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猫街乗物放浪記

旧国鉄中央西線「愛岐トンネル群」に行ってみた。

「近代化産業遺産群 続33」や国の「登録有形文化財」にも指定されている、旧国鉄中央西線「愛岐トンネル群」。2017年秋の特別公開に参加し、玉野第三隧道~隠山第ニ隧道を散策してきた。

旧国鉄中央西線「愛岐トンネル群」を訪れる

中央西線・高蔵寺~多治見間(愛知県・岐阜県)では、1966(昭和41)年の複線化にともなってルート変更が行われた。一方、旧ルートの庄内川(土岐川)沿いの約8キロには、1900(明治33)年の開通時から残る13のトンネルが今でも残る。
これらは長く忘れられてきて藪の中に埋もれてしまったが、近年、「愛岐トンネル群」(「旧国鉄中央線の隧道群」)として、注目されている。

特に愛知県側のトンネルは、春日井市の市民団体「愛岐トンネル群保存再生委員会」によって、発掘・整備されて続けられてきており、玉野第三隧道(3号トンネル)、玉野第四隧道(4号トンネル)、隠山第一隧道(5号トンネル)、隠山第ニ隧道(6号トンネル)の4基のトンネルが、2009(平成21)年「近代化産業遺産群 続33」に指定された。
また2016(平成28)年には、玉野第三隧道、玉野第四隧道が、国の登録有形文化財に指定された。そして、毎年、春・夏に、愛知県側のトンネルが一般公開されている。

筆者が訪れたのは、2017年秋の特別公開の初日。名古屋から約30分の定光寺駅で下車するのだが、この日普段止まらない快速が停車。イベントのために臨時に停車するというアナウンス。このイベントのためだそうで、それだけ多くの人が訪れるということのようだ。

定光寺駅。庄内川にへばりつくように駅が設けられている。右側のトンネルは現行の愛岐トンネル。

廃墟・廃屋が並ぶ定光寺駅周辺

定光寺駅を多治見方面に300メートルほどしばらく進み、上に登ると平らになっている。ここで入場料を払い、スタート。右手を見ると玉野第三隧道(3号トンネル)。デゴイチが描かれた暖簾をくぐってトンネルに入る。トンネルの長さは76mとそれほど長くないのだが、暗いトンネルを進むとそれ以上の長さがあると思ってしまう。トンネルを出て赤、黄色に染まる紅葉を楽しみながら、進んでいく。途中、古レール再利用の落石防護柵があり、「KRUPP 1903 Ⅹ」などと刻印が残ったレールも使われている。

うれしいのが、隠山第一隧道(5号トンネル)手前にあるマルシェ。お弁当を食べたり、名物のクラフトビール「春日井ビール」を注文し、道端に座って一休みする人で賑わう。筆者は日本酒をくいっと一杯。

公開日は毎年春と秋の数日間

玉野第三隧道(3号トンネル:名古屋側)

トンネルを出ると古レール再利用の落石防護柵があった

看板の地図

廃線跡ではちょうど紅葉が楽しめた

玉野第四隧道(4号トンネル)の入り口内。蒸気機関車の煙のすすがいまなお残る

庄内川に沿って廃線跡が続く

隠山第一隧道(5号トンネル)前では、飲食店(マルシェ)が出ており、ちょっと一服ができる

今回の目玉は、隠山第ニ隧道(6号トンネル)だ。公開されている4基のトンネルの中で全長333メートルと一番長いトンネルである。注目されるのは、「インバート」という技術を採用していること。インバートとは「掘削断面の底部に仕上げられた逆アーチ形状部分の呼称」のことで、地中までアーチを造ることで断面を完全に環状にして、軟弱な地質でも耐えうるように強度を増す技術のことだ。このトンネルでは入り口の地下を掘って、そのインバートの技術を紹介している。

手前3つのトンネルと違い、さすがに全長300メートル超え。懐中電灯をともして歩いていくがその暗さにはびっくりである。
このトンネルはもともとは60メートルほど短かったという。しかし、崖が2度も崩れたり、トンネル完成後もなんどもひびがはいったため、トンネル部分を延ばしたのだ。

隠山第ニ隧道(6号トンネル)を抜けるとすぐに愛知県・岐阜県との県境にぶつかる。しかし、公開はここまで。岐阜県のトンネル群は地権者と話し合いがつかないということで、発掘・整備・公開はいまだ未定なのである。

隠山第ニ隧道(6号トンネル)

インバート

使われたレンガの生産地もさまざまだ

暗い隠山第ニ隧道(6号トンネル)の中。懐中電灯だけが頼りだ。


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著者プロフィール

上杉さくら(ライター)
某出版社の元編集&ライター。最近の関心テーマは、クラシックカメラ、交通以外に、離島、山城、グルメ、歴史、新聞学など。コレクションとして戦前の日本・極東の彩色絵葉書・写真など。

コラム連載『ちょっとシュールに「猫街鉄道放浪記」』(2008年1月~2012年3月/マイナビニュース)
『PENTAX Q7撮り方ハンディブック』(共著・2014年6月/マイナビ出版)『Nikon D5500 & D5300ハンディブック』(共著・2015年12月/マイナビ出版)ほか。