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著書と囲碁界をやさしく語る! 白石勇一七段特別インタビュー

「やさしく語る」シリーズの著者、白石勇一七段の特別インタビューです。著者や囲碁の上達法、囲碁界についてを語っていただきました。

こんにちは。前髪を切りすぎて、美容師さんに「意外とベビーフェイスだね!」と謎のフォローを入れられた編集部の山本です。

さて、今回は5月に発売した『やさしく語る 碁の大局観』の好評を受けて、著者の白石勇一七段に特別にインタビューをさせていただきました!



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―本日はよろしくお願いいたします。

「よろしくお願いいたします」


―まず、本書について教えてください。

「一言で言うなら、置碁の白番を通して大局観を磨こうという内容です。」


―「置碁の白番」と「大局観」とはなかなか結びつかない印象があります。

「置碁の白番は必ず、不利な局面から始まります。それを挽回するためには、いろいろな作戦を考える必要があるわけですが、そこで大局観が必要になってきます。互先以上に工夫の余地があるので、大局観の練習に置碁の白番はピッタリなんです」


―なるほど。

「最初は、置碁の楽しさを伝えられる本を書きたい、という思いからスタートしたんです。置碁で白を持つと、無理な手を打ってしまう方が多い。でも、それで勝っても手が荒れてしまうと嘆く声をたくさん聞いてきました」


―黒からしてもつらいですよね(笑)。

「そうですね。アマチュアの方は、互先より置碁で対局されることのほうが多いケースもあると思います。そんな状況で、置碁にマイナスのイメージを持たれている方が多いのはもったいないな、と以前から思っていたんです」


―なるほど。思いが強く伝わってきます。それでは、大局観を磨く方法としてはどのような手段がありますか?

「それは、本書を読んでいただくのが一番かなと(笑)。あとは、やはり実戦での練習ですね。必ず、着手をする前に碁盤全体の状況を確認すること。確認するポイントや注意事項は本書でまとめましたので、参考にしていただければと思います」


―それでは、ここからは本とは関係のない質問もさせていただきたいと思います。
 まずは、ありがちですが、オススメの上達方法は?

「詰碁、手筋、石の形、棋譜並べといろいろ挙げられますが、オススメはこの中から、自分が楽しいと思った、好きな勉強をすることです」


―!? 好きなことだけでいいんですか?

「はい。基本的には趣味ですから。好きなことだけに取り組み、得意分野を伸ばすことです。私も実際、詰碁や手筋の問題を解くことが好きだったので、三段か四段までは棋譜並べはやりませんでした」


―アマチュアとしては勇気が湧いてきます(笑)。そういえば私も、高段になるまで詰碁をほとんど解きませんでした。ただ、棋譜並べが好きで、特に張栩先生の大ファンでした。詰碁は『張栩の詰碁』が解けるようになりたくて、簡単なものからやるようになりました(笑)。

「そう。そのように、好きなことがきっかけとなって苦手なことに取り組むようになる、ということで良いと思います。無理をしても上達にはつながりません」


―難易度はどういったものがオススメですか?

「詰碁や手筋はもちろんですが、棋譜並べも適切な題材を選ぶことが重要です。詰碁や手筋は無理なく解けるもの、棋譜並べは自分の好きな打ち方や見ていて楽しい対局のものを並べると良いでしょう」


―言われると当たり前のようにも聞こえますが、棋譜並べも適切な題材を選ぶ、というのは意外と盲点でした。

「そうですね。棋譜並べも、自分が理解できるものでないと意味がないと思います。実は、この題材を選ぶポイントやプロの着手をわかりやすく解説する、棋譜並べの教本を現在執筆中です」

―なんと!!! 続報を待ちましょう!!!!!


―話はまったく変わりますが、好きな棋士はいらっしゃいますか?

「構想が大きく、自分のスタイルが確立されている棋士は魅力的ですね。例えば、武宮先生や趙治勲先生です。治勲先生の打碁集は私がプロを志すきっかけとなりました」


―打ち方に感動されて、ということですか?

「打ち方はもちろんですが、対局中の心の動きがよく表現されており、また、治勲先生の生き方についてのエピソードが充実していたのですね。棋譜を並べながら、治勲先生に感情移入をして、すっかりプロの世界に魅入られてしまいました」


―格好良い棋士の先生はたくさんいらっしゃいますよね。それでは、最近の若手棋士で好きな棋士はいらっしゃいますか?

