは言えない遮光性だとしています。つまり、より集光性の高いカメラのレンズや望遠鏡で使用するには非常に危険だと言えます。カメラのレンズに「ND400フィルタ+ND8」を取り付けても晴天では眩しくて見られたものではありません。「ND400フィルタ+ND16」でようやくなんとかという感じです(NDフィルタで太陽を見る行為は禁止事項なので試験でも絶対にやらないでください)。ましてや眼視用に作られていないので、さまざまな意味で危険な撮影環境だと言えます。一眼レフタイプのカメラでは、ライブビューモードは必須です。撮影自体は、感度を落としてシャッタースピードを速くし、絞り込めば可能です。

 

ND400フィルタです。これはND2-ND400まで透過率を変えることができる「TiANYA XS-Pro1」という可変タイプの特殊な製品です。

 

風景撮影用のケンコーのND16フィルタ「PRO1D プロND16」です。フィルタを重ねて使用するとフレアが生じたり絵が汚くなる可能性がありますが、天候の状況に臨機応変に対応することができるメリットがあります。

 

使用するレンズの明るさにもよりますが、NDフィルタの場合には最低でも1万分の1以下の透過率が必要です。しかも目で見ないということが必須条件です。10万分の1以下の透過率のフィルタでしたら、かなり安全性は高まります。なお、日食グラスを使用して肉眼で太陽を観察するのと違って、カメラでの撮影はモニタ上ではかなり暗く見えていてもシャッタースピードを遅くしたり絞りを開けることによって実際には明るく写すことができるので心配はいりません。デジタルカメラなので感度をアップすることができます。

 

フィルタにはどんな種類がある?

 

カメラのレンズでも1万分の1の透過率では微妙なものがありますので、対物口径がさらに大きい望遠鏡での撮影はより大きな値で減光できるフィルタが必要です。「スカイポッドVMC110L」は110mmもの口径がありますので、太陽の撮影には集光力が高過ぎるように感じます。そこで今回は10万分の1に減光できるフィルタを使用することにしました。

 

最初は、ケンコーやマルミなどから撮影用の10万分の1のNDフィルタが発売されているので、これを使用しようと考えていました。太陽は白色になるため、自然な感じに撮影できるのですが、なんと110mmの口径をカバーできる製品がありません。ケンコーを例にしますと丸型は、52mm、58mm、77mm、82mmの4サイズ、角形は76mmと100mmの2種類です。ぜんぜん足りません。鏡筒に取り付けるための枠を自作するという方法もありますが、上手く作れる自信がないので、他のフィルタを探すことにしました。

 

マルミのDHG ND-100000(1万5480円)という10万分の1の透過率のNDフィルタです。77mmの口径がありますが、それでも天体望遠鏡の口径には足りません。58mmサイズや1万分の1のタイプもあります。

 

バーダー社の「アストロソーラーフィルタ」というフィルムタイプのフィルタは、大サイズ(50×100cm)の撮影専用 ND-3.8で7500円と価格も手頃です。10万分の1の透過率で撮影画像は白色になり、眼視用と撮影用の両方が用意されています。しかし、フィルムのため均一性が低くきれいに撮りにくいという問題点があり、当然フィルムを自分で加工する必要があります。

 

これはケンコーのペーパーフォルダにアストロソーラーフィルターをカットして組み合わせてネットで売られていた製品です。通常はフィルムのみで販売されています。

 

サウザンド・オークス・オプティカル社から、金属メッキガラスフィルタという枠付の眼視用フィルタが販売されています。こちらは、ガラスの上に金属皮膜が蒸着されており、撮影画像はオレンジ色になります。ガラスをベースにしているのでクリアな結果を得られます。サイズも69mm(1万4800円)から273mm(2万9800円)まで豊富に用意されており、若干の調整を施せばほとんどの一般向けの鏡筒に取り付けることができます。

 

サウザンド・オークス・オプティカル社の金属メッキガラスフィルタはこのように丈夫な金属枠に納まっています。撮影だけでなく、眼視用として使用することができます。

 

この他にも日食メガネ用のフィルムをベースとした製品や彩層の観測まで可能な「太陽観測専用望遠鏡 CORONADO P.S.T.」といったものもありますが、今回は撮影がメインということもあって、シャープに撮影できて眼視用としても使用できる金属メッキガラスフィルターを使用することにしました。撮影画像はすでに何回か掲載しましたが、透過率は極めて低く、目で見ても明るすぎず鏡筒やカメラも熱くなりません。ただし、10万分の1にもなると薄い雲がかかっると撮影は可能ですが、目では確認がしづらくなります。曇った場合には、雲の厚さによっては撮影できないかもしれません。そこで、予備として「ND400」と「ND16」のフィルタも用意しました。こちらは、望遠鏡用ではなく、焦点距離400mmのカメラのレンズに取り付けていざという時の補助として使用するつもりです。

 

「APSサイズの一眼レフ+400mmの望遠レンズ+ND400+ND16」のセットで撮影した写真です。太陽のサイズは小さいのですが、曇って金属メッキガラスフィルタでは撮影できない場合にはこのセットで撮影に挑戦してみます。

 

まだ、昼間の自動導入式経緯台の設置方法など紹介していないこともたくさんあるのですが、明日はいよいよ本番となってしまいました。関東の天気予報は曇りとなっているので今日中に経緯台を設置してできるだけアライメントをしておこうと思っています。晴れることを信じて準備を進めます。皆さん、がんばりましょう!

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

『望遠鏡導入計画』の記事一覧はこちら

著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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