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望遠鏡導入計画

(6)どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編

「金環日食観測ガイド ~安全に観測できる日食メガネ付き~」も発売されて一段落です。今度は観測に向けて皆さんと一緒に準備を進めたいと思います。そのためにも早く望遠鏡を選ばないとですね。

 

経緯台の構造と機能

 

今回は、経緯台を紹介します。写真でもわかるように実にシンプルな構造の架台です。上下と左右(水平)に回転する機能しかありません。図のように日周運動をしている天体を追うには常に上下と左右の両方を動かしていく必要がありますが、価格も安く簡単に操作することができます。コンパクトで重量もそれほどなく、セッティングや収納も簡単です。

 

経緯台は上下と左右に回転する2つの軸を備えています。写真はビクセンのポルタIIです。

 

日周運動している天体を経緯台で追うとこのように上下と左右の微動ハンドルを動かさなくてはなりません。

 

経緯台は見た目がかなりシンプルなので「こんなので大丈夫なの?」とか「天体を追うのが大変なんでしょ」と思われるかもしれませんが、セッティングが面倒な赤道儀と違ってすぐに観測が始められるメリットはたいへん大きいと思います。月や惑星あるいは比較的明るい星雲、星団を観察するのであれば、上下左右の両方のハンドルを操作しながらでも十分見ることができます。また、日食は昼間の観測になるため、当然ながら北極星は見えないので赤道儀のセッティングが非常に難しくなるため、観察がメインであれば経緯台のほうが導入しやすいのは間違いありません。経緯台は一般的に考えられている以上に便利な架台です。

実は、経緯台の左右の軸を極軸に向ければ赤道儀のように使えなくもないのですが、望遠鏡の向く方向が制限されたり、極軸合わせが現実的にはできないなどの問題があります(ただし、経緯台と赤道儀の両方の機能を備えた製品も存在します)。また、赤道儀のセッティングというのはかなり難しく、馴れている人でも30分?1時間ほどかかることが多く、天体写真を撮影したり、長時間に渡る観測が必要ないのであれば、赤道儀を使用するよりも経緯台のほうがさっと出せてすぐ見ることができるため、赤道儀のサブ機として利用している人もいます。

 

経緯台を選ぶポイントは?

 

経緯台を選ぶ際のポイントは、とにかく頑丈で少しずつ望遠鏡の角度を動かすことができる微動ハンドルが上下左右とも備わっていることです。そして微動ハンドルは、微動角度に制限のない全周のウォームギヤのものを選びましょう。つまり、微動ハンドルの操作だけで360度ぐるりと回転できる製品です。微動できる角度に制限があるとせっかく苦労して天体を視野に入れても追って行くことができなくなります。想像以上に使いづらいので注意してください。

 

ポルタIIは微動ハンドルを回すとウォームギヤによってゆっくりと鏡筒が回転します。写真では見えませんが、同様に左右の微動ハンドルも備わっています。この機能がない天体望遠鏡を使って小さな天体を視野に入れて追いかけるのは相当難しいと言えます。

 

現在発売されている経緯台でお勧めなのはビクセンのポルタIIまたはミニポルタです。ウォームギヤは全周微動になっており、手で好きな位置に鏡筒を向けてから微動ハンドルで操作できるフリーストップ式という機能も備えています。昔は軸を固定しているクランプというつまみを緩めておおよその方向に向けてから微動ハンドルで操作したのですが、ポルタはクランプそのものがなくて、手で適当にぐいっと向けるとその位置で固定されるようになっています。

 

ポルタIIは全体の造りもしっかりしているので安定感もあり、フリーストップ式は実際に使ってみると非常に便利な機能であることがわかります。価格も架台とアルミ製三脚のセットで2万9400円とリーズナブルですが、口径80mmのアクロマートレンズおよび&焦点距離910mmの鏡筒と組み合わせたポルタII A80Mfでも5万7750円で購入できます。さらにポルタIIとほぼ同じ機能を備えた小型版のミニポルタA70Lfは、口径70mmで焦点距離900mmの鏡筒とセットで3万6750円です。これらのセット商品には、接眼レンズ2個、天頂プリズム、星座早見盤、ガイドブックなども付属しており、通常の観測なら追加でオプションを購入する必要はありません。もちろん、他社でもポルタIIに匹敵する性能の製品がありますが、同じぐらいの価格で粗悪なものも数多く出回っていますので注意が必要です。どれを購入していいのかまったく判断がつかないようでしたら、とりあえずポルタシリーズを購入しておけば安心だと思います。ちなみに高橋製作所は経緯台は発売していません(PM-1赤道儀のバリエーションとしてフォーク経緯台と全方位経緯台というものはあります)。