「許家元七段ですね。目一杯に打つことが特長ですが、無理だと思ったらパッと他のところに打つんですね。柔軟で戦上手な印象です。派手で独自性のある碁であることも好きなポイントです」


―今年は圧倒的な成績ですし、碁聖戦でも大活躍中です。注目ですね!
 これまでとは、真逆の話題になりますが、最近はAIがブームです。

「そうですね。まだまだ負けないと思っていたので、やはりショックでした。現在は、人間も付き合い方が定まっていない過渡期だと思います」


―棋士の先生でもAIを活用されている方が多いと聞きます。

「最近はすごく多いですね。対局はもちろん、研究用に使う棋士が多いです。具体的には、自分の打碁の検討や新手をAI相手に試す、というような使い方をしています。AI相手の練習対局ではいくら負けてもダメージはないですから、思い切った手を試してみて、うまくいったら実戦に導入することもあります」


― アマチュアでも活用できますか?

「はい。重要な点は、意味と目的を理解して使うことです。分からないものは使わないほうがいい。これはAIに限らず、詰碁でも手筋でも棋譜並べでも同じことです」


―先ほどもおっしゃられていましたね。それでは、具体的な活用法は?

「自分の頭で考えることが大事です。例えば、対局ソフトを用いての検討で、評価値が下がった場面を検証したいとします。そこで、ソフトは候補手という正解を出してくれるわけですが、それを見る前に自分で、なぜ悪くなったのか、どう打てばよかったのかを考える作業が重要です。それから答え合わせをすることで力がついていきます」


―最後に、棋士としてのお考えも聞ければと思います。まずは、白石先生といえば、というイメージがついているブログを始めたきっかけは?

「アルファ碁と李セドル九段の対戦がきっかけです。2016年の3月にセドル九段が敗北して、これは棋士として新しいことを始めないといけない、と強く思いました。それで、4月に教室とブログを同時に始めました。それから少しして、FacebookとTwitterを始めました」


―行動力がすごいの一言です。以前と何か変わったことはありますか?

「たくさんありますが、ファンとの交流が増えたことが一番大きな変化です。直接話してみると、自分の視点とアマチュアの視点がまるで違うんですね」


―具体的には?

「棋士の重要な役割として、良い棋譜を残すことが挙げられます。もちろん、これはこれからも重要なことなのですが、別の重要な役割もあることに気付きました」


―と言うと?

「なぜ良い棋譜を残すことが重要か、ということなんですが、それはファンの方に楽しんでいただくためです。でも、プロの対局は本当に微妙な差で決着をしている部分が多く、それを理解できる人は限られています」


―たしかにそうですね。実際には打たれていない高度な読みも存在していると思います。

「例えば、終盤にすごく良い手が打たれて、それが決定打となって勝ちが決まった碁があるとします。その手がなぜ良いのか、ということを多くの人に理解してもらう説明は難しいですが、その場面までの流れを説明してどういう状況で生まれた手なのか、というように一局を物語としてお伝えすることはできると思うんですね」


―おお! たしかに、サッカーだと、なぜそのシュートが素晴らしいか、を知りたい人は本当にマニアックなファンで、ほとんどのファンは点が入るとそれだけで大騒ぎになります(笑)。囲碁も「点が入った」という手を、魅力的に伝える方法があればいいですね。

「囲碁もこれからは、幅広い棋力の方が楽しめる見せ方ができるようになればいいなと考えています。ただ、ある程度の手の解説はやはり必要ですから、難しさはあります。こういった新しい見せ方ができる解説者というのも、これから重要になってくると、ファンの方たちとの交流で気付きました」


―素晴らしいと思います。それでは、これからの目標を教えてください。

「プロとアマの世界を近づけていきたいと考えています。SNSはその第一歩として、重要なツールですね」


―プロとアマが近づくと、どんな良いことがあると考えますか?

「棋士個人のことを知ると、感情移入ができるようになるというか、応援がしやすくなると思います。対局の応援はもちろんですが、棋士は意外と身近で、好きな棋士が登場するイベントに参加したり、指導碁を受けることもできます。教室をやっている棋士も多いので、交流の場はけっこう多いのですね。棋士の視点から見ても、囲碁普及のチャンスが格段に増えると思います」


―他の競技と比べて、プロが「会いにいける存在」であることは、時代にも合っていますし、優位な点かもしれませんね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

「ありがとうございました」


白石先生長いお時間ありがとうございました。
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