2012.04.12
さて、いよいよ購入する望遠鏡を決めたいと思います。基本的には、ビクセンの「スカイポッドVMC110L」、MEADEの「LT-15SC」、CELESTRONの「NEXStar 4SE」まで絞り込んだわけですが、10万円という低い予算のためか悩みが多いですね。しかし、金環日食まで40日を切りましたので、あまり余裕はありません。
自動導入式望遠鏡を10万円以下で購入することはできるのか?
本当は自動導入式の赤道儀が欲しかったところですが、まずは10万円以下というハードルを越えないとどうにもなりません。経緯台式の3製品もすでに定価では遥かに超していますが、値引きを考慮するとなんとかなるかもしれません。今回は専門ショップを見て歩く時間が取れなかったので、ネットショップで探してみました。するとビクセンの「スカイポッドVMC110L」は10万円を切って販売しているところが何件も見つかりました。これは問題なく購入できそうです。
MEADEの「LT-15SC」は、大口径で魅力的なのですが、10万円を切るのはかなり難しそうです。販売しているショップもなかなか見つからず、若干価格が高い上位モデルの「LT-15ACF(アドバンスドコマフリー)」は発見しましたが、残念ながら10万円以下で購入するのはほぼ絶望的でした。CELESTRONの「NEXStar 4SE」は、10万円以下で販売しているところが複数見つかりましたので、取りあえず「スカイポッドVMC110L」と「NEXStar 4SE」なら購入できそうです。
さらに絞り込んで検討する
さて、「LT-15SC」は諦めて「スカイポッドVMC110L」と「NEXStar 4SE」に絞って検討したいと思います。対物口径もほぼ同じで、基本的なスペックはどちらも似た感じですが、「NEXStar 4SE」は三脚にウェッジ機能を装備しており、赤道儀としても使用することが可能です。また、適当に明るい星を望遠鏡の視野に3個導くだけでアライメントができるスカイアラインシステムも便利そうです。天体は4万個が登録されており、3モデルの中でダントツです。なお、「NexRemote」というWindows用のコントロールソフトが標準で付属していますので、別売のケーブルを購入してコントロールすることが可能です。さらにSouthern Starsというメーカーから、「SkySafari 3」というiPhoneアプリが発売されており、このアプリとワイヤレス対応の「SkyFi」またはシリアル対応の「SkyWire」というオプションを組み合わせることによって、iPhone&iPadから「NEXStar 4SE」をコントロールすることができます。CELESTRON自身もiPhone&iPadへの対応も積極的に進めており、iPhoneアプリの「SkyQ」とまだ日本ではリリースされていない「SkyQ Link WiFi Adapter」を組み合わせることによって「NEXStar 4SE」のコントロールが可能になります。
気になるのは、かなり低価格で販売されている製品には並行輸入品も混じっているようで、正規品でない場合には修理やサポートがどのようになるかというところと、付属の接眼レンズは53倍の倍率になる25mmが1個のみで後で買い足しが必要になりそうなことです。また、コントローラの表示が英語のテキストのみというのも気がかりです。英語が苦手なので暗闇の中でどこまで余裕を持って天体名やコントローラの表示が確認できるのか心配になります。しかし、iPhone&iPadからビジュアル的に操作できるのであれば、アプリは英語版でも問題はないのですが、オプションの「SkyQ Link WiFi Adapter」や「SkyFi」を日本で入手するのはまだ難しく、輸入しているショップを見つけるか個人で輸入する必要がありそうです。
「スカイポッドVMC110L」は、創立60年以上にもなる日本の老舗望遠鏡メーカーの製品なので、サポートやオプションの購入に関しては安心感があります。日本に製造メーカーがあるというのは長く使用していく上で大切なことです。付属のコントローラ「STAR BOOK-TypeS」は、日本語だけではなく、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語にも対応しています。接眼レンズは8mm(129倍)と25mm(41倍)の2個が付属しており、オプションを利用するとコンパクトデジタルカメラでの撮影も可能です。アップグレード用のパーツやアクセサリが豊富に用意されており、目的に合わせて組み直すこともできます。