 

電動で駆動する経緯台もある

 

経緯台がシンプルで安価でなのはよいとして、天体を自動で追尾して観賞したいという人は、やはり赤道儀を選ばなければならないのでしょうか?特にくらい天体を追って行くには経緯台では厳しいものがあります。しかし、先ほどの述べたように赤道儀はセッティングが面倒でそれなりの天文の知識が必要です。また、価格も経緯台に比べるとかなり高価になりますが、実は電動で天体を追尾できる経緯台があります。しかもほとんどの製品が、指定した天体を自動的に視野に入れることができる自動導入機能を備えています。経緯台は長時間の観測には向かないという常識を覆した製品と言えるでしょう。価格も自動導入式の赤道儀に比べると安価であり、MEADE、CELESTRON、ビクセンなどが自動導入式の経緯台を積極的に展開しています。

 

自動導入式の経緯台は、上下左右の軸をモータで駆動させるものですが、それぞれ専用のコントローラが付属しています。メーカーによってセッティングの方法は異なりますが、赤道儀が赤経軸を正確に極軸に向けなくてはいけないのに比べて、経緯台は水平に設置したら後は2?3個の天体を望遠鏡の視野に入れて位置を記録させ、それを元に他の天体を追いかけるような仕組みになっています。極軸を合わせる必要がない分、間違いなく赤道儀よりもセッティングは楽です。ただし、ある程度恒星の位置や名前を把握していなくてはならず、自動導入式の「自動」という名称から受ける印象ほどセッティグが簡単なわけではありません。そもそも「自動導入式」というのは天体の導入が自動ということであって、セッティングが自動という意味ではありませんので勘違いしないようにしましょう。ただし、一部ですが、セッティングもほぼ自動で行なえる製品が経緯台式の天体望遠鏡で登場しています。

 

ビクセンの自動導入式経緯台「スカイポッド(SKYPOD)経緯台」です。上下左右に電動で回転して天体を追尾できます。中央に見えるのは取り外して使用することもできる「STAR BOOK - TypeS」というコントローラです。

 

価格が安く、赤道儀と比較するとセッティングも簡単な自動導入式経緯台ですが弱点はあります。それは、長時間に渡って天体を追尾して撮影すると固定撮影と同様に天体が回転してしまうのです。肉眼で見ている分には関係はないのですが、赤道儀のように極軸を中心に回転しているわけではないので、カメラで追尾しながら撮影すると中央の星以外は曲線になってしまいます。惑星や星雲といった天体はブレたり流れるような感じで写ってしまいます。これは、経緯台のもっとも大きな問題点といえましょう。もちろん、日周運動が影響しない程度の短い時間でシャッターを切ればきちんと写るわけですが、よほど感度の高いカメラでない限りなかなか難しいでしょう。

 

赤道儀を使用すれば長時間に渡る撮影でも天体は点として写ります。

 

自動導入式経緯台で天体を追尾して撮影しても中央以外は回転してしまい固定撮影した時のような曲線になってしまいます。

 

ビクセンの自動導入式経緯台は、「スカイポッド(SKYPOD)経緯台」という製品です。同社のもっともリーズナブルな自動導入式赤道儀であるSXWマウントが18万3750円であるのに対して半額に近い9万7650円で購入できます(上の写真にあるデスクトップ脚は付属していません)。スカイポッド経緯台は、2.6インチのモノクロ液晶を搭載した「STAR BOOK-TypeS」というコントローラが付属し、2万2725個の天体が登録されています。基本的にはシングルアームのような構造ですが、左右軸の左側に鏡筒、右側にコントローラが配置されており、MEADEやCELESTRONの自動導入式経緯台とは異なったデザインとなっています。そのため、搭載重量が2.5kg以上になる場合(カメラを追加したり思い鏡筒を搭載するなど)には、コントローラ側の上下軸に1.0kgの専用ウェイトを取り付ける必要がありますが、この構造によってさまざまな長さの鏡筒を搭載することが可能になっており、用途に応じて載せ替えることもできます。ただし、デスクトップ脚では可動範囲に制限が出るため、長めの鏡筒を搭載する場合は通常の三脚とハーフピラーと呼ばれる延長筒を利用する必要があります。ビクセンでは、口径110mmのVMC(ビクセンマクストフカセグレン)式鏡筒や80mmアクロマートの屈折式鏡筒、130mm反射式鏡筒とセットになった製品を用意していますが、一種類の自動導入式経緯台でこれだけサイズが異なる鏡筒の搭載を実現しているのはビクセンだけです。

 

