第4回 福島県三春町の「in-kyo」|くらしの本棚

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第4回 福島県三春町の「in-kyo」

この度、フリーライターの私が、取材の合間に寄り道したり、誰かに連れて行ってもらったり……。
そんなお店をご紹介する連載を始めることになりました。
とは言っても、私は元来マメな性格ではないので、話題の店にすぐ足を運んで……というショップ紹介ではありません。
日本のあちこちに、わあ、なんて素敵な場所だろう……と心を震わすお店がある。そこには、必ず素敵な人がいる。そんな出会いを、ご紹介できたらいいなあと思っています。

東京、蔵前にあった「in-kyo」が惜しまれつつ閉店したのは、今年2月のことでした。
その後、店主の長谷川ちえさんは、ご結婚されて福島へ。
そして、4月15日に、新たな土地での「in-kyo」がオープンしたのです。

場所は、福島県田村郡三原町。
のどかな町の商店街の中にあった元美容室を改装したそう。
青いタイルの外壁が、どこかモダンで懐かしい……。
目の前にはスーパー「ヨークベニマル」があり、地元のおじさん、おばさん方が、買い物帰りに立ち寄ってくれることもあるのだとか。

店には大きな窓があり、ちえさんは、店番をしながら、窓の外で繰り広げられる、おばあさん同士がバス停に座っておしゃべりしていたり、高校生のカップルが歩いていたり、と、この町の日常を眺めるのが何より好きなのだと言います。

私が、初めてちえさんに会ったのは今から13年ほど前のことでした。
当時「おいしいコーヒーを入れるために」という本を出されたちえさんにコーヒーの淹れ方を教えてもらう取材で、でした。

それから、細く長くおつきあいが続き、私が、「一田食堂」という本を出したときには、我が家でのご飯シーンに登場していただいたことも。
やがて、蔵前に「in-kyo」をオープンされ、お店にも、ご自宅にも、『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)や『暮らしのまんなか」(地球丸)などの取材で伺いました。
時には、仕事を離れてご飯を食べに行ったことも。会うたびに思うのはちえさんの飄々とした優しさ。決してべったりとするわけでなく、適度に淡々とし、でも、いつも相手の立場や気持ちを考え優しく受け止めてくれる……。
私よりずっと年下なのに、その懐の深さに、いつも、暖かい気分にさせていただくのでした。

今、新しい店に並ぶのは、ちえさんが、出会い、手に入れ、暮らしの中で使ってみた器や道具たち。
宮下智吉さんの漆の器、くまがいのぞみさん作の器、山口和広さんの木の皿、箒やブリキの箱、かごなどの日用雑貨……。
どれも、蔵前時代から大切に育て続けてきた作り手さんたちとのやりとりを継いで、ここ福島までやってきたものばかりです。
また、徳島「アアルトコーヒー」さんのコーヒー豆や「マリールゥ」のパンケーキミックス、そして、地元の野菜などおいしい食材も販売しています。

訪ねて行ったら、三春での暮らしについて話を聞かせてくれるはず。
近所の「三春の里、田園生活館」には、温泉や野菜の直売所がありますし、春になれば、国の天然記念物にもなっている、樹齢1000年以上という「三春の滝桜」を見ることもできます。
in-kyoを拠点に、三春の町の四季を愛で、おいしいものを探す旅を計画してみるのも楽しいかも。

あの、「ヨークベニマル」では、三春の名産品、三角油揚げや「三五八」(塩、米、米麹を、3:5:8で混ぜたもの)などを手に入れることができます。
その町の日常に、ちょっとお邪魔して暮らすように過ごしてみる。
それが、「in-kyo」を訪ねる楽しさのような気がします。

in-kyo
福島県田村郡三春町中町9
☎0247-61-6650
営10:00~17:00
水・木曜日休
http://in-kyo.net/


【201704旅行・東北】

プロフィール

一田憲子(著者)
1964年生まれ。編集者・ライター。OLを経て編集プロダクションへ転職後、フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などで活躍。企画から編集を手がける暮らしの情報誌『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社)は、独自の切り口と温かみのあるインタビューで多くのファンと獲得。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、これまでに数多くの女性の取材を行っている。著書に『「私らしく」働くこと』、『ラクする台所』(ともにマイナビ出版)などがある。