気になる点は、「STAR BOOK-TypeS」の導入方式は、液晶画面上に表示せた基準星を2個以上望遠鏡の視野に入れてアライメントをするオーソドックスな方式にしか対応していないことです。登録天体数も2万2725個とやや少なめです。また、鏡筒はマクストフ・カセグレン方式ですが、ビクセンオリジナルのVMC方式となっているため、副鏡に補正レンズが取り付けられている関係で、MEADEやCELESTRONのカセグレン方式のように密閉されていません。そのため、反射望遠鏡と同様に外気との温度差によって像が揺らぎやすい可能性があるかもしれません。パソコンソフトとの連動機能はなく、iPhone&iPadへの対応も現在のところありません。
さて、困りました。どちらの製品もそれぞれ一長一短があり迷います。しかし、10万円を切る価格でこれだけの機能を備えているのはありがたい話です。最後にもう一度、それぞれの違いをまとめてみました。
◯鏡筒
・「NEXStar 4SE」は密閉型なので温度差による像への影響が「スカイポッドVMC110L」よりも少ない可能性がある。
・両モデルとも直焦撮影、拡大撮影ともアクセサリで対応可能だが、「スカイポッドVMC110L」はコンパクトデジタルカメラにも対応できるオプションが用意されている。
◯架台
・「NEXStar 4SE」は従来の自動導入方式に加えて先進的なスカイアラインシステムを搭載。
・「NEXStar 4SE」は標準でWindows用のコントロールソフトが付属している。
・「NEXStar 4SE」はオプションでGPSユニット(5万3550円)が用意されている。
・「NEXStar 4SE」はオプションでiPhone&iPadからコントロールするオプションが用意されている。
・「スカイポッドVMC110L」は架台に干渉しにくい独自のデザインによって長めの鏡筒に交換することができる。
・「スカイポッドVMC110L」は星図と望遠鏡を連動して動かすことができる。
・「スカイポッドVMC110L」は日本語も含め6カ国ごに対応しているが、「NEXStar 4SE」は英語のみ。
・「スカイポッドVMC110L」は星図が表示できるが、「NEXStar 4SE」は2行のテキスト表示のみ。
・電池は「NEXStar 4SE」が単三8本、「スカイポッドVMC110L」が単三12本を使用。
◯三脚
・「NEXStar 4SE」はステンレス製でウェッジ機能付きで、「スカイポッドVMC110L」はデスクトップ脚というコンパクトタイプが付属。
◯アクセサリ
・基本的なアクセサリは両製品とも揃っているが、日本国内では「NEXStar 4SE」よりも「スカイポッドVMC110L」のほうが販売されている種類が多く入手もしやすい。
ついに購入製品を決定
いろいろと考えた結果、かなり迷いましたが今回は「スカイポッドVMC110L」を購入することにしました。理由は、将来的に鏡筒をアップグレードしたいので鏡筒と架台の干渉が少ないデザインになっている、コントローラ、マニュアルが日本語表示である、国内メーカーなので再調整や修理の依頼が容易、日本国内で販売されているパーツやアクセサリの種類が多い、デジタル一眼レフだけでなくコンパクトデジタルカメラを取り付けるオプションも用意されている、というところです。反射屈折式は反射式に比べて光軸の調整を個人で行なうのが難しく、メーカーに作業を依頼しなくてはなりませんので、日本製であることは大きなアドバンテージになります。また、「STAR BOOK-TypeS」は、「NEXStar 4SE」のようにパソコン用のソフトには対応していないので、この点については「NexRemote」が標準で付属する「NEXStar 4SE」のほうが優れているのですが、個人的にWindows OSのパソコンを所有していないため、付属の「NexRemote」を利用する機会がないので魅力を感じられませんでした。