ビクセン「スカイポッドVMC110L」。マクストフカセグレン式の鏡筒とデスクトップ脚と呼ばれる卓上用の三脚とのセットで12万4950円。三脚の外側に鏡筒を取り付けるため、通常サイズのスカイポッド三脚(1万500円)とSXGハーフピラー(1万7850円)を使用すれば800mmクラスの筒長の屈折望遠鏡や反射望遠鏡を搭載することもできる。

 

CELESTRONもさまざまな望遠鏡を販売していますが、自動導入式の経緯台で代表的なものがNEXStar SEシリーズになります。もっとも小型の4SEは102mmのマクストフ・カセグレン方式で16万1700円、一番口径の大きい203mmシュミットカセグレン方式の8SEが37万2750円です。どの製品にも4万個の天体が登録され、3点の星を視野に入れるだけで自動導入が可能になる「SKY ALIGN SYSTEM(スカイアラインシステム)」が付属しています。この他にCPC GPSシリーズというGPS機能を搭載したデュアルアームの製品も販売しています。もっとも小型のCPC 800XLTで46万4625円です。NEXStar SEシリーズの経緯台は、スカイポッドと同じですが、スカイポッドと同様に鏡筒をシングルアームで支える構造ですが、三脚の内側に鏡筒を載せるようになっています。こちらの構造のほうが重い鏡筒でもバランスが崩れにくいのですが、天頂付近(真上)に鏡筒が向いた際に接眼部に長めのアクセサリや大型のカメラなどを取り付けていると架台と干渉する可能性が出てくるため対策が必要になります。同様に長めの鏡筒に載せ替えるとやはり架台に干渉して天頂に向けることができません。より低価格のNexStar SLTシリーズはアームが大きく湾曲しているため長めの鏡筒でも大丈夫ですが、登録されている天体は4000個となっています。さらに低価格のLCMシリーズという製品もあります。見た目は簡素ですが、自動導入式を採用しており、登録されている天体はNexStar SLTシリーズと同じ4000個です。

 

CELESTRONのNEXStar 8SE。シングルフアームのデザインで、コントローラが側面にセットされています。重心が三脚の内側にあるため、203mmの鏡筒を載せてもバランスウェイトは必要ありませんが、長い鏡筒に載せかえると架台と干渉してしまいます。

 

MEADEは以前にマクストフ・カセグレン方式または屈折式のETXシリーズという低価格で小型の製品を発売していましたが、現在日本では販売が終了となっています。ETX-90ATは6万7200円、ETX-125ATでも9万8700円というリーズナブルな価格だっただけに残念です。入門用の自動導入式経緯台としては手軽に購入できる貴重な製品でした。現在は、GPSセンサー等を搭載した大型のモデルがメインとなっており、LX200シリーズやLX90シリーズ、LTシリーズ、LSシリーズが販売されています。LSシリーズは、GPSレシーバとLNTセンサー、CCDカメラの情報を元にセッティングまで行なってしまうという、まさに全自動方式の天体望遠鏡でLS-15ACFで18万4800円です。MEADEはさまざまな種類の経緯台をリリースしているので選択肢が非常に広いという特徴があります。

 

次回は赤道儀について紹介します。

 


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〈連載目次〉

「望遠鏡導入計画 - 1 金環日食に向けて機材を検討する」
「望遠鏡導入計画 - 2 メーカーはやはりタカハシか?」
「望遠鏡導入計画 - 3 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:基礎編」
「望遠鏡導入計画 - 4 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:鏡筒編」
「望遠鏡導入計画 - 5 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:架台の種類編」
「望遠鏡導入計画 - 6 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:経緯台編」
「望遠鏡導入計画 - 7 どのタイプの望遠鏡を選ぶか:赤道儀・三脚編」
「望遠鏡導入計画 - 8 購入条件に合う天体望遠鏡を探す」
「望遠鏡導入計画 - 9 天体望遠鏡はこれに決定!」
「望遠鏡導入計画 - 10スカイポッドVMC110Lを組み立てる」
「望遠鏡導入計画 - 11スカイポッドVMC110Lの設定と調整」
「望遠鏡導入計画 - 12スカイポッドVMC110Lのアライメント準備」
「望遠鏡導入計画 - 13スカイポッドVMC110Lのアライメントを行なう」
「望遠鏡導入計画 - 14危険が伴う太陽撮影!NDフィルタも注意が必要」
「望遠鏡導入計画 - 15日食撮影用のフィルタを用意する」
「まさに神秘の天文現象 ? 2012年5月21日の金環日食」
「金環日食のクライマックスを13秒のビデオで」

 

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著者プロフィール

マイナビ出版 天体観測&撮影編集部(出版社)
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