第13回 春色のお菓子焼きと、さくらケーキ|くらしの本棚

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第13回 春色のお菓子焼きと、さくらケーキ

takako@caramel milk tea稲田多佳子さんがお菓子を焼く日々のあれこれを綴るエッセイ。
おまけのおいしいレシピもご紹介します。

贈るお菓子を焼きたくなる。お菓子を焼いて贈りたくなる。桜のシーズンを迎えようとしている今、そんな気持ちを感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
年度末から新年度へと移り変わる3月から4月は、別れと出会いの季節。お世話になりました、あなたがいてくれて楽しかった、これからも元気で頑張ってね。知り合えて嬉しい、仲良くしてね、これからよろしくお願いします。さり気なく、それでいて丁寧に心を伝えられるのは、バレンタインやクリスマスよりもむしろ、春なのかも知れないと感じています。

そして春は、私の中で一年でいちばん、可愛らしい形をしたお菓子を作りたくなる季節です。
マフィン型、パウンド型、丸型、ロールケーキ用天板、ホーローバット。それから、陶器のココットと、紙製のベーキングカップをいくつか。シンプルで使い勝手よく、守備範囲の広い実用的なこのあたりの型があれば、焼き菓子一通り、変化も楽しみながら焼けるから、型はもうあれこれ必要ないのかも、なんて思うことも増えたのですが、だけどやっぱりお菓子作りって夢を感じられる世界であって欲しいし、実用的にだけ徹することなく遊び心の部分もなくさないでいたいなぁ、とも思っていて。

今日はどんな形に焼こうかと、お菓子の焼き上がりをイメージしながら型を選ぶのってウキウキするし、可愛らしい形をした型、お気に入りの型を使うと、気持ちが華やいだりするものだから。フラワー型やハート型などは特にそうで、ときめきさえ感じます。

余談ですが、先日、久しぶりに型抜きクッキーを焼いたんです。型抜きクッキーって、生地を伸ばしたり、冷やしたり、型で抜いたりする上、作業スペースも取るし、小さな抜き型を洗う手間も必要。私には面倒度かなり高めということもあり、全く頻繁には作らないのですが。いざ作り始めると楽しくなって来て、焼き上がりの嬉しさと達成感に、大きな満足感を味わったりしていました。

去年、持ち物と収納を見直そうとお菓子道具を少し整理した時、「そんなに使っていないクッキーの抜き型、たくさんあっても仕方ないから、思い切って整理してみようか。」と、わりと真剣に考えたんですが、「いや、決断するにはまだ早いかも。もう少し寝かせておこう。」と、思い留まったんですね。

いつ以来かの型抜きクッキー作りは、どうしてだかその手間が面白いとすら感じられて、「あの時思い留まって良かった!」と、本気で思いました。こんなことがあったりするから、なかなかスッキリとは暮らせない(苦笑)。

たまに使うからこそ、その時の幸せ感や充実感が上がる、みたいなこともあるのでしょうね。何を、どのくらい持って、どんなふうに暮らすのか。私には永遠のテーマです。

さて、春のお菓子と言えば、断然いちご!だったのですが、何故だか今年はいちごよりも桜に心惹かれ、桜サブレ、桜の蒸しケーキ、桜の浮島など、桜が香る甘じょっぱいお菓子をちょこちょこと作っているこの頃。その中から今日は、桜餡をたっぷりと混ぜ込んだ桜のバターケーキを、フラワー型で焼いてご紹介します。こちらの型、ポコッと盛り上がっている花びらの部分がカットする際のガイドラインにもなり、上手に等分に切り分けられるという賢さも兼ね備えていて、便利なんですよ。

デコレーションなしのそのままの焼きっぱなしで十分に見映えがするから、気軽なおもてなしにいいし、おやつにこんなケーキがテーブルに焼き上がっていたら、何気ない日常がちょっぴり特別なものにも感じられそう。

無条件に可愛いお花の形は、女性に向けてホールごと贈り物にしても素敵なんです。透明フィルムで包んで、リボンを掛けて。喜んでもらえること、請け合いです。

さくらケーキ

材料(直径約16cmのフラワー型 1台分)

  • A 薄力粉 90g
  •   ベーキングパウダー 小さじ1/8
  •  
  •   バター(食塩不使用) 90g
  •   卵 2個
  •   粉砂糖 80g
  •  
  • B 桜餡 120g
  •   生クリーム 30g
  •  
  •   桜の花の塩漬け 10g
  •  
  • 仕上げ用・・・粉砂糖(溶けにくいタイプ)適量

下準備

・卵は室温に戻す。

・桜餡と生クリームを混ぜ合わせておく。

・桜の花の塩漬けは、水にさっと通して塩を軽く落とし、キッチンペーパーで水分を除いて細かく刻む。

・型にバター(食塩不使用)を塗って、粉(強力粉又は薄力粉)をはたく(共に分量外)。

作り方

① 耐熱の容器にバターを入れ、電子レンジか湯煎にかけて溶かす。オーブンを170℃に温める。

② ボウルに卵を入れてハンドミキサーでほぐし、粉砂糖を加え、湯煎にかけて高速で泡立てる。生地が人肌程度に温まったら湯煎から外し、さらに高速で泡立てる。生地をすくうとゆっくりと落ち、ふんわりと積もるくらいになればOK。

③ バター(2~3回に分けて)、Bと桜の花の塩漬けを順に加え、その都度ハンドミキサーの羽根で底からすくうように混ぜる。

④ Aをふるい入れ、ゴムベラに替えて、手早くかつ丁寧に、ムラなく、ツヤよくなめらかに混ぜる。

⑤ 型に流し入れて表面をならし、170℃のオーブンで40分ほど焼く。すぐに型から外し、ケーキクーラーに取って冷まし、好みで粉砂糖をふって仕上げる。

プロフィール

稲田多佳子(著者)
京都に生まれ育ち、現在も京都で暮らす。
HP「caramel milk tea」 で手作りお菓子の写真を掲載したのがきっかけとなり、2004年にお菓子のレシピ本を出版。以来、年に数冊のペースでお菓子やお料理のレシピ本を出版している。代名詞といえば、焼きっぱなしの焼き菓子とロールケーキ。ひとくち食べると思わず心も笑顔になるような、毎日でも食べ飽きず作り飽きることのない、簡単でやさしい味わいのお菓子作りがモットー。
日本茶インストラクター、ティーアドバイザー、ジュニアオリーブオイルソムリエを取得。