鏡筒の取り付けは両製品ともアリミゾ式なので簡単に交換することができますが、「どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」でも紹介したように、架台のデザインの違いから片持ちフォーク式の「NEXStar 4SE」は屈折式のような長い鏡筒に交換することができません。カメラ等を取り付ける場合も同様で架台に干渉しないように注意する必要があります。「スカイポッドVMC110L」は、三脚の中心の外側に鏡筒を取り付けるデザインなのでバランスという点では問題がなくもないのですが、架台との干渉が少ないのは確かです。お金に余裕ができたら鏡筒や架台を追加して組み替えてみたいという思いもありますので、そのあたりは日本国内で品揃えが豊富なビクセンのほうが有利です。
とは言え、自動導入機能は今回の選択のポイントの一つだったので、「NEXStar 4SE」のスカイアラインシステムやウェッジによる赤道儀モード、iPhone&iPadからのコントロールにはすごく心が惹かれています。しかし、現在の状況ではオプションを個人輸入で購入する場合も想定されるため、修理や不良品対応を考えると日本で正式にリリースされるか、あるいは専門ショップが取り扱うようになるまで待ったほうがいいかもしれません。今回は「スカイポッドVMC110L」を選びましたが、150mmあるいは200mmといった大口径の天体望遠鏡が欲しくなった時には、リーズナブルなセット商品がCELESTRONには用意されていますので購入の候補にしたいと思います。その頃にはiPhone&iPad用のオプションも日本で入手しやすくなっているかもしれません。できればアプリも日本語化されているといいのですが。
ということで、ネットショップで注文ボタンをポチッと押してしまいました。ついに自動導入式の天体望遠鏡の購入です。届くのが楽しみです。次回は、「スカイポッドVMC110L」を実際に使いながら紹介できればと思います。
購入はできれば専門店で
今回は10万円という厳しい縛りの中で、自動導入機能、サイズ、拡張性にこだわって「スカイポッドVMC110L」を選びましたが、実際にはそれぞれの目的や予算、知識に合わせた望遠鏡を選択することが大切です。10万円以下にこだわらなければ多少予算を増やすだけで自動導入式赤道儀が購入できます。ちょっとした観賞用なら安価で使いやすい経緯台を選んでもよいでしょう。太陽や月、惑星といった明るい天体の観賞であれば、自動導入式も赤道儀も必要ありません。
実は、太陽観測だけに絞って考えると、今回選んだ「VMC110L」鏡筒はメーカーのカタログではできないことになっています。太陽観測は危険なので太陽を直接見ないことにつきます。そのため、通常は太陽投影板を使用した安全な方法で観測するのですが、構造的に反射式や反射屈折式に取り付けることができません。また、太陽は非常に明るいため、集光力が高いと逆に危険性が増してしまうので大口径である必要もないのです。つまり、日食や黒点観測だけが目的なのであれば「VMC110L」鏡筒は不向きなのです。しかし、今回は他の天体も観測したり撮影したいという希望があり、さらに予算の関係から「スカイポッドVMC110L」に決めたという事情があります。
もし、これまで天体望遠鏡にまったく触ったことがないという方でしたら、できれば専門ショップで購入されることをお勧めします。家電量販店や大手ネットショップと比べて価格はそれほど違いませんし、なによりも専門家が親身になって相談に乗ってくれるので安心です。可能であれば実際に製品を見ながら話のできるリアル店舗に行かれて相談するのがよいでしょう。専門店はたくさんあってとても紹介しきれませんので、ぜひ皆さんのお近くのショップを探してみてください。
「はやぶさ2」打ち上げをもっと楽しむために 日の丸ロケット進化論 分解できる「イプシロン」超精密ペーパークラフト付き
大塚実、大貫剛 著/マイナビ出版出版 刊
日本の宇宙開発史に刻まれた名ロケットを徹底解説!
価格:1,436円
完全図解 人工衛星のしくみ事典 「はやぶさ2」「ひまわり」「だいち」etc..の仕事がわかる!
大塚実、大貫剛、秋山文野 著/マイナビ出版出版 刊
私たちの暮らしを宇宙から支える人工衛星のすべてをやさしく解説!
価格:1,436円
〈連載目次〉
「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」
著者プロフィール
- マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
- 天文イベントや天体観測・撮影、宇宙関連グッズに関する情報を紹介していきます。